星谷コウ

星谷コウ

最近の記事

監獄写像

俺は今、ワシントンDCのラビットバレー刑務所にいる。 アンネ・フランクはキティっていういくらでも話を聞いてくれるイマジナリーフレンドと暮らしてたみたいだけど俺も頭の中では常に架空の友達に語りかけてるよ。寂しがり屋で空想癖があるからな。 誰でも知ってることなんだが、この刑務所には刑務官はひとりもいない。それでも世界一厳重で過酷な刑務所なんだよ。 ここに入る前の俺は、カレッジで発煙反応の研究をしてたんだけどほんとにずっと寝てないもんだから、イライラして卒論にケチつけてきた融

    • アパートの下の階に奇妙なジジイが住んでいた話

      2017年に大学に入ると同時に京都に引っ越した。  親の知り合いが京都で不動産をしていたため、平均程度の家賃だがかなり広く、その代わり浴槽に水を貯めてガスで温める風呂釜式の風呂しかついていない築40年以上の古いアパートに住むことになった。  住み始めて3年くらい経って気づいたことだがこのアパートには妖怪のようなジジイが住み着いていた。  初めに彼に遭遇したのはアパートの駐車場でだった。  原付で家に帰ってくると、そこには見慣れない細身でサッカーが好きな小学生をそのまま不潔に歳

      • 目には目を

        山本は目が覚めると自分が辺り一面真っ白な場所にいることに気がついた。 目が覚めると駅のホームだったことや知らない人の家だったことはあるが、こんなに不可思議な場所で目覚めたことは無かったので、彼は横になったまま声も出さずに驚愕した。 そうだ、俺は死んだのだ。と山本は思い当たった。 彼は会社の先輩である宮代に、半ば強制されるような形で借金の連帯保証人の欄に自分の名前を書かされた。 半年ほどして宮代は会社に姿を現さなくなり、かわりに山本の家の前に大声で怒鳴る男たちが現れるよ

        • 真実の口

          私は新しい仕事先が見つかるまでの休暇を利用して貯金を切り崩してイタリアに観光に訪れていた。 今年で35になるが機会に恵まれず海外旅行をするのは初めてであった。 お菓子の箱のようなカラフルな家が立ち並ぶチンクエ・テッレや遠くから眺めると町自体がひとつの建物だと錯覚してしまうほど全ての建物が真っ白な壁で統一されたオストゥー二など名の知れた観光名所はいずれも私を魅了したがとりわけローマのサンタ・マリア・イン・コスメディン教会にある真実の口はとりわけ私の心を惹き付けた。 私は、

          ポチャーコ・ボール・ラン

          最近鬱が大きくて学校、就活、生活、金銭状況、体調、人間関係、など何のことを考えても不安や尚早が先にあるのでどんな料理も腐った牛乳をかけたら不味くなるのと似た感じで気分が最悪になっていました。 バイト先で流れているBGMみたいに「何をしても意味無い…」という感じの自動思考が止まらなくて本当に何も動けない状態でした。(何も出来ないというのは誇張で本当はなけなしの気力を振り絞ってロックマンのゆっくり実況とかを見ていました) かなり限界だったので色んな人に電話しましたが風邪ひいて

          ¥300

          ポチャーコ・ボール・ラン

          透の反抗期

          透は物心が着いた時、自分は物に触れないことが出来ることを知った。 いつからそうなのか透には分からないが、知らないものや興味がないものが自分にぶつかってきた時にそれは自分の身体をすり抜けていったし、脳内にノイズを意図的に流すような特徴的な集中の仕方をすれば自分の意思でも壁を抜けたり閉ざされた金庫に入ったりすることが出来た。服のような無意識に自分の一部と思い込んでいるものは自分と一緒にすり抜けることが出来たが、金は金庫をすり抜けないので金庫から金を持ち出すこと

          透の反抗期

          フジツボ

          フジツボ(藤壺、富士壺[注 1])は富士山状の石灰質の殻をもつ固着動物である。大きさは数ミリメートルから数センチメートル。甲殻類、フジツボ亜目に分類される。(出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』)  外の天気は昼間の浴室のように中途半端に乾ききらない曇りで道行く人の気分は少なからず湿度に影響を受けたが、自室に引きこもって友人を殺すことを計画している岸壁には気候は何の影響ももたらさなかった。  誰にも罪を問われない殺人の方法は、それが明るみに出ないこ

          幸福論

          過去の事を思い出す時、それは実際にそうであったよりも魅力的な表れ方をする傾向がある。 例えば小学生の頃、友達と集まったはいいものの何をして遊ぶか思い当たらず退屈した経験があるのだが、今思い返すとそれはスタンド・バイ・ミーに対して感じるのと同じような気持ちを引き起こすような魅力的な思い出のひとつとして思い出される。 しかし、その当時の僕の頭の中にあるのは生々しい退屈さだけであって決してその時間を素晴らしいものだとは感じていない。つまり時間が経過することで僕は過去の自分に偽りの幸

          トゥクトゥク

          25歳くらいの頃に、私は東南アジアで安宿に寝泊まりしながらふらふらとあてもなく過ごしていた時期がある。目的は完全な好奇心で、屋台の見たことの無い果物で作ったジュースを飲んで舌をひりつかせたり治安の悪そうな場所をわざと冷やかすつもりで歩いたりすることが楽しかった。しかしそれらを思い返すとどうしても嫌な記憶がついてまわる。 タイかラオスかの国境辺りを散策している時、大使館の前に変わった三輪車があるのを見つけた。座席は駅にあるようなベンチと全く同じような見た目をしているが進行方向に

          トゥクトゥク

          猫棺

          俺はベッドの上で肺の入口が小さくなるような胸糞悪い感覚を抱えて目を覚ました。それは今日に限った話でない。日々を生活するだけであてもなしに砂丘の中を歩いている気分になってしまう俺にとって朝は砂丘の入口だからだ。希死念慮が俺の脳に薄い膜を張っていてずっと砂丘から出たいと思っている。少し涙が出ている目を擦りながらベッドをおり、半開きのドアのノブに手をかけると常日頃慣れ親しんだものとは全く違う冷たさが手から心臓に走った。そしてそれはどれだけ力を込めて動かそうとしても少しも動かない。ド

          鉄塔

          テレビの「抱かれたい芸能人ランキング」を見てハグされたいって意味だと思ってた頃、その頃の俺が純粋無垢だったなんて言うつもりはない。単に知識がなかっただけだ。あのころの俺は当時大きく見えた大人達なんかよりよっぽど利己的で残酷だった。 子供の頃は良かった。なんて昨日見た夢も覚えていないような奴らは口を揃えて言うが俺は鮮明に当時の不快と不自由を覚えている。 まず毎朝決まった時間に叩き起されるなんてのがダメだ。突然部屋の電気をつけられて致死量の光を弛緩しきった脳に浴び、布団を剥ぎ取ら

          霊感があったころの話

          僕がまだ4歳になる前まで、家族の中で母親の次にアパートの近くの母方の実家に住んでいるおじいちゃんと仲が良かった。 おじいちゃんとの思い出で記憶に残っているものはほとんどないが、おじいちゃんは本当に僕のことをかわいがってくれて母の兄の部屋で一番好きな梅干を食べ、梅干しの種の中に入っている白い実、「仁(にん)」を一緒に食べたことは覚えている。 おじいちゃんは僕の4歳の誕生日に亡くなった。 葬式の時の記憶は全然ないが母から聞いた話によれば、当時葬式とか死ぬこととか全然わからなかった

          霊感があったころの話

          人参失格

          生来の内気な性分でずいぶん損な人生を送ってきたものだ。 一切のことに興味が湧かず自分に関係のないことが全て無意味だと思うような性格であったのだ。 まるで植物のようだと自分でも思うのだがそれは人参が赤いのと同じように先天的なものでありどうしようもないしどうにもならない。 人間の感情がどうにもわからぬ。他の人が笑っているのを見てもちっとも愉快にならないしなろうとすれば調子が狂う、きっと有象無象の頭の中にあるのが脳みそなら私の頭の中にあるのは無味乾燥なバーミキュライトなのだ、そこに