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原稿ができるまで

人の話を聞きながら、メモをとる。
なるべく相手の目を見て。相槌とうなずきはたっぷりと。

取材後、録音した音を聴きながらメモの上に書ききれなかったことばを追記をしていく。
「テープ起こし」と呼ばれる作業で、取材をした人の多くは、この時間と向き合うことになる。
現在は、このテープ起こしに便利なツールがたくさんある。音声を自動認識してつらつらと文字に起こしてくれるものや、音声の速度や早送り・巻き戻しをショートカットキーで変更できるものもある(わたしが会社員のときに使っていたから、もはや古いのかもしれない)。
フリーランスになって、いくつかの方法を試してみたが、わたしは最もアナログな方法を選んでいる。

ことばをひとつひとつ手で紙に書く。相手のおしゃべりの速度によっては、走り書きになるが、ことばを自分の中に入れるにはちょうどいい。1時間でも2時間でもそうやって、地道にことばを拾っていく。なるべく一言一句、違わないように拾う。

「タブレットは使わないの?」と訊かれたこともあるが、紙がいいのです。
話を聴きながらペンを動かし続けて、心が動いたところや話の確信になりそうなところにマーカーをひく。この話は、ノートの右ページの真ん中あたりに書いてあったな、と前後しながら構成を練る。
構成が複雑になる場合は、小さいメモにテーマになりそうなものを書き込み、それぞれを切りはなす。そして、流れができるように置いてみる。

……こんなことを書いているのは、仕事仲間の編集者に「原稿って、何を経て書いてるんですか?」と訊かれ、何の気なしに答えたらすこし驚かれたからかもしれない。
いや、書いて提出した原稿の、生まれるまでを訊かれたのは初めてだったから、嬉しかったんだ、きっと。

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