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もう元にはもどれない

朝、取材に向かう。
駅までの緑道。
ここにいる植栽に「おはよう」「おはよう」と挨拶をする。

このところの太陽は、まぶしい。
「実は、目がしょぼしょぼしてイライラしたことがあります。反省しています。ほどよく暖かい日差しをありがとうございます」
お日さまに告白。
乗ろうとしていた一本前の電車に乗る。

***

取材先は、高齢者のためのシェアハウス(ケアハウスと呼ぶ)へ。ここに住む70代の美和子さん(仮名)へのインタビュー。
「食べるものが大好き!」ということで、お気に入りのパン屋、和菓子屋……おいしい話をたくさん聞く。
高次脳機能障がいという、記憶をつかさどる部分でうまくいかないことがあるそう。だが、固有名詞が「あれ」でも雄弁な美和子さんにぐんぐん引き込まれる。「おいしいもののことを話したい」という共通の想いが重なり、盛り上がった。
「わからなくてもね、聞けばいいのよ。みなさん教えてくれるわよ」
電車にもバスにも乗って、東京中を自由自在にお出かけをする美和子さん。
今度は、美和子さんのお出かけに密着取材をしてみたい。

***

コレド日本橋へ移動して、コーヒーを飲む。原稿をすこし書いてから、三越前駅まで歩く。
日本橋にかかるところで、大きな工事をしている。
閉ざされた仮囲いの扉があき、2人の作業員が出てきた。
これからトラックが通行するようで、前を通る人たちに注意を促している。

2人は、これから舞台の幕が上がることを知らせる支配人と演者のようだ。
うやうやしい人と、どんと構える人。
2人の間からは、悠然たるダンプカーが登場する。

ここ一番の見せ場に出合えた幸運を噛みしめつつ、目の前の信号が赤になったことをいいことに、出発シーンを見守ろうと仮囲いのすみに移動する。

「渡っても大丈夫ですよ」

支配人が案内をしてくれる。さすが、しごでき(仕事ができる人)。
お手間をとらせるわけにはいかないので、素直に交通島(長い横断歩道の真ん中に設置されている島、こういう名前なのをはじめて知った!)へ。そこからダンプカーを見送る。

***

これもひとえに、映画「PERFECT DAYS」を観たからだ。
もう元にはもどれなくなってしまった。
心がどんどん動く。観察力が上がる。表現がしたくなる。

いつかのフランス・ナントの。



〈お知らせ〉
ポッドキャスト新番組、はじまりました!

その名も「炊き込みご飯わくわく舎」。友人の石崎さん、藤村勇人氏と料理やごはん、気になるあれこれについて、ざっくばらんにおしゃべりしています。

opening voice:すみとさわ
illustlation:小澤ユウ

▼「炊き込みご飯わくわく舎」
Spotify、Apple podcastにて聴取可能

📻番組概要
料理やごはんに関心のある30代、石崎・フジムラ・あずあずの3人が、身近な食材や台所事情などの話題を中心に「あくまでラフに」好き勝手話す雑談Podcast。
専門的なテーマや学びになる会話はほぼありませんが、単純にごはんが好きな方、食材や調味料に関心がある方、30歳を過ぎて急に料理をし始めた方やもっと料理したいけどまだハマってない方、技術も知識がなくても食自体に興味がある方、つまり自分たちと似た境遇の方はきっと気に入ってくれるはず……!
庶民派ごはんPodcast「炊き込みご飯わくわく舎」は毎週月曜夕方17時ごろ配信です。


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