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#11日目: 辺境音楽で踊ろう

1.「ディスクガイド」とは

ディスクガイド」というジャンルがある。

街なかでdiskunionの袋を持ってホクホク顔で歩いているおじさんや、僕らみたいな音楽オタクのDJしか読んでいないようなヤバい本のことだ。

中身はこんな感じになっていて、全然知らない曲がいっぱい知れる。
例えばディスコのディスクガイドなら、全然知らなかったディスコの曲がいっぱいあるだけでもヤバいのに、どんな曲どんな所が良いのか、どういったクラブで流行ったのかなどを、物知りの音楽批評家やDJが教えてくれる。

常に知らない曲を探し続けているDJからしたら、ありがたいことこの上ないのだが、その中でも今回紹介する(*1)のはディスクガイド、特にこの、soi48さんの
旅するタイ・イサーン音楽ディスク・ガイド」は2018年読んだ本の中でも極めて異質だったためご紹介したい。

2. 「soi48」とは、「モーラム」とは

soi48とは新宿の"Be-wave"という小規模のクラブ(いわゆる「小箱」)を中心に活動しているDJユニットで、2017年にはフジロック(*2) 出演も果たしている。

そんな彼らの特徴的は、タイ東北部イサーンの音楽、特に「モーラム」という音楽に焦点を当て、その研究・紹介を徹底的に行なっていることだ。

※soi48が東京に招聘したモーラムの演奏

※soi48がイギリスの名門Webラジオ、"NTS Radio"に出演したときのMix

3. 「旅するタイ・イサーン音楽ディスク・ガイド」

そんな彼らが書いているディスクガイドなので、当然のことながらモーラムの話ばかりが書いてある。

内容はというと、「1957年、サックシーが20歳のとき、ビバットとサックシーはウボンラーチャターニーで『プーヤイ・リー』のモーラム劇を…」なんて書いてあって、まず何を言ってるのか読み込まないと理解できない。情報が難解かつ多すぎて、もちろん僕自身も隅から隅まで読み終わっていない(*3)。

しかし、このディスクガイドは、一般的なディスクガイドのような、ただただマニアックだったり評価の高いレコードを一枚一枚を紹介する書き方ではなく、数々のレコード紹介を通じてイサーンの音楽シーンが直面してきたことを綴った歴史書のような書き方になっている。

そのおかげで、難解な現地の言葉を詳細に覚えなくても、本書のレコード500枚とその説明を読むだけで、戦争や政治状況など、モーラムが直面してきた歴史と、その中で連綿と音楽を続けてきた人たちの人生が感じられるのだ。

また、それ以外にもsoi48自身がタイで「ルークトゥンとモーラムのレコードを探しています」とタイ語で書かれたTシャツを着て歩き回った旅の内容、人々とのふれあい、美味しい屋台情報も、本書には収録されている。

そんな文章を通じて、soi48はこの本の中で、イサーンという未知なる土地の新しい側面を提示しており、この本の読者に新しい世界の見かたを提示することに成功している。

この点で、本書は僕が常々思っている、「DJとは世界に新しく一本の補助線を引くものだ」という考え方を体現するような一冊になっている。
既存のものでも新しいものでも、その提示の仕方で新しい世界を見せてくれるDJならではのディスクガイドだといえるだろう。

4. 辺境音楽・民謡の2018年

未知なるものを求めて、今日も世界のDJたちは新しい音を探している。
アメリカ、アフリカ、フランス、日本(*4)…ときて、どんどん世界のコアなDJは世界の辺境の地に新しい音を求めている。(*5)

本書出版は2017年なのだが、今年2018年さらにその傾向は強まっている。
「辺境音楽」およびその1つのジャンルとしての「民謡」は2018年を代表するジャンルだと言っても過言ではない。

今年はフジロックに「民謡クルセイダーズ」というバンドが出演しており、
彼らは日本固有の「民謡」を現代の音楽と混ぜ込むことによりその固有の音楽性を獲得している。
このバンドのフロントマンの一人でもあるmegさんが辺境音楽のDJであることからもわかるように、このバンド自体がDJ的辺境音楽の文脈の一部でもある。

みなさんもモーラムを皮切りに、その深淵な「辺境音楽」の世界に足を踏み入れてはいかがだろうか。

後記:
僕自身ここまでドープな辺境音楽のDJではないが、レア・グルーヴと呼ばれる似たようなジャンルのDJなので、soi48の二人の堀りかたにはただただ圧倒されてしまう。とはいえ、自分は自分の領域で負けられないなという思いを新たにできるという意味で本当に良い本だった。

自分たちの旗を立てて、「これこそが新しくてイケている」という提示をすること。それによってお客さんが新しい世界を見られること。を引き続き大事にしていきたい。

また、最近のイギリスのジャズとかについても触れたかったけど、本としてあまり出ていないので今回は割愛した。こっちはこっちで「ジャズとは何か?」を探求していて面白い。

■自分のMix

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*1 「今年のおすすめの本」と言われて今年読んだ本を思い返したけれど、
漫画からデータ分析の実用書、統計の参考書、ビジネス書、批評、ファッション雑誌、音楽雑誌まで、数は少ないものの自分自身結構とっちらかった趣味をしていて頭を抱えてしまった。
あと、フーコーの「性の歴史」が全然読み終わっていない事に気づいた。
漫画だと"Black Lagoon"の新刊が出て相変わらず最高だった。

*2 フジロックは毎年DJ的にも面白い人が出演している。

*3 ディスクガイドとはそういうものです 。

*4 近頃の和モノは一周回ってダサくなってしまっている感が否めない。

*5 そういえば今年は大御所ジャイルス・ピーターソンがキューバのコンピを出していた。


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コメント (1)
読んでも何言ってるのか全然わからん、と思ってた。けど民謡クルセイダーズ聴いて納得。意外なほどよい🤣 Don't think.FEEL.
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