「キングオブコント2022」決勝:各パフォーマンスへの簡単なコメントと番組への雑感少々

こんにちは,雀零です。
今回は気まぐれにキングオブコントを見ての感想を書き連ねておきます。

実は私,ゴリゴリのお笑い好きというわけではないのですが,それなりにお笑いに触れて生きてきたと自負してるんですよね。
いま映画や演劇に触れていることの根っこにあるのも,お笑い,とくにコントやコメディだと思っている。
だから,というわけではないですが,お笑いをある程度見てきた者として,また映画や演劇の世界もある程度知っている者として,今回のキングオブコント決勝でのパフォーマンスそれぞれにコメントしていきます。

1stステージへのコメント

まずは1stステージでの各グループについて。点数は100点満点の絶対評価です。

クロコップ

個人内点数:89
同じような芸(俗に言う「天丼」)を繰り返しつつも,見ていて飽きさせないような見せ方は見事。ただし設定上,説明口調があまりにも多くなってしまったことが難点。最後のオチの部分は本編の流れを切らないままに,しかし斬新なやり方であったのが良い。

ネルソンズ

個人内点数:90
「元彼の元に行くと見せかけて,しかし行かない」というお決まりの流れが繰り返される。繰り返しがあるのはクロコップと同じだが,こちらは元彼という他者が登場しているために説明口調に不自然さを感じさせない。その点がクロコップに勝る。ただしオチは平和な解決よりも,もう一波乱を予感させるほうが盛り上がりそのままで終われるような気はする。

かが屋

個人内点数:94
大きな動きなしに観客を引き込む,とくに冒頭,お嬢様の言葉遣いのみで一気に世界観に引き込むやり方はさすが。携帯電話の扱い,見えないマスターとの会話等,相手がいるように感じさせるための細かい演技も伝わる人には伝わる。爆発力はないが,一定の熱量が保たれる構成が好きな人には刺さる。

いぬ

個人内点数:93
やっていることはまったくもって馬鹿馬鹿しいのだが,それでも見続けさせるテクニックは見事。大したセリフがないこと,大きな動きが多いことが気にならないのもそのテクニックがあってこそ。すべてが馬鹿馬鹿しい動きを強調することに一役買っている。女性側がくちびるを突き出してキスしようと努めているところは芸が細かい。

ロングコートダディ

個人内点数:91
コック帽を被り慣れたプロの料理人であればコック帽混みの身長に慣れているはず,というツッコミさえ無視してしまえば,とくに文句の付けようがない出来ではないか。強いて言えば,オチの部分が空回りしている感が否めない。登場前のVTRで言っていた「静か」でいくのであれば,最後までそれで貫き通してもよかった気がする。

や団

個人内点数:89
全体的に芝居がかった(芝居がかりすぎた)表情,セリフ回し,動作,とくに冒頭の「それじゃこのへんでバーベキュー始めようか」という,仲間内なのに不自然なセリフはいただけない。ただし,それを踏まえても中盤以降の展開や演技はわかりやすく面白い。だからこそ序盤の謎の演技が悔やまれる。

コットン

個人内点数:95
序盤,なぜオカマ言葉を使っているのかと不思議だったのだがなんと最初から女性設定だったとは。口紅のメイクで気づくはず,ということなのかもしれないが,それにしては女性として気づかせる表象が少ないのではないか。それ以外は設定,セリフの間,セリフの掛け合い,動作の裏で発される細かい独り言など作り込まれているのが秀逸。流れを切らない終わり方もよい。

ビスケットブラザーズ

個人内点数:93
冒頭の圧倒的説明口調からは考えられないほどに,設定も演出も演技も作り込まれているのが悔しい。先のシーンで言われた言葉を返すという,お決まりのかっこいいいものがあんな馬鹿馬鹿しい格好で繰り出されるというのは斬新すぎる。オチも申し分ないが,本編と同じくらいの爆発力をもったボケで終わらせてもいいのかもしれない。

ニッポンの社長

個人内点数:88
アニメ的なカット多用の演出を舞台の暗転でやってしまうというのは,どうしてもいただけない。舞台には舞台の見せ方があるはずなのだが(だからこそ,評点後に挙手して言おうとしていた「暗転だからこそ」の利点は何かしらの媒体で語っていただきたい)。天丼での見せ方とその面白さは確かに面白いのだが,後半からは天に照らされる演出の意味がもはやわからない。

最高の人間

個人内点数:96
暗転から照明の明度を変えて過去を語るという手法は,コントの世界ではあまりなかったのではないか。なので審査員のコメントとは反対に,個人的には高く評価している。ラストのオチの部分も,ある程度予想できるものではあるが過去編の挿入によるリズムが作れているので,教科書通りと言ってしまえばそれまでなのだが面白さはある。岡野氏の緊張感は確かに伝わってきたが,園長の隠しきれない狂気として処理できる部分もなくはない。なので個人内点数と審査員のつけた点数とのギャップには少し驚いた。普段の岡野陽一を知っている人だからこその採点の低さもあったのかもしれない。

1stステージへのコメントはここまでです。個人的な点数での最高得点は,実際の審査員たちの点数とは違って「最高の人間」への96点でした。怖さと面白さがうまい具合に入り乱れた,いいコントだと思ったんですが。

ファイナルステージ

それではファイナルステージ,や団,コットン,ビスケットブラザーズの3組による追加パフォーマンスへのコメントです。点数は1stステージと同じ評価軸での絶対評価です。

や団

個人内点数:94
脚本,セリフ回し,動作は細かいところまで気が回っている。必要十分なセリフ量で本間さんが気象予報士だということを観客に気づかせ,現場の絶妙な気まづさを演出する見せ方は見事。それだけに,やはり全体的(とくに序盤)に目立つ大げさな演技と不自然な説明口調が気にはなる。あと,花火の打ち上げを示すにはSEと照明をもっと工夫したほうがわかりやすいだろう。

コットン

個人内点数:96
「舞台でタバコ」という,再現は絶対にできない小道具を持ち出しつつもタバコの煙を観客に想像させるその手法には素直に感銘を受けた。タバコの煙で輪っかを作るという遊びを貫徹している部分も,わかりやすくかつ面白い。タバコネタをもっと早くに出してくれても,と一瞬は思ったが,前フリあってのあの面白さかと思い直す。そう思わせる脚本もよくできている。

ビスケットブラザーズ

個人内点数:97
ついに(?)解離性同一症を扱ったコントが生まれたかあ,と序盤は思っていたが,どうやらそういうわけではなかったらしい。神経症という重たいものをいかに扱ってオチまで持っていくのかとソワソワしていた気持ちが裏切られた感覚を勝手に持っていたのだが,まあそれは私の考えすぎ。ただ,それほど考え込むほどのテーマを盛り込みつつ笑いを生み出すその手腕は見事。それを可能にしているのはおそらく,意味のわからないセリフの掛け合いとその間を埋めるための服の脱ぎ着という動作から生まれているスピード感。舞台上での動きも出しつつ,上記のようなセリフのスピード感も出しているという点は今回出場者の中ではダントツで秀でていたのではないか。

以上,各グループへの簡単なコメント。
両ステージで見ても個人的にもっとも好みだったのはかが屋だが,点数として一番高いものをつけたのは,優勝したビスケットブラザーズのファイナルステージでのもの。その大きな理由はやっぱり,各評の最後に書いた部分なのかと思う。笑いをとりつつ,舞台というステージを生かしつつ,自分自身の身体性も見せつつ,脚本の愉快さ・興味深さも見せる,という各点でもっとも総合的に高いパフォーマンスをしたのがビスケットブラザースだったのではないかなという印象。言葉を変えれば,コントという形態の可能性をもっとも引き出したのが彼らだった,とも言えそう。

コメントの内容について

純粋にお笑いとして見るというよりは,演技や演出の部分に注目したコメントが多いと思われるかもしれないですね。ただ,コントをやるのであれば,またはコントを評するのであれば,こういう態度は必要なのかなと思います。
「それじゃ今から俺がコンビニの店員やるから,お前がお客さんね」と観客への説明でしかないセリフが漫才での常識として許されているのであれば,コントという場所ではむしろそのセリフを発さずに登場人物が「コンビニ店員と客」だとわかるような演技や演出をしてほしい。そんな思いを個人的には持っているのです。

「キングオブコント」という番組に関して

最後に,キングオブコントの決勝戦をテレビ放送するという行為に対して思ったことを書いて締めます。
まずは先にコメントした,コントという表現形態への個人的な思いに関して。おそらくコントに関わっている芸人さんたち自身も,漫才や一発ギャグなどとは異なるコントとしての「笑い」については大いに考えていらっしゃることかと思います。実際,審査員からも照明や小道具等の演出に関わるコメントや脚本に関わるコメントが例年出ていますし。
とくに気になったのは,今年はニッポンの社長から審査員の演出についてのコメントに対する意見も出そうになっていた点です(もっとも,私はニッポンの社長のアニメ的な暗転の使い方はまったく評価していませんが)。「キングオブコント」というイベント・大会が本当にこれからのコント振興を支援していくのであれば,せっかく来ている実績ある審査員たちにごく簡単なコメントのみを求めるのではなく,もっと細かいコメントを求めてもいいのではないか。そのために放送枠ももっと大胆に取ってしまっていいのではないか。そう思います。まあ,視聴率低迷という逆風は吹き続けているわけですが。
こういうことを言っていると,おそらく「芸人にとって笑いのポイントを説明されるほど恥ずかしいことはない」という反論が生まれるでしょう。審査員たちも細かすぎる点には踏み込まないようにしているように感じられます。たしかに,実際そうです。しかしイベント・大会という形式でやっている以上,またそこに審査員という肩書きを持っている人たちがいる以上,彼らは正しく「審査し,評価する」という仕事を負っているはずなわけです。
さまざまな試験で成績の開示請求ができるのと同じように,演者が求めるのであれば審査員たちは,どのような基準で点数をつけ,どのような点を評価し,また評価しなかったのかを明らかにするべきでしょう。そして運営側は,審査員のコメントを演者たちにフィードバックするための機会・時間を捻出するべきでしょう(実は番組の裏ではすでにやられているのかもしれませんが)。

あとは,番組に対する雑感。主に苦言ですが。

  • コントの途中に舞台から離れて映し出される松本人志の笑い顔はなんなのか。せっかく演技に集中しているところを邪魔されているようにしか感じない。「松本人志はこんなにウケてますよ,視聴者のみなさんも一緒に笑いましょうね」というアピール? そうだとしたらあまりに視聴者を舐めているのでは。純粋にコントを楽しむことができる放送を望みます。

  • 去年も気になっていた,審査員席の後ろの女性たち。一般から観覧を集めたのか,それともどこかの事務所所属の人たちを画になるように集めたのかは見当もつかないですが,あれでは北の将軍の喜び組にしか見えない。正直言って不快です。まあこれも,あまり外見を気にしていないオッサンたちを呼び込むよりは見た目が華やかになるからそうしているのだとは思いますが,それにしてももっとやり方はあるでしょう。今年の決勝進出者の中で女性は一人だけでしたが,番組での女性の扱い方がそのまま,お笑い界のジェンダーバランスの写し鏡になってしまっているんじゃないですか。この点も,これからのコント・お笑いの振興を考えるのであれば検討してほしいところです。

  • ナレーションの声,元キングオブコメディの今野さんでしたね。今ではもうすっかり俳優として活動されていて,いろいろなところで目にします。『仮面ライダー BRACK SUN』の予告にも出ていましたね。楽しみにしてます。高橋さんについても,いつか募る思いを書くかもしれない。

追記(10/15)
本記事にコメントをいただけましたので,それに対する返信をここでしておきます(実ははじめてのコメントで,内心ウキウキしている)。
以下のようなコメントです。ありがとうございます。

私と同じような意見をもっている方もいらっしゃるということがわかり,どこか安心しました。
noteの他記事やツイッターその他の媒体においても,最高の人間のネタについての意見は散見されましたね。

ネタ中のカメラスイッチングについては,他を探してもあまり指摘している人はいなかったのですが,おそらくなんとなくでも感じている人は少なからずいるかと。
ただ,制作側も「大会」と「番組」との間でいろいろと試行錯誤しているのでしょう。そこで生まれる困難と葛藤が相当程度あるのではないでしょうか。
テレビ視聴者への配慮は最悪二の次としても,採点の公平性,審査員からのフィードバック等,出場者が不利益を被るような部分だけはせめて徹底して考えてほしいとは思いますね。

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