見出し画像

流浪の月

2/8

ファミレスで、家内更紗ちゃん誘拐事件の動画を見る男子高校生たち、それに気づかないふりをしているカップル、騒がしそうにする女子中学生の絵から始まる。
19歳の佐伯文は9歳の家内更紗ちゃんが雨の中1人で本を読んでいるところを誘拐する。言い換えれば助けてあげるにもなる。文は2ヶ月彼女と過ごし、捕まった。しかし手を出したり彼女に悪いことは全くしなかった。幸せな時間を過ごしただけだった。世間には青年が少女を誘拐した誘拐事件だという、真実とは違う事実だけが蔓延り、彼らは一生その事実に苦しめられることになる。文がやっているカフェcalicoで偶然再開する2人。
2人ともパートナーはいたものの結局別れて、最終的には一緒に暮らすことになる。最初は更紗が文に一方的に近づいていき、執着しているように書かれているが実際は文がもっと先に近づいていて、2人とも怯えながらも繋がりを心から求めていた。更紗の同僚の子供、梨花ちゃんを預かっていた時、更紗の元彼との揉め事で警察沙汰になり、文との状況がバレたことで、更紗は文が本当は小児性愛者ではなく、第二次性徴が来ない自分の病気への意識を誤魔化すために小児性愛者になろうとしていたということを知るようになる。
物語の最後は最初のファミレスのシーンで終わる。カップルと書かれていた男女は文と更紗で、女子中学生が梨花。2人は騒ぎになったらまた違うところに行こうと、明るく話すようになっていた。

誰もこうなりたかったわけじゃないけど、こうなりたくなかったわけでもないという、逃れられないその状況が細かいところまで描かれていて、読んでいて苦しくなる場面がたくさんあった。結局文は小児性愛者でもなかったことに驚いた。許されることも何もないのに謝らなきゃいけないということがどれだけ苦しいか。罪とはなんなのか。自分がその世界にいたとしても、私には真実など想像もできないんだと思うとそれもなんだか悲しくなった。本質的な優しさすらも、彼女たちを苦しめていることに関しても悲しかった。最後にはみんな幸せそうに明るくなれていたからよかったけど、当の最悪な人間である孝弘はどうなったのか。結局最も悪である人間がのうのうと触れられずに生きている部分に関しても、非常にリアルを感じた。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?