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クローゼット

12/22

千早茜さん著の『クローゼット』を読みました。内容は気にせず、単純に表紙のかわいさに惹かれてかったのがきっかけです。

白い箱のような外観をした服飾美術館を主な舞台として、男性恐怖症を持ちながら補修士として働く白峰纏子が、デパートのカフェでバイトをしながらボランティアとして美術館に通うようになった服が大好きな下赤塚芳に出会って少しずつ成長していく物語。この2人に加えて纏子の親友である青柳晶と、そして美術館やデパートなど彼らの周りで一緒に働く様々な人々との生活が描かれています。

物語全体を通して、ファッションに関する用語がたくさん登場します。私は服を様々組み合わせることは好きですが詳しくはなく、ガーリーだのプレッピーだのファッション用語で系統分けをすることすらできないレベルなので、たびたび登場する単語たちをそれぞれどんなものなのか1発で理解するのはなかなか難しかったのです。ですが、千早さんの書く文書から素材感や形の雰囲気、重量感などがふわっとイメージできたので、知識がなくてもなんとか追いつくことができました。

芳は多分チャラいというよりかは自分の優しさを駆使してするするっと上手く生きれるタイプなんだろうなと思いました。でも纏子やその周りの人が感じている芳の性格は最後まで本当の芳と少しずれていてような気がして、最初にレッテルを貼ってから関わってしまうとなかなか偏見って取り除けないし、自分の芯を伝えるということは容易ではないと改めて少し思わされました。そこはメインテーマではないと思いますが。でもだからこそ、そのレッテルを自分に貼り付けていた纏子が殻を破って、ずっと自分を苦しめていた人物を目の前にしても最後まで立っていられたことがどれだけすごいことなのかがより強調されていた気がします。

最後亀のタトゥーが見えたシーンは、読者である私すらも時間が止まったように錯覚するくらい驚きました。こんな残酷な結末が待っていたとは、、。自分が纏子だったら、憧れと尊敬を抱いて一生懸命残そうとしていた服を創り出していた人物が自分を1番傷つけていた犯人だったとわかってしまった時、この気持ちをどこにどう落としつけたらいいのか、どうしたらいいのか、何もわからなくなっていたと思います。芳が復讐の炎をメラメラと燃やした瞬間をしっかりと感じたのにも関わらず、犯人ではなく自分と向き合おうとした纏子は本当にかっこいいです。

晶と纏子の今回は正直共依存すぎて少し恐怖を感じました。でもその関係を周りのみんなが受け入れて尊重してくれている空間がすごくあったかくて、終始無機質な冷たい色味の美術館でしたが、そこには確かに人の暖かさがたくさん溢れていました。きっと働く皆さんにとってはあの無機質さがむしろ、服が持つメッセージや補修のためにやるべきことが直に伝わりやすく、居心地のいい場所として確立される理由なんだろうと感じます。

芳は天性の人垂らし。もし自分の身近にいたら絶対に気になっていただろうなと思うと晶と纏子とはまた違った恐さを感じます。でも纏子と芳が出会い昔のクローゼットの思い出の答え合わせができた時、これで2人ともモヤモヤが晴れて前にまた進める、ととってもホッとしましたし、奇跡のようだけど運命として決まっていたんだろうな、なんて本の中の出来事なのに運命かなんて考えてしまいました。

登場人物全員に美しさと繊細さがあって、物語の進み方もとてもゆっくりだったし、読み進める中でちょっと物語に入りにくい部分も正直なところありました。それでもその繊細さが返って美術館の気品や毅然とした雰囲気などをさりげなく表現していて、空気や色の感じがすごく想像しやすかったです。

これからも3人と、美術館で働く皆さんがが幸せに、たくさんの服に囲まれた空間で日常を生き続けられますように。

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