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夜空に泳ぐチョコレートグラミー

11/24

町田そのこさんの作品。うますぎる。短編集なのに短編集じゃない。
なぜこの題名なのか、最後の最後でやっと理解できた。


一つ目の物語は、りゅうちゃんとさっちゃんのお話。冒頭のお団子を食べるシーンを読んだ時は主人公がさっちゃん、そして彼氏の啓太。の構図だと思ったらまさかの母と息子で、そこからすでに俗にいう一般家庭とは少し違った2人なんだなと感じる。さっちゃんは強いと思う。ちょっと変わってるし時代背景が昔なこともあって、私には簡単には理解できないけどでも、りゅうちゃんを思いながらもこの街で息子を育てて泳ぎ続けたさっちゃんは強かった。
りゅうちゃんはまだ不安定で、どうなったのかは全然わからないけど、もがいている間なんだろうと思う。いつかこの街に戻ってくるんじゃなくても、何かの形で落ち着ける場所を見つけられたら良いな。そして、啓太くんに会えたら良いな。
フルーツガムの匂いとか、ざらざらのドアの感じとか、嘘みたいに情景が伝わって来てびっくりした。

二つ目の物語は、さっちゃんの息子、啓太がメインのお話。啓太はかっこよすぎて、少し大人すぎる。そこが欠点だと思った。私はまだ子供だからさっちゃんの思うことよりも啓太の切なさとか、葛藤の方が共感できた。気になったのが洋一。洋一の物語も見たかった、彼も大人すぎる。きっとその理由も何かあるんだろうな。
晴子ちゃんはすごく可愛くて、でもこれからもっと強くなって、誰にも形容できないような素敵な女性になるんだと思う。啓太と晴子ちゃんは大人になろうとしてる子供同士で、お互いを高め合う存在でしかないことがすごく温かかった。静かな女の子の変化をしっかりと見て、把握できて、尚且つ興味を持って考察できる啓太くんも最強のかっこいい男性になるんだろうな。そして洋一くんも。ここで描かれた展望台のもっと奥の場所が綺麗すぎて、澄んだ空気の感じとか、晴子ちゃんの表情とか、空以外の細かい部分まで鮮明にイメージできた。


3つ目の物語は沙世ちゃんと、環さんと芙美さんが喫茶ブルーリボンで展開する生活の物語。かなりどんでん返しだった。芙美さんがどんな見た目してるのか、どれだけ表現されてもなかなかイメージつかなかったのは多分、私の周りにおんこになりたいタイプの友達がいないから。でも本当に素敵な人で、重史さんも文雄さんも、人間的にとてもかっこいい人だと思った。環さんは本当に訳わかんない人だけど、でも誰よりも可愛らしくてピュアで真っ直ぐで、この人が一生この性格のまま生きていける世界だったらいいなって思えるような愛嬌のある人。沙世ちゃんはもっと自分を大切にしてほしい。まだまだ経験が乏しいから沙世ちゃんがどれだけの悲しみと苦しみと、孤独を抱えているのか全く想像はできないし無責任だけど、もっとポジティブに生きれるようになってほしいって思った。この物語を通して、環さんと沙世ちゃんはきっと色々な気持ちの整理がついたかけがえのない時間になったはずで、環さんはきっと素敵なお子さんを産んで笑顔で帰って来れるし、沙世ちゃんは自分がいる限りは彼氏が生き続けられるということを自分の記憶の中から呼び起こすことができて、これからはより明るく生きれるんじゃないかな。というか生きてほしい。芙美さんは最初から最後まで与える人でしかなかったけど、でも、最後に沙世ちゃんが芙美さんの正体に気づいたことは、思いがけずも少しは気持ちを軽くできたかもしれない。重かったかどうかはわからないけど。最初から最後まで嘘みたいな包容力を持った大きな人だった。そしてここで幸喜子さん改めてさっちゃんが芙美さんたちと交流があって、芙美さんは啓太くんの育児に協力していたということに驚いた。と同時に、さっちゃんはこの縁も捨てて大阪に行こうとしてたんだから恋って恐ろしいと思った。

4つ目は、唯子と宇崎くんのお話。温かかったけど、切なかったし苦しい場面が多かった。結局唯子は幸夫さんと結婚して子供を産んで、お母さんの面倒を見ながら一生この水槽で生き続けるんだろうな。結婚って怖いよね。宇崎くんのところに行きたかったはずなのに戻って来て偉いよ。すごい。そんな気持ちになった。幼い子供に共生できない人の末路を見せつける母親は恐ろしいし、それをしっかりと覚えてしまっている唯子が葛藤しながら父親と同じことをしてしまうところを見ているのが苦しかった。宇崎くんは切なすぎる。結局振られちゃうし、1人で色んな場所に行って生きれる場所を探し続けるしかない。そしてここで、りゅうちゃんがさっちゃんの顔を誤って殴ってしまった喧嘩の相手が宇崎くんだったことがわかる。これまたびっくり。そして宇崎くんはさっちゃんが好きだったと。え?なんで?申し訳なさが好意に変わることってあるんだ。宇崎くんがたまたまSAでりゅうちゃんとさっちゃんを見て、それに対して嬉しかったって思える心って本当に素敵だと思う。たとえそれが幻想だとしても。そしてりゅうちゃんとさっちゃんはまた会えたんだなって思えて私も嬉しかった。宇崎くんはSAで告白して、受け入れられて、そして振られてしまうけど、最後の最後に出た言葉が「いつかどこかのサービスエリアで会えたら嬉しい。誰でもいい、誰かの横で笑顔で暮らせている唯に」本当に良い人すぎて辛くなるくらい。それが言えるのも、それを受け入れて前に進めるのも、本当にすごいことで、私もこう思える人になりたいと思った。

5つ目は、桜子さんと夫、そして清音の物語。清音の顔があんまり想像つかなかったのはなぜだろう。コロコロと表情や纏う空気が変わったからかな?読者みんなそうなんだろうか。夫が犯す暴力のレベルが凄まじくて、読み進めるほど苦しかった。一気に読んでしまわないと暴力を受けたままの桜子さんが頭に残ってしまって、辛くて潰れそうになるくらいしんどかった。子供を産めなかったことは何も悪いことじゃないし、そもそも出産は母子共に命をかけてするもので100%はありえないんだから、そこに怒り散らかす意味がわからない。どんなに辛くても暴力はいけない。
清音がお酒に酔っ払っておかしくなってたのもただ怠けていたのではなくて、奥さんの病気で心労していたからで、桜子さんが旦那を殺そうとするもっと前に、苦しみから解放してあげたいという気持ち一つで清音が奥さんを殺そうとしていたのはちょっとびっくりだった。そこで脈の強さを知った清音に対して、願っても手に入れないものはボロボロでも大切にしなきゃいけない、と言えてしまう奥さん、この強さは一体どこから手に入れたんだろう。
桜子さんが離婚をパッと考えられないところもリアルだし、3年かかったのもリアル。そしてまさか桜子さんがあの晴子ちゃんを引き取った烈子おばあちゃんの妹だったとは驚いた。そこで繋がるのか。だから晴子ちゃんが烈子さんと住んでいた家で大きな水槽の中を泳いでいたチョコレートグラミーから、題名が夜空に泳ぐチョコレートグラミーなんだ。晴子ちゃんの物語を読んだ時、これからどうなるだろう。幸せな生活をできるだろうか、桜子さんどんな人なんだろと心配だったから、とても温かくて人の温もりを与えられる人だと分かったことに安心した。晴子ちゃんもここならきっと伸び伸び泳げる。由里ちゃんや隆くんと仲良くできたら良いな。


物語全体を通して思ったのは、情景描写が綺麗すぎるということ。頭に浮かぶ景色全てが美しくて、季節の表現がとっても繊細だった。所々かなり生々しいところがあって、読むのはかなりカロリー高かったけどそれもこういう欲も人間の大部分だよなと思った。

面白かった。今まで読んだ本の中でトップクラスでお気に入りの作品になりました。

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