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GALAXY ARROWS

~青い惑星≪テラ≫をとりもどせ!~

第1話 謎の救難信号

 どこまでも膨張する広大な宇宙――その闇を切り裂くように高速の光が飛び交う。闇の中に紛れて光を発射しあっているのは巨大な艦隊と、周辺を飛び回る小型の戦闘機たち――。劣勢に見えるのは、この銀河系を支配する、巨大惑星ネメシスの持つ軍の艦隊だ。一方で圧倒的に戦場を支配しているのは、他の銀河系からの侵略者の艦隊である。
「こちらネメシスB艦隊、これ以上はもちません!A艦隊共にまもなく撃墜されてしまいます!」
「ええい諦めるな!ここで防げなげれば、ネメシス系全てが危機に陥るのだぞ!何としても墜としきれ!」
 ネメシス軍の無線は悲鳴にも似た声が飛び交っている。しかし総司令の鼓舞空しく、戦闘機たちは次々に散っていき、艦隊も傾きかけている――その時だ。

「あれは……『オリュンポス』!司令!ギャラクシー・アローズです!!」
 劣勢のネメシス軍艦隊に近づいてくるのは、宇宙の闇の中でも白く際立つ、巨大な一機の戦艦だ。「オリュンポス」と呼ばれたその巨大な戦艦は上部に巨大な主砲を持ち、その先端が輝いたかと思うと、主砲から放たれた光は侵略者側の戦艦を正面から貫通し、真っ二つに引き裂いた。
「ネメシス軍総司令殿!こちら遊撃隊ギャラクシー・アローズです!加勢しに参りました!」
 ネメシス軍の無線に、若々しく快活な青年の声が響く。
「あぁ、あぁ……!間に合ってくれたか!」
 総司令や戦闘機のパイロットたちが思わず安堵の声を漏らした。しかし戦艦一機を沈められたことによって焦りを見せた侵略者側の攻撃が一層激しさを増す。
「時間が惜しいね、急ぐよみんな!」
 巨大戦艦オリュンポスの内部の通路を走りながらリーダーのルカが叫んだ。
「いっひひひ、また軍隊サンの援護ですか。報酬に期待しちまいますわなぁ!」
 隣を走りながらイナリが下品に笑う。
「ネメシスより向こうの方が装備が最新式なんだもん。そりゃこうなるわね」
 エレノアは走りながら、器用に手元の薄型のホログラフモニターで戦局を確認している。
「では、こちらも容赦する必要はないということですね、楽しみです」
 穏やかな口調で微笑みながら、そして心の底から出撃を楽しむようにシュナイダーが走る。
 やがて4人がたどり着いたのは、高機動小型宇宙戦闘機「ケラノース」の格納庫。矢尻のように先頭が尖ったフォルムが特徴的な、ギャラクシー・アローズの主軸となる戦闘機だ。
 シュナイダー、エレノア、イナリ、そしてルカ。4人は素早くケラノースに飛び乗る。
「みんな行くよ!ギャラクシー・アローズ、出撃!」
 ルカの声を引き金に、巨大戦艦オリュンポスから4つの光が高速で飛び出した。


「いやぁ~ニヤケが止まらんなぁ!」
 巨大戦艦オリュンポス内部、まるでロビーのように広いコックピット内で、イナリが1枚の紙きれを見ながらニマニマと笑っている。
「やっぱりネメシス軍サマお相手だと報酬額が違いますわぁ!定期的にドンパチやってくれはってもいいぐらいや」
「こら!冗談でもそんなこと言っちゃいけないよイナリ!」
 上機嫌で紙切れの数字をモニターに入力しているイナリに、ルカが一喝した。
「宇宙紛争なんてない方がいいに決まってるんだから!」
「……オリュンポス、ケラノースの整備費用、エネルギー費、武器の開発費用、食費、光熱費……」
 イナリが呪文のように唱えだすと、ルカはウッ、と言葉を詰まらせる。
「ワシが経費管理してるからいいもののやな!どっかのおひとよしさんが、毎度おひとよし価格で依頼を受けるもんだから、このギャラクシー・アローズは常にカッツカツやねん!」
「そ、それは……だって……」
「それに一番コストくってるんがそこの女や!」
 ルカが口ごもるのを他所に、我関せずという顔で部屋の隅で何らかの機械を弄っていたエレノアを指さした。
「はぁ?アタシなんかした?」
 エレノアは一応今までの流れは聞いていたらしく、顔をあげることもせず機械を引き続き弄りながら、まるで適当に答える。
「お前の無駄な発明品と美容グッズに一番予算持ってかれとんねん!」
「……ギャラクシー・アローズが弱体化して宇宙の塵になってもいいって言うなら予算削れば?」
「にゃにおう!?」
「エンジニアに予算の話するなんてマジナンセンス。それに、美容グッズはアタシっていう最高のエンジニアを維持するためのメンテナンスアイテムだから」
「前半はまぁわかるが……後半が意味わからんのじゃ!」
「まぁまぁみなさん落ち着いて。おやつの時間にしませんか。クッキーを焼きましたよ」
 ぎゃあぎゃあと荒れる空気を和ませるように、シュナイダーがコックピット内に入ってきた。扉がスライドした瞬間、クッキーとコーヒーの食欲そそる香りが辺りに漂う。
「きっと一仕事終えたから疲れてイライラしているのでしょう。糖分補給の時間ですよ」
 年長者のシュナイダーのその言葉に、イナリとエレノアは黙り込んだ。その様子を見てシュナイダーは微笑み、ルカは安堵して溜め息を吐いた。
「シュナイダー、ありがとう。僕が情けないばっかりに……」
 ルカが小声で謝罪すると、シュナイダーはふふ、と笑ってかぶりをふった。
「自信を持ってください、リーダー。私たちは貴方がリーダーだからこのギャラクシー・アローにいる。どうかそれを忘れないで」
「……ありがとう」
 さぁ、クッキーをどうぞ、とシュナイダーがルカに促したその時だった。
 ピピピピ!と激しい通知音がコックピット内に響き渡った。緊急の通信の合図だ。ルカをはじめその場にいた全員の目の色が変わる。誰よりも早くルカが操舵モニターに向かい、通信の受信ボタンを押した。
 まるで旧式のテレビの砂嵐のようなノイズがしばらく流れた。
「……悪戯か?」
 イナリが呟いたその直後だった。
「……けて……たす……けて……」
 ノイズに混じって確かに聞こえる、か細く弱々しい少女のような声を全員が聞いた。
「救難信号だ。エレノア、場所は?」
 ルカの指示を待たずエレノアは素早く操舵モニターを操作していた。しかし逆探知が成功したその瞬間、目を丸くして固まっていた。
「どうしたのです?」
「信じらんない」
 シュナイダーの問いに答えたのか、はたまた独り言なのか、エレノアは珍しくうわずった声で言い放った。
「もったいぶらずに早く教えんかい!」
 急かすイナリを無視して、再度逆探知を試みたようだが、変わらない結果にエレノアは深い溜め息を吐いた。そして意を決したように言う。
「――太陽系第三惑星から、よ」
「!?」
 エレノア以外の全員も目を丸くした。エレノアの言う「太陽系第三惑星」は別名を「死の星」として宇宙に名を轟かせる「生命が存在しないはずの廃惑星」だからだ。
「交信はできる?」
 ルカの指示に慌てたようにエレノアがモニターを弄るも、通信はいつの間にか途絶えてしまった。
「これは驚きました。あの『死の星』からの救難信号とは」
「確かに、今航行してるのは太陽系の近くなんだよね……。きっと偶然キャッチしたんだ」
「おい待てルカ」イナリが真剣な面持ちでルカに投げかける。
「お前がおひとよしなんはよぉく知っとる。せやけど今回はワシは反対や。だってあの『死の星』やぞ?生き物、ましてや人間なんか存在するわけあれへん。太陽系のどっかの惑星に住んどる連中の悪戯に決まっとる。あるいはまぁ、幽霊とか……なんにせよ一銭にもならん。止めときや」
 イナリの言葉に真剣に耳を傾けていたルカだが、その眼に宿る決意は初めから一切揺らぐことはなかった。
「イナリ、心配してくれてありがとう。でも僕は、例え相手が幽霊だったとしても、助けを求めているなら救いたい。それがこのギャラクシー・アローの存在する意味なんだ」
 その言葉にイナリはやっぱりそうなるか、というふうに肩を落とす。
「せやな!お前は昔からそうやったわ!ああもうしゃあないな!」
「エレノア、シュナイダーも来てくれるね?」
「アタシは新作ガジェットが試せるなら何でもいいわ」エレノアが覚悟を決めたように頷く。
「ふふ、なんともミステリアスで楽しそうじゃありませんか。もちろんお付き合いしますよ」シュナイダーもにっこりとほほ笑んで答えた。
「よし、オリュンポスの進行方向を太陽系第三惑星へ!『死の星』に潜入するぞ!」
 ルカの号令でオリュンポスはゆっくりと進行方向を変え、太陽系へ、「死の星」へ向かうのだった。


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