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伊豆下田の世にも奇妙な合宿所~その2~

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TVドラマ「世にも奇妙な物語」(ストーリーテラー タモリ)

その1(先週)からの続き)

「あ? おまえ、何言ってんだ!」

Nの思いもかけぬ言葉に鼻白んで私は怒鳴りました。

「ユーレイって、どこに?」と私と同輩のH。

「今、先輩方が立っている辺りです」

私は思わず後ろを振り向きました。もちろん、そこにいたのは一緒に麻雀をしていた上級生達だけで、彼等と顔を見合わせ、そして吹き出しました。

「どんなユーレイだ? 寝ぼけて誰かと見間違えたんじゃないのか?」

「髪の長い女性の……、白っぽい着物を着て、そこに立っていたんです」

「そりゃまた、ずいぶんとステレオタイプのユーレイだなあ」

とHが笑いました。

「おまえ、変な夢でも見たんだろ! いい夢が見られるようにもう一回呑み直すか? ああン⁈」

と言って、私はNの頭を引っ叩きました(しつこいようですが、当時の体育会ではフツーのことでした)。

「いえ、自分はもう十分っス……」

「だったら、もう寝た、寝た。二度と騒ぐなよ!」

その後は何事もなく翌朝を迎え、午前のうちに(入れ替わりにK大の合気道部が入ってきたこともあって)慌ただしく我々はその合宿所を後にしました。

そのまま長い夏休みに入ったので、休みが明けて大学道場での稽古が再開する頃には誰もそのことを口にする者はおらず、私もすっかり忘れていました。

しかし、その年の11月。東京・代々木体育館で我々の流派の合気道全国演舞大会がありました。午前の部を終えて、食堂で昼食を採っていると、隣のテーブルにいたK大の幹部が「おう、久しぶり」と話しかけてきました。

「ああ、夏の合宿所以来だな」

「あ、そうか。おまえらも今年の夏合宿は下田の〇〇だったよな」

私はエリート面したK大生があまり好きではなかったので、おう、とだけぶっきらぼうに答えました。がしかし、次の言葉にぶっ飛びました。

「あそこさあ、ユーレイ出なかったか?」

「えっ⁈」

「いや、参っちゃったよ。あの合宿所、ユーレイ出まくりでさあ」

「……それはいつ? どこで⁈」

「もう最初の日からほぼ毎日、部屋でも廊下でも。日中に洗面所で見たって奴もいる。はじめのうちは悪い冗談だと思ってたんだけど、見たって言うのが一人や二人じゃなくてさ……。それでもう合宿どころじゃなくなっちゃってよォ、民宿の人に頼んで、神主呼んでお祓いしてもらったんだよ。そうしたら、出なくなったけどな」

と吐き出すようにK大の彼は言いました。

「ユーレイって、どんな?」

「髪の長い女だってよ。白い着物を着ていたらしい」

私はごくりと唾を飲み下して、切り出しました。

「実はさあ、俺らも……」

私達の騒動を聞くと、彼は何故か勝ち誇ったように

「そうだろ? 出るんだよ、あそこ」と言いました。

もちろん私も、後輩のNとK大の彼が口裏を合わせている可能性を考えました。しかし、私の大学の1年生とK大の4年生に接点があるとは思えませんし、ましてや相通じているというのは極めて考えにくい。いや、仮にそうであったとしても、彼等がそこまでして話を合わせることに何の得もありません。

最初に断ったように、私は科学至上主義者です。科学的根拠のないことは一切信じません。しかし、あのことだけは……。

次に奇妙な世界の扉を開けてしまうのは、あなたかもしれません。

(この稿、終わり)

画像引用元 FOD

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