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村人の夢

※今回の夢は著しく寓話性が高いです。よって読者の中には僕の創作を疑う人もいるかもしれません。しかし今までと同様、僕は最低限の体裁を整える程度の脚色しか行なっていません。むしろ僕は自分の無意識の中にこのような寓話性を生む契機があったのか、と驚いてすらいるのです。以上の旨ご理解ください。

 僕は夢の中で小説を読んでいた。それと同時に、僕は夢の中の小説の主人公でもあった。よってこの夢には行動し苦悩する僕とそれをより高い視点から批評する僕という二人の僕が登場する。
 小説の中で僕は自分が住むべき村を探していた。僕には住む場所がなかったのだ。僕は約束をよく守る者の村を探していた。その村の皆が約束をよく守るならば、その村での生活はきっとうまくいくだろうと思ったのだ。
 僕は第一の村に到着した。僕はその村に希望を持っていた。その村には僕の大好きな音楽家も住んでいたのだ。村人たちも僕を歓迎してくれた。しかし、次第に僕はその村が期待していたものと違うことに気付いた。その村はとある邪教を奉じていたのだ。音楽家を含む村人たちも、僕にその宗教への信仰を強いてきた。曰く、「この村に住んだからにはその宗教を信じるのが約束だよ」と。僕はそんな約束をした覚えはないと答え、その村からほうほうのていで逃亡した。
 第二の村では祭りが行われていた。子供たちが黄と赤の二派に分かれて騎馬戦を行なっていた。そして大人たちもまた、黄と赤の二派に分かれて子供の騎馬戦を応援していた。いつの間にか僕は黄色派を示す黄色い法被を身につけていた。
 騎馬戦は段々と白熱していった。はじめは正々堂々と行われていた戦いにも、次第に汚い暴力が目立ちはじめた。そして大人たちはそのような子供たちの暴力を黙認した。ただ大人たちは自派の子供を応援した。
 事件は突発的に起こった。応援席にいた一人の男が、柵を飛び越えて自派の子供たちを助太刀し始めたのだ。それを見た大人たちは我も我もと騎馬戦に乱入した。はじめは大人たちも己の手足でやり合っていたが、程なくして誰かがそこに武器を持ち込んだ。武器の威力は見る見るうちに強大となっていき、ついには第二の太陽のような強烈な光が炸裂した。生き残った僕は、村人たちの身体の破片が転がる村を半ば呆れながらあとにした。
 第三の村は僕の趣味に適っていた。その村では、村人たちはみな自らの持っている物を平等に分け合っていたのだ。その村には人を縛る役場もなかった。なにかの強制によるのではなく、みなが自由な合意に基づいて平等を実現していたのだ。僕はこの村こそ真の村だと思った。そして、自分はここに住むことにしよう、と思った。
 しかし、程なくして僕はその村が自然から外れていることに気付いた。その村の住人はみな同じように思考し同じように行動した。その村が自由かつ平等だったのは、村人たちがみな同一人物であるかのように平均化されていたからなのだ。そして村人たちは僕にもそこへの同一化を求めた。彼らは「この村に住むからには言行を私たちと一致させるのが約束だ」と僕に迫ったのだ。僕はそのような約束をした覚えなどないと答え、命からがらその村から逃亡した。
 僕はさまざまな村を見て何も信じられなくなりつつあった。しかし、第四の村を目にした瞬間僕はふたたびそこに希望を見出した。その村は豊かそうに見えた。その村は全体が温泉街のような外観をしていたのだ。そればかりではない。その村の看板には、「最高の選挙」という言葉が躍っていた。それを見て僕はその村を信じようと思った。最高の選挙、そうでなくっちゃ。
 村に入っていくと、女将さんのような方が僕を出迎えてくれた。僕はこの村で住みたいという旨を女将さんに伝えた。女将さんは僕の思いを温かく認め、僕を村の奥へと案内した。そのとき、村に住む一人の女性が女将さんへ相談に訪れた。
「うちのお爺さんが年も年だし、世話が大変で……」
そう女性が述べると、女将さんは顔色一つ変えず
「それなら処理なさい」
と言った。
「そうですね、それが妥当」
と答える女性。
 僕は青くなった。「最高の選挙」とは、多数派が少数派から権利を奪っても許される選挙のことだったのか。僕は慌てて居住の撤回を女将さんに伝えた。しかし、女将さんは僕が村の外へ出ることを認めなかった。
「一度村の中を知ったからには外に出ないのが約束でしょ?」
そのような約束をした覚えはない、と僕は弁明した。
「社会との契約は普通の約束とは違うんです。社会との契約では、社会から一方的に押しつけられたものであっても諦めて受け入れないといけないんです」
そう言うと女将さんは僕の首根っこをつかんで僕を地下牢へと引っ張っていった。地下牢は殺風景で、ただ煙突のついた暖炉だけがともっていた。その暖炉を見て決心を固めた僕は、その火の中に身を投じて死のうと考えた。白い火は勢いよく僕を包み込み、次第に僕は一切の感覚を失っていった。
 このとき、読者としての僕は主人公としての僕に不満を覚えた。目次を見るかぎり、この本にはあと二~三章の続きがなければいけないのだ。また主人公が自殺して終わるという結末も読者としての僕の想定に反していた。僕は、その本の主人公が最後の村にて死にたくとも死ねない永遠の生き地獄を体験することになるという情報をあらかじめ知っていたのだ。また読者としての僕自身も、主人公が自殺する結末よりは苦しみながら生き続ける結末の方が好ましいと思っていた。そのような結末の方が面白く、また僕たちの実情に近しいからである。

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