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漂流の夢

(これは今朝僕が見た夢の記録である。今朝の夢は、「俺」を自称する僕以外の人物の一人称によって進行していった。また僕から見たその夢は、カメラワークその他において非常に映画的な性質を持っていた。それゆえ今回の夢日記は小説ではなく脚本の体裁を取る)

○1 洋上

鉛色の曇天と黄色く濁った海、その海の上を「俺」のボートと「教授」のボートが二艘並んで進んでいる。俺は髭を伸ばしている。教授も決して綺麗な姿ではない。二人とも手にオールを握りしめ、懸命にボートを漕いでいる。そのさまを俺の視点ショットで撮影。
俺N「この海で遭難して数ヶ月が経った」
俺「教授。なんで俺たちはずっと漕ぎ続けてるんですか」
教授「簡単な話だよ。一度方角を決めたら何が起ころうとまっすぐその方角に突き進む、それが遭難を脱する最も良い方法なんだ」
俺N「俺は教授の言うことを信用できなくなり始めていた」
俺N「たしかにまっすぐ進めば何かに辿り着くかもしれない。しかし、その何かが極圏だったらどうするんだ?」
曇天がみるみる陰っていく。俺のボートとその先を行く教授のボートの差が徐々に広がっていく。二人の進行方向に黄色いオーロラのような光が怪しく揺らぐ。暗転。

〇2 干潟

黄色い光に照らされながら、鉛色の泥の中を大勢の人間が同じ方向へ進んでいく。老若男女みなオールを手に持っており、中にはそれを杖として用いる者もいる。みな遭難したような格好。その群衆の中に俺の姿もある。群衆と俺の両方を空撮で追う。〇1よりも暗い画面。

〇3 隘路

〇1よりもはるかに暗い空に時たま黄色い光が閃く。両側をコンクリートの壁に挟まれた、用水路のような狭い道。その底には〇2と同じ泥が続いている。その通路を〇2の群衆が進んでいく。俺も同じ道を進んでいる。そのさまを俺の視点ショットで撮影。〇2よりも暗い画面。
俺N「俺はなぜこの道を進んでいるのだろう」
俺「肉はないか、ビールはないか。肉が欲しい、ビールが欲しい」
俺、立ち止まりコンクリートの壁に目をやる。壁の表面に蕪のような雑草がびっしりと生えている。スモッグを浴びて育ったようなあまり美しくない見た目。俺、雑草を引き抜き口に入れる。
俺「うまいじゃないか」
と、雑草を次々に引き抜き口へ入れていく。
俺「肉もいらん、ビールもいらん。これうまい、これうまい」
俺N「そうやって俺は見事環境に適応した。かくして俺は――」

〇4 暗闇

俺N「あの礼儀正しい虫へと退化したのである」
真の暗闇、その中をカミキリムシがかさかさと動く。僕、驚愕しながら目を覚ます。

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