多幸の夢
今朝、僕は夢の中で明らかな麻薬を摂取しました。あくまでも夢の中の話なので法には触れないのですが、それによって僕は今まで感じた中で最大の快楽を享受しました。今も僕は快楽の余韻に浸りながらPCに向かっています。あの快楽はなんだったのか。あれにまた至ることは出来るのか。そのことを知るために僕はこの文章を記録として残します。
僕の夢の中でその麻薬は「多幸ガム」と呼ばれていました。実際それはガムの形をしてキシリトールのようなボトルに収められていました。
効用は……そうですね、「ゴムで出来たブランコに身体を縛り付けられて下向きに引き伸ばされたあと手を離されたらどうなるか」を想像すると分かりやすいです。一瞬にして天高く突き上げられ、また一瞬ののちに地へ叩きつけられる。これが連続します。このように書くと快楽と苦痛が繰り返すように解釈されるかもしれませんが、実際は天も地も気持ちいいのです。脳がそのような快感を覚えるのですが、同時に背骨が弓のように歪められる感覚(それも快感です)を抱きます。
僕は多幸ガムをとある竹藪で手に入れました。その竹藪では多幸ガムの常用者による小規模なロックフェスが行われていました。多幸ガムを噛みながらロックなどの音楽を聴くと拍(ビート)とブランコの上下が同期して恐るべき快楽に至るのですが、彼らはそれを目指してフェスを行なっていたのです。また会場では、自分が天高く突き上げられている感覚を増幅させるために観客の姿をホログラムで空に投影するという催しも行われていました。その会場にて僕は訳知り顔のおじさんから多幸ガムを手渡されました。
竹藪で演奏されていたロックは夢の中の僕が聴いても稚拙だと感じられるものでした。しかし多幸ガムを噛むと感覚は一変。僕は、前述したとおりの「恐るべき快楽」に至りました。天と地を超高速で行き交う興奮、慣性の法則に背骨をねじ折られるオーガズム、「ああ、このままこの快感に浸っているのは危険だな、このままだと死んでしまうな」という恐怖を肌で感じました。また会場のスピーカーからは(おそらく無断で)エレファントカシマシが垂れ流されていたのですが、その宮本氏の歌声に僕は蕩けるほど欲情しました。普段僕はあまりエレカシを聴かないのですが、不思議なものです。
「駄目だおじさん、これ死ぬわ」そう僕はおじさんに言いました。しかしおじさんは笑うばかり。そもそもおじさんの身体もまたホログラムで空に引き伸ばされています(幻覚だったのかもしれません)。そのあとはあまりの快楽に記憶も混濁。銃を乱射するイメージがかすかに残っているのですが、夢の中の現実世界(変な表現ですが妥当でしょう)で実際にぶっ放したのかは分かりません。
かくして僕は目を覚ましました。目を覚ましてから約三十分後ですが、未だに快楽の余韻は脳の後ろ側で尾を引いています。しかし同時に離脱後の宿酔のような不快感も(軽くですが)生じています。
読者の中には「現実ではないか」と疑っている方もいると思うのですが、これはあくまでも夢の中の話です。僕は綺麗な身です。前の晩にアルコールなどを摂取したわけでもありません。よってここで僕が味わった快感は、いわゆる「脳内麻薬」の生み出したものだと考えられます。しかしなぜ僕の脳は突然ここまで大量の脳内麻薬を分泌したのでしょうか。正直、また味わいたい、という思いを抑えることが出来ません。この感覚を(合法的に)再来させる方法を知っている方は是非僕に教えてください。
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