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藤丸と波多野 朝ドラ『らんまん』にみた数々のブロマンス 

この数年テレビでBLドラマをいくつも見る様になり、最近ちょっと気づいたことがあった。BLドラマとして作られるものがいくつもあることで、ブロマンスを自分の頭の中で恋愛モノに変換(いや、妄想か)して楽しむ必要がなくなったこと。ブロマンスはブロマンスとして楽しめるようになった。

4月から9月まで放送された朝ドラ『らんまん』にはたくさんのブロマンスが溢れていた。憧れ、尊敬、友情、嫉妬、反目、侮蔑いろいろな感情の入り混じるブロマンスがいくつも描かれていた。
もちろん、主人公の妻、寿恵子はとても可愛く美しくたくましかったし、主人公の祖母も凛としていて愛情深く思いやりがあり、女性陣も皆とても魅力的だったが、私のこのnoteはBLやブロマンスがメインなので、好きだったブロマンスについて書いておこうと思う。


万太郎と竹雄

竹雄(志尊淳)は造り酒屋奉公人で、幼い頃からその造り酒屋のお坊ちゃん・万太郎(神木隆之介)の世話をしてきた。大きくなっても影になり日向になりずっと万太郎を支えてきた。万太郎が学問のために東京に上京した際にも同行し、暗く湿った古い長屋で共に暮らし、レストランのボーイをして二人の生活費を稼いで万太郎を支え、基本的に世間知らずで天真爛漫な万太郎を叱咤激励しつつ暖かく見守った。私から見れば、初代”糟糠の妻”と言える。
世間的に見ればお坊ちゃんと奉公人という上下関係だったが、幼い頃から一緒の二人にはそんなものではない強い絆があり、東京に出てからの二人は互いに支え合い、寄り添いあい、高め合う対等な関係になっていった。
プライベートでもかなり仲がよいという神木隆之介と志尊淳(もうかなり前に二人が車でキャンプにいくバラエティを見たことがある。普通にデートだった・・・)は、見た目も雰囲気もよかった。

万太郎と田邊教授

とても複雑な感情のぶつかり合う関係だった。
田邊彰久教授は、小学校中退の万太郎が高知の田舎から上京して東京大学の植物学教室に出入りすることを許すような寛容なところもありながら、万太郎のもつ植物に関する才能と運のよさに、激しい嫉妬と焦りを隠せなかった。かつて高い志を持って留学し、まだ日本では広く知られていなかった植物学という学問を苦労してアメリカで修め、帰国して東大植物学教室の教授となったのちも様々な雑事に追われる田邊には、植物の神様に愛されているかのような万太郎がひたすらに植物に向き合い、何かに導かれるかのように新たな発見を重ねていく姿が、自分とは違う特別な”選ばれた”人間のように見えて耐えられなかったのかもしれない。
万太郎を自分の配下に置くことで彼の才能をも自分の一部にして植物学でなんとかして功績をあげたかった田邊は、自分の意にそぐわない万太郎をときに激しく恫喝し、罵倒し、冷遇した。それでも万太郎は常に田邊教授への尊敬と感謝を忘れず、付き合いが途絶えてしまってからもずっと敬愛し続けた。
田邊教授は学内外で権力闘争にも巻き込まれ、また植物学の研究に中々没頭できない中で様々な落胆を味わい、そんな彼には万太郎がとても羨ましい存在だったのだろう。

万太郎に対して愛憎半ばする田邊教授の態度は、見ていてうんざりすることもあったが、彼の人物像が次第に明らかになるにつれ、かつて夢と志を抱いて海外に渡り苦労して学問を修めた田邊教授を否定的に見ることもできなくなり、彼にもいつか明るい光が当たることを願わずにはいられなかった。
朝ドラでここまでドロドロした男性同士の感情のもつれを見るとは思わなかったので、ある意味新鮮だった。
互いを認め合いながらも何故か遠ざかり、それでも互いに忘れ去って関係を断ち切ることができはしない、とても難しい関係だった。

万太郎と佑一郎

万太郎と同郷の広瀬佑一郎(中村蒼)は武士の子で、幼少期に学問所・名教館で万太郎と知り合った。この学問所はもともと武士の子弟のために作られたところで、そこに裕福な町人の子・万太郎が入ってきたことを祐一郎は気に入らなかったが、ある出来事をきっかけに二人には友情が芽生えていった。
ドラマの中ではそれほど多く出てきたわけではなかったのだが、私が最近中村蒼くんが好きなので、出てくるたびに二人のやりとりが印象に残った。
祐一郎は人生の節目節目でたびたび東京の長屋に万太郎を訪ねた。そして互いに近況を報告し、時にはほんの少しだけ弱音を聞いてもらい、大きな夢に向かって希望を語り、相手の努力や苦労を労い、再会を約束して別れた。長く別々の道で互いに頑張ってきた二人だったが、ドラマの終わりには万太郎の研究も集大成に向かう中、佑一郎はその研究を手伝い、初めて一つの同じ道を歩んだ。
歳を重ねるにつれて増していった佑一郎の包容力と鷹揚さは、中村蒼くんの持つ優しくてゆったりした雰囲気から生まれてきた気がする。

万太郎と野宮、野宮と波多野

野宮はもともと福井の学校で美術を教えていた教師だった。
田邊教授に引き抜かれて東大の植物学教室で植物画を描いていたが、その身分は植物研究者ではなく画工だった。
西洋絵画の技法を使って美しく繊細な絵を描く野宮と、どこまでも細かく植物を観察し尽くして精密にその姿を書き写す万太郎の植物画には大きな違いがあったが、互いにその描く力を認め合い、高め合った。万太郎の緻密で正確な植物画を観てその能力の高さに驚き、大いに触発された野宮はさらに研鑽を積み、彼の植物画は別の段階へと進化していった。すでに身につけていた自分の絵の上手さに慢心せず、新しい描き方に挑戦していったのだ。二人はライバルでもあり、同じ道を歩む同志でもあった。
そんな野宮の才能と努力を尊敬し高く評価していた波多野は、東大での職を辞した野宮に、自分の研究に力を貸して欲しいと打ち明けた。自分の研究には野宮の力が必要だと熱く伝えた波多野の言葉は、まるでプロポーズのようだった。
その後二人で力を合わせて研究を進め、イチョウに関する大きな発見を世界に発表するまでに至った様子は、苦楽を共にした夫婦のようにも見えた。

私が一番好きだったふたり 藤丸と波多野

私が『らんまん』の中で一番好きだったブロマンスコンビ。

二人は植物学教室のクラスメイトだった。
彼らが大学生の時に、突然万太郎が土佐から出てきて植物学教室に出入りできることとなり、彼が小学校も出ていないと聞いて最初は訝しがったが、万太郎の植物を愛する気持ち、その類稀なる観察力、緻密に植物の姿を描ききる画力、明るく屈託のない性格に惹かれて、万太郎とは親友となっていった。

藤丸次郎(前原瑞樹)は争い事を好まない、真面目で、ちょっと気弱で、心優しい青年。大学の庭で飼っていた白ウサギを可愛がっていて、心が苦しくなるとそのウサギと触れ合って心の均衡を保とうとしていた。繊細な心の持ち主なので落ち込むことも多々あったが、芯が強く、基本的には明るくて、愛嬌のあるとても可愛い人だった。
彼の無二の親友・波多野泰久(前原滉)も優しく真面目な性格で、語学が得意。外国語ができずに授業中も田邊教授から叱責を受けて落ち込む藤丸を、懸命に励まし支えた。
藤丸が精神的に落ち込んでしまって大学を休学していた時、波多野は藤丸のいない寂しさを隠せなかった。藤丸がまた大学に戻ってくることをずっと待っていた波多野。藤丸の復学時の喜びようと、藤丸の照れた嬉しそうな感じに、二人の仲のよさが伝わってきた。

その後、波多野は農科大学の教授に任命された。
学業や将来に悩み紆余曲折あった藤丸は、自分が菌類を好きだということに気づき、研究の世界に戻り、万太郎の姉・綾とその夫となった竹雄の願いもあって、後に酒造りに欠かせない酵母菌の研究を進めることになる。この時、藤丸は波多野のいる農科大学に”居候”させてもらいながら研究していたらしい。自分が大学で”居候”研究していることで、教授の波多野が周囲からの不平不満で困っているのではないかと気遣う藤丸に、波多野は”誰にも文句なんか言わせない”と言って、なんとも頼りがいのある心意気を見せてくれた。藤丸を支え、見守り、手を差し伸べ、彼を攻撃する者から守ってくれる波多野は素敵だった。

物語の終盤の二人の別れのシーンがとてもよかった。
万太郎の姉・綾と竹雄夫婦が沼津で売りに出された造り酒屋を買取り、再び酒造りを始めることになった。二人の新しい酒造りのために酵母菌の研究をしてきた藤丸も一緒に沼津に移り住むことになった。
出発前に藤丸を訪ねてきた波多野。縁台に互い違いの方向を向いて並んで座り、顔を見合わせることなく肩越しに語り合いながら別れを惜しむ二人。新天地に向かう藤丸に、波多野は餞の品をそっと手渡した。一枚の手拭いだった。そこには波多野が自分で描いたという赤い目の白兎が描かれていた。学生時代、大学の小屋で飼われていた白兎を藤丸はずっと可愛がっていたのだ。藤丸は波多野が自ら描いたというそのウサギを愛おしそうに見つめながら微笑み「下手だなぁ・・・」と嬉しそうに寂しそうに呟いた。その言葉を聞く波多野の背中がとても寂しそうだった。
私はこのシーンを見て、ブロマンスにはやはりBLでは描けない魅力があると感じた。
この二人は見た目が美形のコンビではない。恋愛要素は微塵も感じない。確かに友情だけれど、二人の繋がりはとても強く、おそらくもしそれぞれが結婚しても配偶者が嫉妬するくらい仲が良いだろうなぁと想像させる。妻でさえも立ち入れない絆があるだろうと感じさせる。
この二人を漫画で描いたらきっと綺麗になり過ぎてしまうんだろうなぁ。この二人の雰囲気はなかなか出せないかもしれない。ドラマだから描けた優しくて温かいブロマンスだと感じた。

後年、歳を重ねて白髪まじりになった二人が揃って万太郎を訪ねてきたシーンを見て、変わらずに仲がよい二人を見てなんだか気持ちがほっこりとなり嬉しかった。
BLでは描けない素敵な関係だった。










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