見出し画像

『山河令』を見終わって(2020/テレビドラマ/中国)

2022年のテレビ放送時に録画後、今年の春まで少しずつ見た。
原作は中国で人気の耽美小説(大陸ではBL小説のことをこう呼ぶらしい)で、”大ヒットブロマンス時代劇”という宣伝文句。同じように大陸の人気耽美小説を原作とした『陳情令』というドラマが世界中で人気を博したと聞いて興味があったところに、ジャンルとしては同じ系統のこちらがテレビ放送されたので見た。
普段中国語ドラマの時代劇(古装劇)は興味がなく見ないが、国の検閲に引っかからないためにブロマンスに仕上げたものの原作はBLということだったので、どんな仕上がりになっているのかは楽しみだった。

物語は愛憎入り乱れる武侠ファンタジーで、筋書きは私にとってはかなり複雑(理解度低)、大掛かりなワイヤーアクションシーンや凝ったカメラワークも多かった。中国のドラマ・映画のセットの規模の大きさや豪華さには驚かされることが多いが、やはり今回も目を引かれた。
登場人物達が老若男女ともロングヘアーと美しい衣をヒラヒラとなびかせて、時に戦い時に戯れる姿は古装劇ならでは。はじめは見慣れなかったが、物語が進むうちにこれはこれでたまにはいいかと思うようになった。
複雑な物語の筋書きの理解度"低"のまま見終わった古装劇初心者なので、物語全体の概略を説明して考察を・・・などという野望は封印し、鑑賞した記録として感想を書いておこうと思う。

主人公達が美しかった

主人公の二人周子舒と温客行は目の保養になるほど美しかった。そしてそこに周子舒を師匠としたう一人の美少年・張成嶺も加わり、様々な争いに巻き込まれながらも続ける旅の途中、時折穏やかに過ごす様はまるで若夫婦と子供の美しい三人家族のようだった。普段は成嶺を間抜けだ馬鹿だとからかいながら、一人で出かける彼を心配する客行はママ、そして心配ぶりを見かねて声をかける子舒はパパだった。
子舒と客行の二人の関係は新たな事実が判明するたびに少しずつ変わることもあったが、結局最後まで別れることはできなかった。
ラブシーンこそないものの、こんなに美しい二人がこんなにも互いを求めいたわり合い、結びついて分かち難い関係になっているのを見ると、BLとしては作られていなかったことなどいとも簡単に忘れられた。原作はBLだったと聞けば、大陸のお上からお許しが出なかった要素を勝手に補完して楽しむくらいは難しくはない。もはや何として作られたのかもどうでもよくなる。
逆に「これ、よく作らせてもらえたなぁ・・・」と私は思った。ラブシーンこそないものの、原作はBLと世界に知れ渡っているわけだし(となれば当然人はそういう目で見る)、主人公二人はとてもただの知己とは思えないほど仲睦まじく互いを想い合っている(まぁ、”人として”という切り口にはなっているのだけど)。ラブシーンがなければこれでも「はいどうぞ」と上から制作許可が出たことに、かえってちょっと驚いた。
また同時に、原作通りに作るわけにはいかない制約の中で、制作サイドが二人の濃密な結びつきを描くことを諦めずに、できる限りのところまで頑張ったのではないかと、作り手のこだわりも感じた。
BLとして制作されずともブロマンスとしては当局からOKが出て、作り手側も二人の世界観を許されるギリギリまで描こうとし、こうして作品が世に出てくれただけよかったのではないかと思った。

好きだった登場人物

周子舒、温客行、張成嶺以外に好きな登場人物達。

侍女・顧湘
温客行の侍女(自称)。客行につき従って世話をしていた可愛い姑娘。武芸が達者で、おてんばで、物言いはちょっと乱暴。でも見目麗しく、明るくて、素直で、心根は優しくて人懐こい。物語が進んで子舒・客行・成嶺の美男3人の旅のシーンが多くなると、彼女の姿があまり見られないのが寂しくてちょっと物足りなかった。くるくると表情がよく変わる生き生きとしたとてもキュートな小姐だった。何があっても決して彼女への愛が揺らがない優しい恋人曹蔚寧とのやり取りがとても微笑ましくて、いつまでも見ていたかった。
彼女には、幸せになってほしかった。

葉白衣
子舒や客行と同年代に見えるが、実はおじいさんで名の通った剣の達人。身に付けた武術の力で不老長寿になれたらしい。見た目は若いが中身は100歳くらいなので、客行と口喧嘩をしても、最後には上手く客行をやり込めてしまうところが年長者らしくて面白かった。戦えば強く、ツンとした表情と媚びない性格と美しい真っ白な衣装がとても印象的だった。”不老”かと思ったけど、物語の終わりの方では幾らか白髪が増えていた。
名前の通り真っ白な衣装を身につけていて、腕に覚えある”剣仙”なので、ロングヘアーと衣をなびかせながら剣で激しく戦うことも多かった。私の中では、男性衣装ヒラヒラ度では彼が一番美しかった。

蝎王
彼は暗殺集団・毒蠍のリーダー。義父・趙敬をひたすら慕い、義父の願いをどんな手を使っても叶えようとする。趙敬に接する時にとても妖艶な嬌態を見せることもしばしばで、一体どういう関係なのかと思っていたが、劇中で”鬼”の誰かが彼のことを”男娼”呼ばわりしていたので、そういう関係だったのだろう。確かに義父への執着や嫉妬はどう見ても愛だった。愛を求めて身を尽くしても、下卑た俗物の義父に利用されるばかりで、最後まで報われることがなかった。

BLとブロマンスは紙一重

この作品を見ていると、BLとブロマンスの間の壁がとても薄くて脆いことを実感する。”原作がBL”という事前情報も手伝って、ラブシーンがないからといって子舒と客行の間に愛がないとも言えない気がしてくる。単に友情とだけ呼ぶにはあまりにも精神的にも物理的にも近い二人の関係を描いたこの物語は、ブロマンスとして作られたラブシーンのないBLにも見えた。原作がBLなのをブロマンスに仕上げざるを得なかったわけだから、BLと紙一重の雰囲気が漂うのは当たり前といえば当たり前だが、諸事情からブロマンスとして作りながらもどこかにやはり愛を感じさせる仕上がりになっていたところに、二人の世界観を大切に表現したかった製作者達の思い入れを感じた。

今も普通の古装劇はあまり興味が沸かないのだが、『山河令』は理解度低めのままとはいえ最後まで見られたので、機会があれば世間でウワサの『陳情令』は見てみたいと思っている。



この記事が参加している募集

テレビドラマ感想文