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『ニラの復讐』(タイ/テレビドラマ/2019)を見終わって

見終わってからだいぶ時間が経ってしまったけれど、感想を。
タイのドラマはこれと『2gether』『Still 2gether 』しか見たことのない私は、タイの国についてほとんど何も知らない。かなり前にはタイ人の友人が何人かいたこともあったが、普通に時々一緒にご飯を食べたりしていたくらいなので、彼らとの交流を通じてタイの文化について理解を深めるなどということには程遠かった。彼らの中には仕草や話し方が女性的な男性も数人いたが、周りの友人の反応としては「彼はそういうタイプ」というくらいの対応だけで誰もあまり気にしていないようだったので、私も「そうか、ま、いっか」とあまり深く考えずに一緒に付き合っていた。彼らの恋愛対象が男性か女性かというような事は、確認しないと友達付き合いをするのに困るという重要事項でもなかったので、特に気にすることもなかったし、それで別に何も嫌なことも困ることもなかった。ただそんな普通の付き合いだったので、残念ながらあまりタイの事情をあまり知らないまま終わった。

このドラマは本来私が苦手な嫉妬と憎悪渦巻くドロドロな展開であったが、予想のつかない展開が面白く、BLドラマで見られるのとは違うタイの価値観を知ることもでき、とても興味深かった。

タイBLドラマ(と言っても『2gether』『Still 2gether』のみだが)を見ていた時は、タイでは性的マイノリティーの存在が普通のこととして受け入れられていて、そういった人々も社会の一員として普通に暮らせているのかと思っていたが、ニラの復讐では違う描かれ方をしていて驚いた。スキルを生かして様々な分野で活躍する性的マイノリティーの人々は描かれている。彼らは周囲から能力の高さを認められ、名指しで仕事の依頼が来る人もいれば、業界で確固たる地位を得ている人もいるほどなのだが、そのクライアントたちの中にさえ、彼らが性的マイノリティーであるということについては強い嫌悪感を持ち、時に面と向かって本人たちにその嫌悪感を吐き出す人々がいた。これはBLドラマの世界とは大きく違っていたので、かなり驚いた。このドラマでは、性的マイノリティーの人々は世の中の様々な差別と戦いながら生きていた。
ドラマの世界は何かしら誇張されているだろうから、現実のタイにはどちらの価値観も混在しながら、どちらかといえば日本より寛容、という感じなのだろうか。

ニラの父親は、ニラが幼少の頃に”女の子っぽい”ところが嫌で、かなり厳しく時に虐待とも取れる対応をしてニラの心に深い傷を残した。そしてニラは、父親のせいで母を事故で亡くしたこともあり、その父親を深く憎悪していた。しかしその父親がドラマの終わりに近づくにつれ、実はずっと彼なりにニラを愛していたことがわかってきて、ニラ同様に私も驚いた。男の子が”男の子らしい”男の子でいないことへの嫌悪感や不安や焦りは、この父親の中では理屈や理性ではどうにも納得も消し去ることもできない強い感情であったらしい。自分の息子が男子としてこの世に存在していないと知ったときの父親の驚愕と絶望と悲嘆は、見ていて複雑な気持ちにさせられた。

このドラマでまず好きだったのは、ヨドイママとそのアシスタントのベイトン。ヨドイはニラのマネージャーを務め、周囲に媚びる事なくプロとして凛として仕事をし、おそらく辛い思いもたくさんして来たからこそ心優しく、逞しい。かっこいいのだ。でも、ちょっとニラに甘すぎたかなぁ。厳しい顔をしていても、最後の最後に結局ニラのやりたいようにさせてしまって、時々それがニラや自分たちを窮地に追いやる結果をまねくことも少なくなかった。でも、いつもニラの味方のヨドイママは心強い存在だった。
ベイトンもやはりとても優しく、お茶目でおっちょこちょいでキュートで、見た目はガッチリ系男子だが心は乙女。ニラが困った時にベイトンが優しく相談に乗ってくれると、見ているこちらもほっとした。

ニラ役のバイフォーン(ピムチャノック・ルーウィセントパイブーン)さんはとても可愛く美しい上に、狂気を孕んだ精神状態の演技は大迫力だった。かわいいだけじゃなく、とても魅力的だった。
そしてベンジャン医師とチャット叔父さんの二人の大人のタイ人男性が素敵だった。特にチャット叔父さんをやっていたプッシュ(プッティチャイ・カセットスイン)さんは素敵で、タイだけでなく広くアジアで人気が出そうな魅力があった。そういえば、中国のドラマにも出たとどこかに書いてあったような・・・。日本のドラマにも出てくれないかな。もっと彼の作品が見て見たい。格好よく、セクシーさもある。ニラの真実を知った後の動揺と驚きの入り混じった不安そうな子供のような表情がとても印象的だった。
多彩なタイの俳優さん達にとても惹かれた。

タイドラマはBLだけではないのだと、私の興味を広げてくれた作品だった。

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