2016年5月11日 THE YELLOW MONKEY 再集結(代々木第一体育館)


 暦の上での夏が訪れたばかりだというのに、ひどく蒸し暑い日だった。原宿駅を表参道側に降りたときでさえもまだ、自分がこの場に立っていること、その目的を、信じることができなかった。

 THE YELLOW MONKEY再結成。

 正月早々に流れた、このデマのような文言をいったい誰が、にわかに信じることができただろう?

 それでも私はチケットを手に、代々木のあの特徴的な曲線美の建物に向かって歩を進める。やがて、黒山の人だかりと、拡声器であちこちからがなり立てられる喧騒に、ああ、これは現実なんだ、と肌で感じた。黒字に青の美しい文字。トラックが掲げた、おそらくプラチナ化した初日のチケットを手に出来なかった人に向けられたであろう、巨大なスクリーン。諦念を隠し切れず、それでもなおスケッチブックに「譲ってください」と書きなぐって所在なく佇んでいる幾重もの人々。

 この日まで生きてこられて、本当によかったと思った。会場の入り口には、開場を待つ人々がいたが、幼子を抱えた母親、中学生ほどの男の子と一緒に来ているおばあちゃん(一体どちらがファンなのだろう?)、学生風の男の子たち3人組、上着を肩にかけたスーツ姿のサラリーマン、そしてすっかり年を召してしまった、20年前は確実に乙女だった女たち。老若男女、満遍なく、この場に集まっている。

 それほど待ちわびていたのだ。この国を代表するロックバンドの再集結を。それを再び目にすることを。

 会場へと入る。多くの芸能人から贈られた、豪奢な花が立ち並んでいる。舞台正面のスクリーンには、開演までのカウントダウンと思しき数字が、秒刻みで減り続けていた。

 開演まで残すところ30分。Rooneyの「Blueside」が流れる。会場の熱気は高まる一方だった。そうだね、本当に見られるんだ。本当に本当に、見られるんだ、嘘みたいだ。

 嘘みたいだ。

 私は一曲目のイントロが流れた瞬間、言葉を失った。顔が醜くゆがんだので、慌てて手で覆う。

「プライマル」。

 まさか、いやそんな。2001年に置き去りにされたまま、一度も演奏されなかった幻の曲。15年を一気に遡ったような気圧の変化にくらくらして、ひたすら涙滂沱。最初の一音が流れた瞬間の会場に響いた悲鳴のような怒号のような歓声、感情がうねりとなって立ちのぼって行った。
 この瞬間のことを、私は生涯忘れることはないと思う。

 そうか、トニー・ヴィスコンティ…

 ボウイが旅立った、今年だから、この曲なのか。

 爆音が会場をどすんどすん揺らしている。これだこれだ、私の骨の髄まで染み渡った、イエローモンキーの音だ。吉井和哉の声、エマの艶やかなギターソロ、心に響くヒーセのベース、かろやかに胸を吹き抜けていくアニーのドラム。この「四」位一体の音が、私の胸の一番奥を容赦なくわしづかみにした。これだよ、この音…

 この音を待ってたんだ。ずっとずっと。

 「カナリヤ」、聴いていた頃リアルに19歳だった私も、もう33。代々木の大きな天井に黄色い鳥の羽のように照明が散って、とても綺麗だった。最後の「Did you sleep well?」のリフレインの時、吉井さんがおやすみなさい、のジェスチャーをした。

 吉井「オレたち普通の野良犬から、ちょっと特別な野良犬に戻ります。」からの「Welcome to my doghouse」。泣けた。解散前最後に演奏した曲。その時は「オレたち、普通の野良犬に戻ります。」だったね。あの時からきちんと言葉を継いでくれて、ありがとう。

 初日の風景は、誰もが幸せそうに体を揺らしていて、それだけにメンバーはどこか照れくさそうで、「解散させた張本人がこんなこと言うなって感じですけど、もう二度と解散しません」と吉井和哉がはにかんだ。

 なんて幸せなライブだったんだろう。なんという幸せな経験だったんだろう。

 2001年1月8日、最後の東京ドームの日。

 親に「東京なんか」と猛反対されて、ただ泣いてその日を過ごすことしかできなかったさえない熊本の高校生だった私に伝えたい。復活ライブは東京で、初日にちゃんと現地で見られるから安心しなよ、と。そしてそれは素晴らしいライブだよ。私の知る限りのどんな美辞麗句を連ねても、とても追いつかないほどに。

 ただ、それは15年後。だから強く生きて。生きていれば絶対に、彼らにもう一度会えるから、と。

(2016年5月11日)

  1. プライマル

  2. 楽園

  3. Love Communication

  4. Chelsea Girl

  5. A HENな飴玉

  6. Tactics

  7. LOVERS ON BACKSTREET

  8. 薔薇娼婦麗奈

  9. 球根

  10. カナリア

  11. HOTEL宇宙船

  12. 花吹雪

  13. 空の青と本当の気持ち

  14. ALRIGHT

  15. SPARK

  16. 見てないようで見てる

  17. SUCK OF LIFE

  18. バラ色の日々

  19. 悲しきASIAN BOY

<アンコール>

  1. Romantist Taste

  2. BURN

  3. BRILLIANT WORLD

  4. WELCOME TO MY DOGHOUSE

  5. JAM