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梅雨前線の定義と仕組みを徹底理解 ~気象予報士を目指す~

春の終わりから夏の初めにかけてよく耳にする「梅雨前線」。
暖かい空気と冷たい空気の境目である「前線」の一種のことだ、と簡単に理解した気になっていませんか??
梅雨前線は前線の中でも特徴的な性質を持っており、気象予報士試験でも毎年必ずと言って良いほどよく出題されます。正しく理解をしておきましょう!


梅雨前線とは?前線の定義からの理解

前線とは?

広い範囲にわたり、気温や水蒸気量がほぼ一様な空気の塊のことを気団と言い、周囲より相対的に寒冷な気団を寒気団、周囲より相対的に温暖な気団を暖気団と言います。この性質の違う二つの気団、寒気団と暖気団の境界線のことを前線と呼びます。

前線は、風向、風速の変化や降水を伴っていることが多く、その動きと構造によって以下の通り、温暖・寒冷・閉塞・停滞の4種類に分けられます。

気象庁HPより

そして、梅雨前線について、気象庁によると以下の通りで、

春から盛夏への季節の移行期に、日本から中国大陸付近に出現する停滞前線で、一般的には、南北振動を繰り返しながら沖縄地方から東北地方へゆっくり北上する。

前線に関する用語 気象庁

梅雨前線を形成する二つの気団は、暖気団が北西太平洋上にある「小笠原気団」で、寒気団がオホーツク海上にある「オホーツク海気団」です。

前線の予報士向け(気象庁の)定義

教科書的には前線の定義は上記の通りであり、暖気団と寒気団の境目である前線を挟むとその名前が示す通り、前線の両側には必ず温度差があるように理解してしまいます。

しかし、気象庁が気象予報士向けに発行しているテキストによると、前線の定義は、

前線とは、密度傾度の不連続面である

前線の定義と解析 気象庁

になります。
要するに、密度傾度の不連続、すなわち密度の違う空気塊の境目が前線であるのです。

では空気の密度とは何で決まるのでしょうか。

空気が完全に乾燥している状態(水蒸気を含まない)の時、気体の状態方程式

$$
p= \rho RT
$$

$$
\\ \rho:密度 p:気圧 T:気温
$$

から密度は気温と圧力で決まることがわかります。

このことから、気温の違いが密度傾度を生むため前線の前後で気温が違うということは確かだとわかります。

そして、空気が水蒸気を含んでいる場合、
空気がどれだけの量の水蒸気を含んでいるかによって、気温と圧力が同じであってもそもそも気体の構成要素が違うため(空気だけでなく水蒸気も含むため)、密度に差が出ます

まとめると、

気温もしくは水蒸気量の違う空気塊の境目が前線である

になります。

ちなみに、気温と気圧が同じ(気圧:1気圧 気温:25度)で、湿度100%の空気と湿度0%の空気の密度は以下になります。

$$
湿度100 \% の場合: 1.171 kg / m^3 
\\湿度0\% の場合       : 1.185 kg / m^3 
$$

直感とは違い、実は水蒸気を含んだ空気の方が軽いのです。

梅雨前線の特徴

ここまでの話で分かったかもしれないが、梅雨前線の特徴は『前線を挟んで温度差が小さい場合もあり、その場合は水蒸気量の差が大きい』なのです。

この「温度差が小さく、水蒸気量の差が大きいという状況」は、東西に長い梅雨前線のうち、西日本よりも西側の領域で起こります。

これは、梅雨前線の東西で前線を作るメカニズムが、温度差なのか、水蒸気量差なのかによります。

東側では、寒冷なオホーツク海気団と温暖な小笠原気団の境界で温度差が大きく、これによって前線が形成されます。しかし西側の寒気団側では、オホーツク海気団の影響が小さく中国大陸で太陽光に温められ、温度が高く乾燥した空気塊が形成され、暖気団との温度差が小さくなります。暖気団側では南側からモンスーン(季節風)によって南から運ばれた水蒸気が運ばれてくるため、前線の南北で水蒸気量に差が出ます。
この南から供給される水蒸気は、梅雨時期に九州で生じることのある線状降水帯の元にもなっています。

梅雨前線は、西日本以西(特に九州以西)で南北の水平温度傾度は小さいが、水蒸気密度傾度は大きい

この特徴は、気象予報士試験でもよく出題されるので押さえておきましょう。天気図を用いた詳しい解説は後ほど公開します。

なぜ梅雨の情報が大事なのか

気象庁は梅雨について以下のように発表しています。

梅雨は、春から夏に移行する過程で、その前後の時期と比べて雨が多くなり、日照が少なくなる季節現象です。梅雨の入り明けには、平均的に5日間程度の「移り変わり」の期間があります。この資料に掲載した梅雨入りと梅雨明けの時期は、移り変わりの期間の概ね中日を示しています。

気象庁HPより

「平均的に」「概ね」といった表現が使われていることから分かる通り、梅雨入りと梅雨明けの定義は実はふわっとしています。

では、気象予報士は、他の前線による現象とは切り分けて「梅雨前線」について詳細に伝えるのでしょうか?

それは、気象予報士が「天気の予報」の役割だけではなく「災害にによる被害の抑止」の役割も担っているからです。

梅雨のように長期間雨が降ると土砂災害や洪水といった災害のリスクが高まります。
気象予報士はこれに備えて、もうすぐ雨が続くという情報だけでなく、「土砂崩れや洪水のリスクが高まるため、避難先の確認や避難セットの準備をしましょう」といったことを伝える務めがある、と認識しておきましょう。

気象予報士が使って良い・いけない”梅雨”用語集

気象庁は梅雨に関する用語について、使って良いものといけないものを発表しています。気象予報士を目指す方は覚えておきましょう。

気象予報士が使って良い梅雨用語

  • 梅雨:単体では「つゆ」、梅雨前線の時は「ばいう」

  • 五月晴れ:梅雨の合間の晴れのこと

  • 梅雨のはしり:梅雨に先立って現れるぐずついた天気

  • 梅雨の戻り:梅雨明け後に現れるぐずついた天気

  • 梅雨入り:梅雨の始まり

  • 梅雨明け:梅雨の終わり

  • 梅雨の中休み:梅雨期間の中で現れる数日以上の晴れ、または曇りで日が射す期間

  • 空梅雨:梅雨期間に雨の日が非常に少なく、降水量も少ない場合

気象予報士が使ってはいけない梅雨用語

※あくまで予報に使わないだけで、間違った認識を与えないように注意した上での紹介は問題ないです。

  • 梅雨のような・梅雨らしい・顕著な梅雨:意味が曖昧なのできちんと気温や湿度について言及すべき

  • 入梅:梅雨入りのこと

  • 出梅:梅雨明けのこと

  • 陽性の梅雨:強い雨が降ったかと思うと晴天が現れたりするような、雨の降り方の変化が激しい梅雨で気温は高めになることが多い (意味が曖昧なので使わない)

  • 陰性の梅雨:あまり強い雨にはならないが、曇りや雨の天気が長く続く梅雨で気温は低めになることが多い (意味が曖昧なので使わない)

  • 梅雨寒:梅雨期間に現れる顕著な低温(通俗的なため使わない)


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