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ケーキの切れない元ストリートボーイたち

最近、とても稀有な読書体験をしました。「なるほど納得〜〜〜!」と頷きすぎて首がもげそうになりました。そんなカタルシス体験をくれた本とは、日本でも今話題の新書『ケーキの切れない非行少年たち』です。

友人に勧められて何の気なしに読み始めたのですが、思いがけず、本の内容が自分が日頃接している社員にそっくり当てはまっていたのです。


ケーキの切れない非行少年たち

本の内容はザッと以下の通りです。

児童精神科医の著者は、医療少年院と呼ばれる矯正施設に勤務していた。その頃、非行少年たちの中に「反省以前の子ども」がかなりいることに気づいた。凶悪犯罪を起こした自分と向き合い、被害者のことを考えて内省しようにも、その力がないのだ。学力はもちろん認知力も弱く、「ケーキを等分に切る」ことすらできない非行少年が少なくないという。
そうした子どもたちは知的なハンディを抱えていることが多く、本来は支援の手が差し伸べられるべき存在だ。だが、障害の程度が「軽度」であるため、家族や教員など、周囲の大人に気づかれることがない。勉強についていけず、人間関係もうまく築けずに非行に走ってしまう。必要な支援にアクセスできないまま、最終的に少年院に行き着くことも多い。彼らは何も特別な存在ではない。著者の算定によれば、支援を必要としている子どもの割合は約14%。つまり学校の1クラスが35名だとすれば、5人程度は何かしらの知的な障害を抱えている可能性がある。「『ケーキを等分に切れない』非行少年はなぜ生まれるのか」/DIAMOND ONLINEより


もちろん、本著の内容はすべて日本での出来事であり、著者が接してきた相手は犯罪を犯してしまった青少年です。

その点では、弊社が雇用している社員と、前提条件がすべて合致するわけではありません。が、彼らがとる行動がとても似ているのです。


元ストリートボーイ

弊社の社員は、4名のうち3名が元ストリートボーイです。

みな両親は健在ですが、さまざまな理由で小学校を低学年でドロップアウトしています。5才というほんの幼い頃に家出してしまった子もいれば、15才くらいの青年期にダルエスサラームに出てきた子もいます。

彼らは、家計の貧しさゆえに、あてもなく故郷から遠く離れたダルエスサラームに出てきて、ホームレス生活をしながらその日暮らしをしていました。

「両親が健在」と聞くと、「故郷に家があるのになんでホームレスしているの?!」と驚く方も多いかと思いますが、タンザニアにはそういう青少年がたくさんいます。

事情は人により様々ですが、

ある子は、親が再婚して継母に意地悪をされていたのが理由で、

またある子は、家に兄弟が多すぎて肩身が狭かったのが理由だったりします。

共通しているのは、小学校での勉強についていけず、途中で行くことをやめてしまっていること、そして実家が貧しかったということです。

彼らのような子たちの収入源はというと、車の窓拭きや、ティシューや車の部品の歩き売りなどです。もちろん、それで得られるお金は1日の食費に満たないこともザラです。

中には、自暴自棄になって薬に走ったり、強盗をするようになってしまう子も少なくありません。十分な教育を受けていない彼らが、負のサイクルを自分の力で断ち切ることは、決して容易ではありません。


ケーキが切れない元ストリートボーイズ


本を読んでいて、ハッとしました。それは、本に出てくる青年に共通した、

・認知力が弱いこと

・知的なハンディを抱えていること

・それらの事実が、周囲の大人に気づかれる機会を逸してしまったこと

以上の3点が、すべてうちの元ストリートボーイズと一致していたからです。

ポイントは、一度、障害の程度が「軽度」だと判断されてしまうと、たとえ本人が社会生活を送る上で支障をきたしていたとしても、それをカバーするための学習機会に二度とアクセスできないということです。

日本の教育現場でさえ、これら「軽度」の障害が見逃されてしまうのですから、先生1人に対し、100人以上の生徒が押し込められているタンザニアの教育現場(場所により差がありますが)でも同じことが起きていることは想像にかたくありません。

また、タンザニアでは、勉強ができない子は国家試験という形でもふるいにかけられてしまいます。試験にパスできなかった子達の、その後の救済措置は用意されていません。

弊社の元ストリートボーイズも、「認知力が弱く、知的なハンディを抱えている」のだと思います。もちろん、本著で紹介されているような公的な認知力テストを受けさせたわけではないので、私の推測の域は出ませんが・・。

彼らは、本著に出てくる青年のように、

・何度訂正しても同じ過ちを繰り返してしまったり、

・意思疎通がうまくいかなかったり、

・わかったと口では言うけど実際には全然わかっていなかったり

します。他にも似ている点がたくさんありました。

そこで、本著に出てくる、「丸いケーキを3等分する問題」をボーイズに出題してみました。

すると、案の定、3人のうち1人は、本著で紹介されている「認知力が弱い」と判断される人と、同じ切り方をしてくれたのでした。

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「それじゃ三等分じゃなくない?」と聞くと、今度は定規を持ってきてくれて、一生懸命線を引っ張って、またしも決して等分とは言えない図形作品を見せてくれました。(下図)

少なくとも、彼の世界の捉え方は、私のとは大分異なっているようなので、なるほど、仕事をしていても大変なはずだ、と納得したのでした。

同時に、これまで、自分の見ている世界の価値観でしか、彼らに接してこなかったことをとても反省しました。

「何度同じことを言ったら覚えるの?」

「このままで放置したら、次の人が大変なことが想像できない?」

「(ミスで不測の事態になった時)パニックにならないで!落ち着いて一個ずつやろうか。(イラッ)」

脳のメモリが足りていなければ言われたことは覚えられません。認知力が弱ければ目の前のことに精一杯で、一手先のことなんて読めませんし、不測の事態には対応できずに取り乱してしまうかもしれません。

彼らがミスをしたとき、半狂乱になってキィィィィィイイイイイ!となってしまったことを思い出し、今頃猛省しています。


JOY BAKERYでできること


このケーキ問題を通して考えたことが2つあります。

一つは、
認知の歪みがあるとして、それでも彼のような子が社会にフィットできるよう、うちで学習していってほしいということです。これについては、これまで私は学んでこなかったので、もっとその手法を勉強しないといけません。

もう一つは、
彼の子が他にもたくさんいるとして、うちではどのレベルの子なら受け入れられるのか、改めて考え直さなくてはならない、ということです。

元はと言えば、「タンザニアのストリートボーイズを雇用するため」に、私はここでパン屋をやっています。私がストリートボーイズにこだわる限り、彼らが「認知力が弱く」、「『軽度』の障害を持っている」可能性はかなり高いのです。

しかし、綺麗事を言っても手がかかることは否めません。私がつきっきりで教えるわけにもいかないので、ある程度は仕事を任せられる人、というのが前提になります。

その場合、線引きをどこで、どういう手段で行うのか…。

今の時点では答えを持ち合わせていませんが、今後人を増やす時には、何かしらのテストの導入を検討すべきなのかもしれません。(しかし、そういったテストで落とされてしまう人こそ、誰からの援助も得られず、今後の人生でも困難が待ち受けるのであろうから我々が雇うべきだ!という天使の声が頭の中でガンガン鳴っています・・・)

ともあれ、工房での教え方も含め、改めるべきことが見つかったのはよかったと思っています。


人に教える機会をつくる

本著の中で、非行少年の認知機能を向上させるために「人に教える機会をつくると良い」と紹介されていました。

非行少年は、学校で「できない」ことばかりに着目され、バカにされてきた子が多いため、自己評価が低くなりやすく、自信を持つことができない子が多いといいます。

しかし、本当は人から頼りにされ、認められたいという気持ちを持っています。その自尊心を満たすことができるのが「人に教える」という行為だということです。

これをうちの工房で実践するとすれば、

①まず、私が1人に教える。

②その子が他の子にも教える。

というところでしょうか。

少々時間はかかりそうですが、こういった工夫ひとつで彼らがやる気になってくれるのであれば、一石二鳥です。


早速試してみたのですが、本人たちが楽しそうにやっており、その点では良かったなと思っています。目的である「自尊心が満たされ、それが認知力向上に繋がるかどうか」の判断はまだ先となりそうですが。。

教えている間、彼らはおちゃらけながらも同僚を「先生」と呼び、教えている方も、堂々と胸を張って説明していました。不明瞭な点があると、私を呼んで確認もできるので、わからないところを共に明確にする、という点でも、この方法は優れていることに気づけました。


凹と凸


この本を読んで、ボーイズに寄り添い、彼ら一人一人の特性をもっと理解する努力をしようと思いました。同時に、いまやっている事業の意義を改めて考え直しました。

私は、彼らがある程度できるようになったら、もっと条件の良いところに引っ張られていったり、自分で開業するという形だったりで卒業していってくれて良いと思っています。(もちろん、彼らが残りたいと思える環境と好条件を用意してあげられれば、それが一番ですが)

ストリートボーイ出身の子が、うちで仕事を学ぶことで、社会で通用する立派な人になってくれることが、弊社の存在意義です。だから、できるだけたくさんの子が、うちを登竜門(?)、いや、第二の学校として使い、巣立っていってくれたらと思います。

そして、これを書いていて思いました。

そのためには売上をもっとあげなければ〜〜〜〜〜!!!!!!(笑)

(笑)とか書いてますが、マジで笑い事ではないので、机上の空論にならぬよう、今できることをしこしこと頑張りたいと思います!


<追記>

弊社のボーイズは、できないことばっかりで大変そう!と思われる方もいるかもしれません。確かに覚えることに時間はかかります。

でも、今では私なしですべてのパンメニューをつくってくれます。韓国の皇帝料理人に「タンザニア一うまい!」と言われたチーズケーキだって作れます。言ったことがうまく伝わらないこともありますが、そういうところは、その分私が気を回して、「ここで躓きそうだな」ということを先回りで補完すれば良いのです。

彼らもまた一生懸命学んでくれていますが、同時に私も学ばせてもらっています。まずは、イライラを減らすため・・という理由を盾に、できたてパンをたらふく食べるクセを辞めたいと思います。(笑)

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