現代大喜利概論
ーまえがきー
本稿は、僕が大学時代に現代大喜利(ここではダイナマイト関西やIPPONグランプリなどでみられるフリップ大喜利のことを指します)を言語学的観点から研究し卒業論文として提出したものを原文ママ載っけております。
先に断っておくと、僕自身の経験則から基づくものではないので、机上の空論と言われればそれまでですが、「大喜利苦手だよぅ…」という方にこういう考え方もあるんだよとお伝えできれば、という程度のものなのでその認識でお願いします。マジで。
それでは、お目汚しでなければ~~。
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現代大喜利の分析からみる「おかしみ」のレベル構造
河野 雅治
1. はじめに
近年、日本の話芸に関する言語学的研究は多く見られるが、そのほとんどが、漫才における笑いの発生メカニズムの構造を考察したものであり、「おかしみ」そのものの程度―いわゆる面白さのレベルを考察したものは殆ど見られない。
何を面白いと思うかは、人によって個人差のある感覚的なものとする意見もあるだろうが、現在『M-1グランプリ』などの、笑いの大小やその面白さの優劣を点数化し競い合う話芸のコンテスト番組が存在しており、多くの視聴者から人気を得ている。このことから筆者は、誰しもが潜在的に共通のおかしみを測るものさしのようなものを有しているのではないかと考えた。
本稿は、先行文献で明らかにされている笑いの発生メカニズムを参考にしたうえで、笑いに大小の差異が起こりうる原因、もとい「おかしみ」のレベル構造を明らかにすることを目的とする。また、言語外要素をなるべく排除して考察するために、調査対象を大喜利 に絞り、大喜利の面白さを競い合うコンテスト番組『IPPONグランプリ』で放送された芸人の回答や、よりフレーズそのものに着目するために、匿名性の高いネット大喜利での回答を取り上げていく。
2. 先行研究
本章では、調査するうえで参考にした、金水(1992)の語用論による会話における笑いの仕組みを2.1で紹介し、安部(2004)の「おかしみの構造図」とそれによる「フリ」・「ボケ」・「ツッコミ」の類型を2.2で紹介する。
2.1 金水(1992)
金水(1992)は、漫才における笑いの仕組みについて語用論の観点から、グライス「協調の原理」とリーチ「丁寧さの原理」からなる「会話の原則」からの逸脱・修正が、漫才でいうところにボケ・ツッコミにつながると述べている。「会話の原則」の詳細は以下の通りである。
我々は普段日常会話において、聞き手になるべく自分の意図することを齟齬の無いように、聞き手が気を害さないように伝えて円滑に会話を進めるため、これらの原則を無意識のうちに守っていると考えられる。また聞き手も、話し手がこの原則を守って発話してくると想定して会話に応じるのである。
しかし漫才においては、あえて会話の原則から逸脱したことを言って会話の進行を狂わせる。この役割をボケと呼び、そこからもとの会話の進路に修正する発言をする役割をツッコミと呼ぶ。この会話における「ズレ」の発生が、理解主体(ここでは観客)におかしみを感じさせるという、心理状況の変化を引き起こす。つまり、この会話のズレが、笑いを生み出しているという仕組みが明らかにされている。
2.2 安部(2004,2005)
2.2.1 「おかしみの構造図」
安部(2004)も同様に、笑いの発生をズレからくるものと考えて、以下のような二つの概念の関係に着目した「おかしみの構造図」を提案した。
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