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「テレワーク監視ツール」が人事的に悪手である理由

バンコク封鎖日記Day35。週末は、色々とニュースを眺めて過ごした。その中でも気になる記事があったのでコメントしておく。

この企業がテレワークを始める時に導入したのが、パソコンのクリック一つで勤務時間が管理できるシステムです。パソコンのデスクトップ上に、「着席」「退席」というボタンがあり、テレワークを行う社員が業務の開始時と終了時にそれぞれクリックするだけで、自動で日々の勤務時間を管理してくれます。
また、昼食などで休憩に入るときも、そのつど、「退席」と「着席」のボタンをクリックすることで、休憩時間も1秒単位で記録されます。
記録された内容はシステム上で管理され、会社の上司は、部下が今働いているのかどうかや、月の勤務時間がどれくらいになっているかを確認できます。
さらに、このシステムでは、社員が「着席」のボタンを押して仕事をしている間の、パソコンの画面がランダムに撮影され、上司に送信される仕組みもあります。いつ画面が撮影されるか社員には分かりません。

直観的にやや違和感を感じるのではないだろうか。

このサービスが開発された背景には「社員は監視すれば仕事をするようになる」という前提があるように思えるが、それはあまり正しくないように思う。人事的観点から思うことをコメントしておく。

評価:ペイ・フォー・パフォーマンスではなくペイ・フォー・タイムを強調してしまう


言うまでもなく、仕事の評価というのはパフォーマンス(成果)に基づいてなされるべきだ。つまり、「ペイ・フォー・パフォーマンス」だ。1時間だけ働いて100の成果を挙げる人と、8時間働いて50の成果を挙げる人では、会社にとって前者の方が有益だ。

しかし、このシステムだと「8時間席に座っていない人は、仕事していない」とみなされてしまう。つまり、「ペイ・フォー・タイム」で評価するという考え方に基づいている。

「席に座る」というのはあくまで成果を挙げるための手段のはずだが、「席に座る」ことを管理することによって、「手段の目的化」が起きてしまい、ますます成果が上がらない組織が出来上がってしまう。間違っても、従業員に「席に座っていることが仕事だ」と思わせてはならない。

ちなみに、「じゃあ1時間で100の成果を挙げる人は、7時間サボっていいの?」と反論する人がいるかもしれないが、勿論そうではない。1時間で100の仕事ができるくらい優秀な人なら、配置転換してその能力を仕組み化してもらうとか、昇進させて組織に影響力を発揮してもらうとか、「より価値の高い仕事」に時間を使ってもらうよう活用すべきだ。そうした適材適所を行うことがマネジメントである。

モチベーション:集中する状態に入れない

このような監視された状態でモチベーションが上がるかというと、それもまた疑問符が付く。

仕事において望ましい状態は、いわゆる「フロー状態」と言われてものである。フローは仕事の難易度と自分の能力が高いレベルでマッチした状態で、「ゾーン」「無我の境地」などとも言われる状態である。

この「フロー状態」を作る条件の一つに、「状況や活動を自分で制御している」という事がある。つまり、仕事の管理に一定の裁量権が与えられていることが重要という事だ。

たとえばふと手を伸ばした書籍に仕事のヒントを見つけて、グイグイと読み進めてしまうという事もあるだろう。それをきっかけにアウトプットが良くなるという事はよくある。その時に、「席に戻って着席ボタンを押さなきゃ」という意識はノイズである。

ゆえに、監視システムは本人のモチベーション、そして自己成長も阻害するのではないかと思われる。

リモート・マネージャーの仕事の高度化

こういうシステムが開発されてしまうのは、「ジョブ型雇用」(=与えられた仕事を期待して雇用される)ではなく、「メンバーシップ型雇用」(=まず組織に雇用されて、何をするのかはそれから決まる)という日本型組織の特徴が関係しているように思う。会社が、「成果を出す場所」ではなく「組織に所属することが仕事」という前提で成り立ってしまっているからだ。

「メンバーシップ型雇用」は、組織に一定の調和と安定をもたらすシステムでこれまでの日本企業、特に製造業の発展には非常に有効だった。しかし、産業構造が大きく変わり、また、たまたまコロナによって個々人の自立的なパフォーマンス管理が求められるようになると、より弱みに働くだろう。

リモートワーク環境で企業がすべき人事管理は、

1)アウトプットに基づく評価
行動評価の難易度が上がるため、従来からあるMBOやOKRなどの目標評価をより意図的・明示的に運用。また、どちらかというと頻度は短めに運用。

2)監視ではなく、自発的・発信型の報告
簡易的で良いので日報や週報を通じた本人からの報告(上司からのチェックではなく)。もちろんSlackやTwitterなどでも構わない。

3)一方的ではなく、双方向のコミュニケーション
短い小刻みな1on1などで状況把握・アクション修正をし、また評価への信頼性を担保する。

4)一律ではなく個別のマネジメント
同じ場所で同じルールで働いていた時代に比べて、住環境、家族の状況、ライフスタイルは個々によって異なるため、働き方や成果の上げ方も多様になる。

などであろう。

また、個人的には、これまで評価の妥当性をある程度担保してくれていた「多面評価」の難易度が上がると思っている。Zoomなどで様々な組織コミュニケーションは意図的に発生させられるとはいえ、日常的なふれあいによる偶発的なコミュニケーションはどうしても減ってしまう。

それゆえに、上司の目標設定スキル(部下とどのような成果を握り可視化するか)とモニタリングスキル(日々をそれをすり合わせていくスキル)の重要性がますます重要になるという前提で考えていく必要がある。

しかもそれをテクノロジーを使って遠隔で行うので、飲みに連れていって本音を聞いたり心をつかむ、といった手法も使えない。管理職の仕事の定義そのものが変わると言える変化だし、その変化について行けない管理職には早急にスキルのアップデート、または役割変更が求められるかもしれない。

究極的には「上司による管理なんて不要」な時代がこれによって訪れてほしいと思っているが、多くの企業はそこからは遠い状態にあると思うので、現状から少しずつアジャストしていく必要があるだろう。

今日は以上です。

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Asian Identity Co., Ltd. CEO & Founder.タイ・バンコク在住。ネスレ、リンクアンドモチベーション、グロービスを経て2014年にタイで起業。アジア×人事×経営。2児の父。”文化へのリスペクト”と”関係性を整える”ことで組織に”調和”を生み出す。

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