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年頭所感~2021年に大切にしたい「4つの力」

新年あけましておめでとうございます。

2020年の末に日本に戻り、家族と共にのんびりとしたお正月を過ごしました。そんな中、タイではソフトロックダウンが開始。日本も緊急事態宣言が発出されそうな状況です。不透明さが増す2021年の幕開けとなってしまいました。

今年をどんな一年にしようかと年末年始に思いを巡らせていて、大切にしたいと思うテーマが4つほど浮かんできました。新年の抱負に替えて、ここにまとめておきます。

共感する力

コロナ問題が起きて以降、激しい言い争いや論争をSNS上などでもよく見かけるようになった気がします。その結果、私の周りでも「もうSNSでコロナの話を書くことをやめることにした」という人も何人もいました。

コロナのような社会全体に関わる問題においては、激しい「価値観の対立」が起こります。例えば、自営業で経済的に追い詰められている方の多くはロックダウンに反対するでしょう。一方で、持病を抱えて健康に不安がある方は、厳しい封じ込めを歓迎するかもしれません。それは価値の基準が大きく違うので仕方のないことです。

価値基準が異なるもの同士が議論する場合、よほど冷静に議論を展開しない限り、合意点を見出すことは簡単ではありません。事実やデータをもとに議論しようとしても、対象が未知の感染症ですから、同じデータでも見方によって異なった解釈が生まれます。カエサルが言ったように「人は見たいものしか見ない」からです。価値観のベースが異なるのに、相手を”論破”しようとしたり、理解できないと罵り合うのはよい結果を招きません。

私たちが努力すべきは、一人一人が少しずつ「立場の異なる人への想像力を高める」ことではないでしょうか。上司と部下の間。夫と妻の間。そうした身近な関係性にも、価値観の相違はきっとあるはずです。対立が生じたとき、相手の言動の裏側には、何か事情や背景があるのかもしれないと思ってみる。そこに想像力を働かせ、興味を持って理解しようとしてみる。それが「共感する」という行為だと思います。共感がベースにあれば、対立を乗り越えて健全な議論に一歩近づくことができるでしょう。

2020年はリーダーの「共感する力」が問われた一年でした。ドイツのメルケル首相のスピーチが「2020年のベストスピーチ」に選ばれたように、コロナ対応で賞賛される対応をした優れたリーダーたちは、一様に国民に寄り添い、共感を示すことに長けていたように思います。危機に際しては、論理だけでは人は動きません。相手に共感を示して初めて、相手はあなたの言うことを聞いてくれるのです。

統合する力 

とはいえ、あなたが何かしらの立場のリーダーだとすると、共感しているだけでは不十分で、やはりどこかで大きな「判断」をしなくてはいけません。

コロナ問題における「判断」というのは極めて難しいものだと言わざるを得ません。ロックダウンなどの政治判断もそうですし、個別企業の事業上の判断もますます難しいものになります。なぜ難しいかと言うと、先行きが不透明で予測が容易ではないことと、問題の中に様々な要素が複雑に絡み合っているからです。

こうした複雑な問題を「ルービックキューブ型」の問題と表現します。ルービックキューブは、一つの面を完成させると別の面が崩れてしまう。また、複数の面を同時に見ることはできません。それゆえ、狭い視野で短期的にものを見ていると一向にパズルは前に進みません。ルービックキューブ型の問題を解くには、全体を見渡しながら、短期的なマイナスも覚悟し、長期的視点で少しずつものごとを進めていく必要があります。

これに対比されるのが、問題に対して解となるピースが明確な「ジグソーパズル型」です。企業で用いる問題解決思考は基本的にはこちらのアプローチです。問題を分解し、原因を突き止め、対策を打つ、論理的思考にもとづいたアプローチで、再現性に優れた方法と言えるでしょう。

しかし、コロナのような複雑な問題にはジグソーパズル型の解決法ではなかなかうまくいきません。例えば「命か経済か」という命題にシンプルな解は存在しません。どちらも大切だからです。全体のバランスを考え、それぞれの関係者に痛みを理解をしてもらいながら、最も妥当な一手を打つ。しかもその一手は短期的には間違った一手に見えることもあります。それでも、長期的目線を持ち、その一手を信じてブラさず打ち続ける。危機におけるリーダーの「判断」というのはそうした姿勢が必要です。

こうしたルービックキューブ型の問題に対応するためには、「AかBか(or)」ではなく、「AもBも(and)」の発想を持ち「統合」して捉えることが必要です。

例えば企業経営では、「組織を守ることと、キャッシュを確保すること」「既存事業を守ることと、新規事業にチャレンジすること」などの間のジレンマがより一層強くなるでしょう。そうしたジレンマに直面した時に、「And」の発想で物事をとらえる必要があります。短期的なキャッシュを確保するためにリストラをするのではなく、「人材を生かすからこそ、危機を乗り切れるのでは?」「新規事業にチャレンジするからこそ、既存事業にイノベーションが起こせるのでは?」などの発想を持てた時に、景色が違って見えてきます。

ちなみにこれは、ヘーゲルの弁証法でいう「アウフヘーベン」に当てはまります。アウフヘーベンとは「矛盾する2つの概念から新たな価値を生むこと」です。アウフヘーベンは「二兎を追ってどっちつかずになる」「足して2で割る」とは似て非なるものです。より高い視座から物事を見て、矛盾を受け入れる覚悟を持つことで、対立概念を統合した解を生むことにつながるのです。

内省する力

では「矛盾の統合」を可能にする高い視座は、どうしたら獲得できるのか。そのためには、深く自分と向き合い、「自分は本当に何がしたいのか」のブレない理念やビジョンを持つ必要があります。

例えば冒頭にあげたメルケル首相は、ロックダウンを国民に説明する際に、

「私のように、移動や行動の自由が苦労して勝ち取った権利であった者にとって、(国家による)そのような制限は絶対に必要な場合にのみ正当化することができる」

と、自身の東ドイツ時代の苦い経験を用いて協力を呼びかけ、多くの共感を呼びました。こうした彼女の説明からは「国家とは何か」「自分はどういう国家を作りたいのか」についてのビジョンと、強い信念を感じ取ることが出来ます。このように大きなビジョンを下敷きとして物事を考えることで、目の前の矛盾に立ち向かうことができるのです。

こうした自らのビジョンを持ち続けるためには「内省」が欠かせません。内省とは、「自分自身の内面を省みること」です。

人間は、日常の中で忙しくしていると、本当に自分がやりたいことや、大切にしたいことをつい忘れてしまいます。そのような忘れていた想いが、ある時旅に出たり、また人と対話をする中でふっとよみがえってきたりします。そうした時に偶発的に起こる内省を糧として、人は自分自身の内面を磨いていきます。

私は、コロナによって「内省の機会が減る」ことを危惧しています。内省のきっかけとして重要な役割を果たしていた「対話」が、リモートワークや人が集まる場の減少によって大きく減ってしまっているからです。Zoomでミーティングは支障なく出来ますが、カジュアルな雑談や対話は意識しないと生まれづらくなります。それゆえ、いかにして「内省する習慣」を自ら作っていくかが重要になってくると思っています。

内省は「書く」という行為を通じて行うのが最も効果的です。日記でもブログでもツールは何でも構いません。日々感じたことを記録することで、自らの感情を客観視し心を整えることが出来ます。また、気づきを書き溜めることで内面的な成長が得られます。例えばこのnoteは私にとって重要な内省ツールですが、内省を通じて自らの価値観を明確にしたり、学びを積み上げて成長することに役立っています。どんな立場の人であれ「書く」という習慣は自分を成長させますので、自分なりのスタイルで習慣化してみることをお勧めします。

わかちあう力

最後に。

コロナ危機も1年近くなり、色んな意味での体力がかなり限界に近付いている人が増えているように感じます。飲食業や旅行業、レジャー産業などはさらなるロックダウンでますます窮地に追い込まれるでしょう。

私の周りの経営者の多くも苦しんでいます。私自身も、いち中小自営業として今のところなんとか生きながらえていますが、この先はわかりません。ウィルスも変異型が出現し、もともと想定していたとはいえ、いよいよ長期戦が現実のものとなってきました。経営者でなく企業にお勤めの方でも、これまで以上に厳しい状況で仕事をする中で、精神的にだんだんキツくなっている人が増えてきているのではないでしょうか。

ここは、災害時に利害関係なくお互いを助け合うように、この非常時において協力・連帯をもう一歩進める必要があるのではと思っています。具体的には「利他精神を持ち、一人一人が自分の持っているものを少しずつ周囲にわかちあう」ことが大切なのではないかと思っています。

必ずしも、プロボノやクラウドファンディングなど、カッコいいことをする必要はありません。自分の持っている情報、知恵、スキル、が誰かの役に立ちそうであれば積極的に周囲にシェアしていきましょう。また、「苦しんでいる人の話に耳を傾け、寄りそう」ということも自分の「時間」や「心」を差し出している、立派な分かち合いだと思います。

いきなり綺麗ごとを言うようですが、本当に苦しい人は「助けて」と自分からは言うことが出来ません。たった一人で声もあげられずに苦しみ続けている人たちがすでに沢山いると思いますし、この先も増えていくと思います。そうした状況に想像力を持ち、少しでも支え合うことで救われる会社や個人がいるのではないかと思います。

私個人としても、仲間や社員、同じコミュニティに属する人に力を与えられるよう、自分の能力で人の役に立てることを頑張っていこう、と決意を新たにしてこの一年の仕事に臨んでいこうと思います。

以上、共感する力、統合する力、内省する力、わかちあう力の4つを今年のテーマとして意識したいこととして書いてみました。2021年、個人的にも様々なチャレンジが待ち構える一年ではありますが、4つの力をいつも大切にしながら勇気をもって挑み続けたいと思います。

お読みいただき有難うございました。2021年も本noteをどうぞよろしくお願いします。


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