【終活110番061】永遠の親子愛で紡ぐ魔法の終活(究極形)

言うは易し…。そう言われてしまうかもしれませんが、最も理想的な終活のあり方をお教えしましょう。習うより慣れろと言いますが、本質的には、親から子に対しての日常的な努力の積み重ねが肝になります。高校時代に習った英語の格言に、Victory requires preparation(勝つには準備が必要だ)というのがありました。これを文字っていえば、「幸せな老後には準備が必要」ということになります。

そして、ここでいう準備とは、「その時が来たら即、発動できるように準備万端に整えておく」というよりは、ふだんからの意識や行動がおのずと望むような老後を運んできてくれる…といった感じになると思います。結論を先に行ってしまえば、親子で向き合う時間を意識的に作って、会話を積み重ねて、別れ際にはお小遣いを上げる…。これを何度も反復するということになります。

老いては子に従え。これは、親が50歳ともなればそれまでの親子関係が逆転して、肉体的にも精神的にも社会的にも、子のほうが親よりも優位になる。だから、いつまでもわが子を子ども扱いせずに、その意見や考えを尊重できるような親でありたいものだ…。そう意味だと思います。現実問題として、親はこの手を煩わすことなくエンディングを迎えることはできません。それまでの間には、通院したり入院したり、介護サービスを利用したり施設に入ったり、いろいろな場面で子どもにサポートを仰がなければならないのです。

ですが、50歳を過ぎても、唯一、子どもよりも優っている点がひとつだけあります。それが財力です。ならばこれをうまく活用することで、親子双方がWin-Winの関係となって、結果的に親が望むようなかたちで人生を全うできるようにすればいいと考えるわけです。

遺言をしたためて銀行に決して安くないおカネを払い続けながらそれを管理してもらって、「もう終活は済ませてあるから安心だ」などと言っている人がいますが、それはちがいます。いわゆる遺言信託という金融機関のサービスですが、この方法では幸せな老後は確定できません。親側だけの自己満足です。親が死んだ後になって、財産の分け前だけを銀行員から告げられても、最初はポッカ~ンで、冷静になって「ちょっと待てよ」となることがほとんどです。さして問題にならないのは、相続権者がひとりの場合のみです。

そして何よりも、この方法だと、親が死ぬまでのプロセスで生じる諸々の課題に対して、子どものサポートを担保することがむずかしい。仕事に家庭に忙しい子どもたちの時間と労力を、老親問題に割くためのインセンティブが働きません。要は、おカネの裏づけなしに作業だけ振られても、感情的に納得できません。例え潜在的にではあっても、そんなネガティブ感を抱えながらやむを得ず対処するということです。

そして、作業が増えたり、思うように事が進まなかったりしたときに、感情が爆発してしまうと老老地獄のような惨状に至ることさえあるわけです。そこまでいかなくても、老親問題で舐めた苦渋ゆえに、死んでからも親に対する恨めしい気持ちや記憶が渦巻いてしまう…。そんな親子双方にとって望ましくない構図ができてしまうのです。親子の縁は永遠ですが、これでは永遠の親子愛などとは言えるはずもありません。

それでは、いよいよ、超究極の親子完結型終活の方法をご紹介します。ひとことで言えば、エンディングまでに起こりうる老後の課題について、親の意向を、親から子へ、日常的に繰り返し話して聞かせる。予告と予算にフォーカスしながら、です。これに尽きます。

わが子が義務教育を終えた以降のことを想定してみましょう。まずは、高校進学に大学進学。そのための塾通いや予備校通い。これらに係るおカネは、すべて親が出してあげる。それも手渡しがお奨めです。理由はふたつ。振り込みだと銀行のシステムに取引記録が残ってしまい、特定の口座に頻繁に振り込みがあると贈与の疑義が発生しかねないから。そして、現金を目の当たりにすることで、子どもの親に対する感謝の気持ちが増幅するからです。

同様に、大学生になった子どもがひとり暮らしを始めるのであれば、マンションの賃貸料をはじめ、生活に係るおカネは親が出してあげる。これも手渡しです。こうすれば、贈与税だの贈与契約だの、とやかく言われることは一切ありません。そもそも、親が子の教育資金を出してあげることに税はかからないのです。

あと、経済的に余力があれば、毎年110万円までなら贈与税非課税という「暦年贈与」もしてあげましょう。余談ですが、一日3千円ずつお小遣いをあげていくと、一年間でだいたい110万円になります。ただ親子が一緒に住んでいないとこれは不可能ですから、暦年贈与の具体的な方法としては、年に数回、毎回異なる金額を不定期的に振り込んであげるようにします。例えば、「1月に23万円、3月に38万円、6月に18万円、11月に27万円」というように、不定期に不規則にアトランダムな金額を入金する等。で、年間の合計金額は110万円以内でおさめるようにするのです。さらに、ちょっと面倒ですが、都度、贈与契約を取り交わすようにします。そうしないと、国税からチェックが入るリスクがあるからです。ホント厄介な時代になったものです。

話を戻しましょう。つまり、ちょこちょこ会う機会を作って、飲食を奢ってあげながら、都度お小遣いを上げるイメージです。ふつうは大学生ともなれば、そうそう一緒の時間を過ごせないものです。親としてはさみしいかぎりです。でも、お小遣いをもらえるとあらば、子どもは時間を作りますよ、よろこんで!

ところで、飲食を共にしても、たぶん子どものほうから積極的に話を振ってくることはないはずです。でも、それでいいのです。親のほうが、自分の心身の衰えとか、老い先への不安とか、そういったことを冗談交じりに話しながら、「キミが頼りなんだぜ」的なことを伝えておけば十分です。こうして、円滑な老後のために子どもの支援を取り付けるための「予告と予算」を積み重ねていくわけです。

そうそう。わが子とタイマンをはるときですが、くれぐれも説教口調にならないように注意します。一対一で真正面から凝視されながら話されると、それだけでお説教っぽく感じるものです。意識的に斜に構えて、ボソボソッと独白する。これがベストです。で、たまぁに、「キみはどう思う?」とか「キミ、わかってくれるかなぁ?」とか言いながらチラ見すれば十分です。そこは血縁。血を分けた親子です。ちゃんと伝わると思っていいです。

やがて、結婚。孫の誕生。マイホーム購入。可愛いわが子の、人生のビッグイベントがやってきます。これらは、贈与税非課税特例が適用されるので、可能な限り、おカネを出してあげたいところです。もちろん、孫の教育費用も出してあげればベストです。

こうすることで、良好な親子関係が維持されます。子どもたちとの接触機会も増えるでしょう。そのたびに感謝され、死んでからもリスペクとされる親になるのです。つまり、永遠の親子愛です。おカネで釣るのかなどと言う人がいますが、「親が死んでから相続させるか、生きているうちに直接あげるか」のちがいだけです。
そして、過酷な現代を生きる子ども世代のほとんどが、親が死ぬ云十年後のキャッシュよりも、親が生きてるうちの現金を欲しているのです。

ご理解いただけたでしょうか。以上が、「予告と予算」にフォーカスした親子完結型終活の理想形です。

でも、「財力のない親はどうするの?」という声もあると思います。その場合は、毎回数千円でも構いません。食事をご馳走してあげるだけでも構いません。可能な範囲で、ギブ・アンド・テイクのアングルを組み立てればいいのです。子どものこころに、「親ってありがたいなぁ~」という感謝の気持ちを喚起させ、それを記憶に定着させることが重要なのです。

経済的に余裕のある親の場合には相続税対策という意味合いもありますから、親名義の財産を減らすという目的で、かなりのおカネを早期に子どもに渡してしまったほうがいい側面があるのです。もちろん、ムダな贈与税を払わなくて済むように配慮しながら、ですが。要は、老後対策と相続対策はクルマの両輪ということです。

なので、多くのおカネがないのであれば、それなりのおカネを使うだけで十分です。子どもたちも、自分の親や家庭の経済状況はある程度わかっているでしょうから。それでも、会うたびにお小遣いをくれて、勉強や仕事のことを気にかけてくれて、「がんばってね」と励ましてくれる親のことを悪く思うことはないはずです。接触頻度が多ければ多いだけ、親に対する想いは増幅します。そうなれば、まさかが起きた時に、柔軟にサポートしてもらえる確率はグンと高まります。

距離が離れていて、そうそう頻繁に会えないのであれば、メールやLINEを使いましょう。「こんど帰ってきたら、少ないけどお小遣いあげるから」とか「ちょっとそっちのほうへ行く用があるから、ご飯でも食べない?」とか短いメッセージでOKです。なお、電話は子ども側の都合もあるので控えるようにします。

親世代のみなさんは、50歳を過ぎたら、意識的に子どもとの接触頻度を高める努力をしてください。これが、長い時間をかけて離れてしまった親子のこころの距離を縮めるということです。そうすることで、まさかが起きた時にも支援を頼みやすくなるし、日頃からギブ・アンド・テイクを習慣化しておくことで、子どもの側にも親の老後を支えようという意識が芽生えてくるものなのです。

くれぐれも、金融機関や法律関係者が押してくる終活絡みのサービスありきの終活に過度な期待はしないことです。運命の糸で結ばれた親子の縁です。まずは親子の絆や信頼関係をベースとした親子で完結する終活を目指すことです。それこそが親子共々ハッピーになれる終活なのだと肝に銘じてほしいものです。

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