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現役世代の人生狂わす老親リスク ~必ず起きるのになぜそなえない?~

親世代(想定70代・80代)がそなえておかなかったことで不利益を被る子ども世代(想定40代~60代)が急増しています。昨夏以降、従来の「そなえる=認知症対策」という構図に、新型コロナという感染症リスクが加わりました。その結果、老い支度の前倒し機運が高まりつつありますが、まだまだ多くの親世代が無為無策に漫然と毎日を過ごしています。

実際に事が起きれば、時間と労力とおカネを割かれるのは子どもたちです。早期にそなえることは親世代さいごの大仕事であり、子ども世代とっては老親の存在自体が最大のリスクなのです。そなえ方がわからないという方のために、具体的なそなえ方をお伝えします。

【98%の老親がそなえていない現実】
過去2年間に相談を受けた親世代100人の老い支度に関する調査結果を紹介します。72%が老い支度を一切しておらず、26%がそなえちがいを犯していました。

まず前者ですが、こういう人たちは「早いうちにそなえたい」・「なんとかなる」・「子どもたちに任せてあるから大丈夫」等々の現実逃避もしくは能天気なコメントを発する共通傾向があります。まさかは必ずやってきます。にもかかわらず対策を講じないのですから、子ども世代はたまったものではありません。

後者は、終活セミナーや終活本で問題意識を喚起されたはいいものの、誤ったそなえ方や意味のないそなえ方をしてしまった人たちです。

【履き違えの典型例】
多くのそなえちがいについて調べてみると、終活セミナー主催者による、自社商材を売らんがための恣意的なミスリードが原因だということがわかります。結果的に、「遺言を書いてあるから大丈夫」・「葬儀を生前予約してあるから大丈夫」・「子どもを任意後見として申請してあるから大丈夫」等の勘違い発言につながります。

親が死んだ後に遺言が出てきた場合、経験的に8割以上の確率で子どもたちに亀裂が生じます。というのも、遺産を均等割りすればもっとも親をサポートした子どもはとまどうし、差をつければ金額的に少なくされた子どもが面白くないからです。相続人のひとりが異議申し立てをして弁護士をつけたとしたら、それが争族のはじまりです。

葬儀の生前予約は、その事実を子どもたちが知らされていなかったことで、おカネをどぶに捨てたことになります。死後事務の預託サービスも同様です。エンディングノートもまた然り。親の死後に発見されても後の祭りです。

任意後見人も、わが子を指定しておこうが、いざ認知症に罹患すれば、そのわが子の管理監督人が家庭裁判所から派遣されてきますので、子どもの人生まで見ず知らずの誰かに管理されることになってしまいます。親が死ぬまで、決して安くない報酬や交通費等を請求されながら、です。

このように、ほとんどのそなえちがいは、老い支度というものを『点』でとらえてしまうことで起こります。本当の意味での老い支度とは、特定の商品やサービスを購入すればいいというものではないのです。エンディングまでに想定される課題ごとに段取りしておく必要があるのです。

【親子の対話より法律・制度・契約を優先する親世代】
誤解を恐れずに言えば、情報や知識の少ない親世代をそそのかすような売り手側に問題があると思っています。なまじ大手金融機関や弁護士等が積極的にセールスをかけてくるので、一定の割合で親世代がソノ気になってしまうわけです。

遺言信託にしろ任意後見契約にしろ、子どもたちと共有することなしに、購入してしまう親世代がほとんどです。こんなバカな話があるでしょうか。いくら離れて暮らしているからと言って、どうしてわが子と直接会話しないのか。信じられないことですが、そういうケースは枚挙にいとまがありません。

銀行や法律家や葬儀社におカネを払うのは自由ですが、それ以前に、どうして自分の老い支度についてわが子と向き合って話をしないのか。結局、親は子のサポートなしでは死んでいけないのですから。親子の縁は死んでも切れません。ならば順序として、まずは子どもたちに、自身の言葉で想いを伝えるべきだと思いませんか。これをすっ飛ばして独断で内々に事を進めてしまうから、あとで子どもたちが面倒に巻き込まれてしまうのです。

【親子で完結する老い支度の進め方】
財産の多寡にかかわらず、老後の想定課題というのはみな同じです。介護、認知症、施設さがし、手術、延命治療、財産分与、葬儀、死後事務。この8つです。まずは、それぞれについて、「親の望み」と「子への依頼事項」と「財源」を明らかにして、それを文書化すること。これが老い支度のはじめの一歩です。

特に大切なのは、子どもたちに何をサポートしてもらうのか。そして、そのために必要なおカネをどう渡すのか。このギブアンドテイクをはっきりさせることです。おカネについては、事が起きてしまう前の段階から、節税に配慮しながら子どもたちに移管していくことをお奨めします。ここを曖昧にしたまま作業だけを頼んでも、子ども側の覚悟が定まりません。これが現実です。

準備ができたら、子どもたちと個々に親子会議の場をもって決めた内容を共有します。そして、少なくとも毎年一度は、変更があってもなくても顔を合わせる機会を持つことです。親の目が黒いうちに、自分の言葉で直接子どもたちに想いを伝え、おカネをセットにしてサポートを依頼する。これこそが親子で完結する老い支度のあり方です。

【そなえない親には子どものほうからアプローチする】
子どもの側から、親に対して老い支度の話をしづらいという話をよく聞きます。しかし、多くの相談ケースを観てきた立場で言わせていただけば、戦略的に仕掛けていくことが重要です。特に兄弟姉妹がいる場合、結果的に、先駆けて親の老後支援を持ちかけた子どもがいちばん多くのおカネを託されることになります。

まずは、長い時間をかけて離れてしまった親子間のこころの距離を縮めることから始めましょう。少なくとも月に一度は会うようにしたい。どうしてもむずかしければ、電話でもいいです。そして、ただひと言、「問題ない?」・「何かあったらいつでも言って」だけでいいのです。親にしたら、これだけのことでも、どれだけ安心でうれしいことか。

こうして接触頻度を高めたら、つぎは世間話です。「実は、会社の同僚のお母さんがね…」という感じで、親がそなえておかなかったことで子どもが苦労しているエピソードをボソボソッと語るのです。で、タイミングをみて、「おふくろ、終活とかって、やってる?」。こんな感じでしょうか。現役世代のみなさんは、ご自身のためにも、老親対策を講ずる時に来ていると自覚してください。


まさかは突然やってきます。まさかは必ずやってきます。そして、親のまさかは子のまさかです。老親リスクは100%現実のものとなります。であるならば、そうなってしまった時のダメージを最小化できるようそなえておくのは当然のことです。

そして、親の老い支度をサポートしつつ、自分の老い支度にも同時に取り組むといいでしょう。人間50歳ともなれば、明日の朝、今日と同じように目覚める保証はないのですから。かけがえのない子どもたちの人生を台無しにしないためにも、当事者意識と危機意識を持つようにしてください。

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