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ハムレットに学ぶ独白術

みなさん、こんばんは。
事務局のマリーアントワネットこと、桜井ひまりです。

前回予告のとおり、人をソノ気にさせるための最強の武器、「独白」について紹介していこうと思います。
 
独白という言葉に馴染みのない方のためには、「穏やかな主張」と置き換えてもいいと思います。「独白」とは演劇用語で、登場人物が相手なしで台詞を言うことです。モノローグともいいます。主に「ここぞ」という場面で、主人公が真情を吐露するときに用いられる技法です。
 
完全にボスの受け売りとなりますが、独白と言えば『ハムレット』。ハムレットと言えばシェイクスピアです。シェイクスピアを知らない人はいないでしょう。この私でも、名前だけは知っていました。16世紀の英国エリザベス朝ルネサンス文学の象徴であり、全世界で認められた劇作家。ボスが大学時代に聞いた話だと、英語の全世界的隆盛はシェイクスピアによるものなんだそうです。それくらいすごい影響力だったんですね。

おまけに、あまりにも知識レベルが高く作品群ゆえに、『シェイクスピアというのはペンネームで、本当はもっと高貴な人物によるものではないか』という都市伝説さえあるそうです。一部では、同時代の著名な哲学者フランシス・ベーコンでは…等々。
 
シェイクスピアの代表作といえば、四大悲劇「オセロ」・「ハムレット」・「マクベス」・「リア王」です。その中でも「ハムレット」は独白文学の代表です。第三幕第一場でなされる、To be, or not to be で始まる独白は、みなさんもご存知だと思います。これは、私でも知っていました!
 
世の中の矛盾と向き合いながらも、もつれた糸を解きほぐすことができずに堂々巡りをする青年の独白です。日本語では「生きるべきか死ぬべきか」と訳されることが多いのですが、文脈から考えると、To be とは『父の復讐を果たすこと』であり、not to be とは『復讐をあきらめること』になると教わりました。ハムレットは、復讐を行動として起こすべきかどうかの狭間で苦悩していたわけですね。なんか、超カッコいい!
 
ハムレットはこの二つの選択肢の間で迷っていて、舞台ではかなり長い独白が展開されるのですが、興味深いのは、ただの一度も一人称の I と me が使用されないことです。独白する話し手が自分自身に向かって語りかけているのであれば、当然一人称代名詞が頻繁に使われるところです。それなのにそれを使っていない。ハムレットはあたかも他人事を語っているようで、そうすることでしか、本当の自分を語れないといったふうに感じられます。ですが、ですが…。これこそが「独白」の重要ポイントなのだそうです!
 
それでは、「独白」がもたらす圧倒的な効果についてお話しします。独白には3つの効果があるそうです。『親密性・臨場感・普遍性』の3つです。つまり、独白することで、観客との親密度が増すのです。そして、語り手がありのままに苦悩する姿をさらけだすことで、観客に臨場感を与えます。観客はハムレットとあたかも一心同体になったかのような感覚になるということです。さらに、ハムレットの思考や言動が、自分や自分が抱えている問題にも適用できるのではないか…と、誰をも気づかせたり錯覚させたりする可能性があるということです。
 
つまり、ハムレットの独白の効果によって、観客は実際に舞台に上がることもなしに、ハムレットと一体となって共に復讐を果たすという疑似体験を味わうことが可能になるわけです。独白が持つ3つの効用によって、ハムレットの人物像は観客にとってきわめて身近な存在となるわけです。観客はハムレットの独白により、その世界観や人生観を如実に把握することが可能となります。さらに、双方の心理的距離が縮まって絆が深まります。劇中の世界と現実世界を重ね合わせて考えるようになります。
 
もしも私たちが、この「独白」という語り方をモノにすることができたとすれば、ハムレットと観客の関係が、そのままカウンセラーとクライアント、セールスと見込み客等々の関係になり得るという仮説が成り立つのです。これはもう、ダマされたと思ってやってみるしかないでしょう。
 
研修で取り上げられた独白のサンプルを紹介します。見事な独白だと感動したのを覚えています。
 
ある企業で飛び込み営業を指示された新人が、「いまどきアポなしで営業するなど時代にそぐわない。話を聞いてもらえる確率は限りなくゼロに近く非効率だからやりたくない」と上司に訴えに来ました。
 
上司 「なるほどね。キミの言い分はまぁわかったよ。ところでね、経験的に、飛び込みセールスが好きだという人はほとんどいないんだよね。その理由は何だと思う?」
部下 「そりゃあ、ふつうは相手に話を聞いてもらえないでしょうからね」
上司 「そう。キミの言うとおり、非効率ということだ。他には?」
部下 「……」
上司 「以前、若手営業の意識調査をやったことがあってね。時間のムダとか、交通費のムダとか、会社の信用が落ちるとか、まぁ、いろいろと出たんだけどね。いちばん多かった理由は別のことだったんだ。何だと思う?」
部下 「……」
上司 「人間の心理に関することなんだけどね」
部下 「もしかして……、恥ずかしい?」
上司 「おう、よくわかったねぇ。そうなんだよ。成果が出なくて空しいっていうよりも、恥ずかしいから飛び込みはイヤだっていう声が圧倒的に多かったんだ。キミはどう思う?」
部下 「まぁ、恥ずかしいと思うのがふつうじゃないでしょうか」
上司 「だよな。私だって、いま飛び込みやってこいと言われたらこっばずかしいよね。しかもこの年齢だ。相手はきっと思うでしょ?このオッサン、いい歳してまだ飛び込みとかやらされてんだ~ってさ」
部下 「……」
上司 「すこし私の話をしてもいいかな?」
部下 「はぁ。どうぞ」
上司 「私はこう見えても、入社したての頃は超恥ずかしがり屋でね。初対面の人と話すのに異常なくらい緊張したのを覚えてるよ。そんな私が飛び込み? それこそ、線路に飛び込みたくなるくらいイヤでイヤでたまらなかった。ところが、当時の上司が鬼軍曹のような人でね。一日10件をクリアするまでは帰社することを許してくれなかったんだ。あれは、今の時代だったらパワハラかもしれないな。だから仕方なく半年間、来る日も来る日も飛び込み訪問をやるしかなかった。
 
でね、面白いのはここからなんだけどさ、あることに気づいたんだよ。ある見込み客の場合、午後一時ちょっと前の、もうちょっとで昼休みが終わる時間帯だな。その会社に勤めてる人たちが正面玄関から中へ入っていくだろ。その人波にまぎれて一緒にエレベーターに乗りこんで、彼らと一緒に上がっていって、多くの人が下りるフロアで一緒に下りる。するとね、その流れで受付で名乗って主旨を伝えるとさ、確実に中へ通される確率が高いことがわかったんだ。高いといったって、10件に1~2件だけどね。しかし、のべつ幕なしに飛び込んで玉砕していたのとくらべたら格段に効率がいいんだよ。理由はわからない。
 
後日、飛び込みに応じてくれたお客様の話によると、午後イチで用事が入っていなければ、食後のコーヒーやお茶をすすりながら、気分転換に未知なる刺激に触れてもまぁいいかなって言うんだよね。それと、ランチの帰りに部下たちとワイワイやりながら自席に戻るあいだ、きわめて近くの同じ空間にいた相手に対しては、親近感とまではいかないまでも、あんまり無碍にするのも気の毒かなとか、部下たちとのお喋りの楽しかった余韻をネガティブモードに変えることもないかなとか、正直よくわからないんだけれど、不思議と相手をしてもらえることが多かったわけだ。
 
すると不思議なもんでね。あんなに苦痛だった飛び込みにも、何か確率を上げるための法則性があるんじゃないかって考えるようになったんだ。つまり、拒絶されたら恥ずかしいとか情けないとか自分に意識を向けるのではなくって、相手はどんな条件が揃えば受け入れてくれるのかってね。そんなふうに相手側に意識を向けるようになってね。そうしたら、あんなにイヤだった飛び込みの恐怖が軽くなってきてさ。
 
そうなってからはゲーム感覚になってね。この会社は話を聞いてもらえそうだとか、予測できるようになったんだ。で、その予測が当たると嬉しくてね。会話の中でも、どんな話をしたら相手が喜んでくれるのか、どんな話は花が咲かないのか。そういうことまで少しずつ見えてきたような気がした。
 
そんな話を鬼軍曹に話したら、毎週もらった名刺の枚数を報告してこいとか言われて、最初の内は2~3枚あればいいほうだったのが、4、5ヶ月目には毎週10枚はコンスタントに集められるようになって…。
 
今になってみれば、飛び込み営業っていうのは、仕事で何があっても動じない自信みたいなものを根づかせてくれたのかなって思ってるよ。今の時代はさ、あのころとは違って転職もままならないじゃない? でも、この先もしものことがあったとしても、自分はいかなる状況になっても、仮にアポがなくたって、いざとなれば飛び込み営業をやってだって見込客との関係を作ることができるんだっていう自信? それがある人は、ない人よりも絶対に強いと思うんだよね。だから、会社が新人に飛び込みを半年やらせるっていうのは、営業の基盤になる自信をつけさせるための儀式としてね、会社がプレゼントしてくれてるんじゃないかって……。当時の私は解釈したんだよね」
 
部下 「そうだったんですか」
上司 「いや、わりぃわりぃ。長く話しちゃったね」
部下 「いいえ。いいお話を伺いました」
上司 「どう思った?」
部下 「まだ実感としてわからないというのが正直な気持ちです。でも、わからないからこそ、やってみようかなという意識に変わりました」
 
上司 「そう? そう思ってくれたとしたら嬉しいな。仕事って、実はこうすればこうなるからヤレっていう仕事は意外と少なくてね。どうなるかわからないけれどやってみよう。どうなるかわからないからやってみよう。そういうことのほうが多いと思うんだ。
 
いつかキミも部下を持つようになるだろう。そのときになって、部下がなぜそんなことをヤルんですかと訊いてきたとする。明確に答えのあるケースばかりじゃないはずだ。だからと言って、ヤラなくていいとは言えないはず。それが仕事というものだと私は思っている。
 
先は見えないけれど、とにかくやってみる。ああでもないこうでもないと、もがくなかから見えてくるものもあるんじゃないかな。それを部下みずからが見つけたり、気づいたりできたとしたら、きっとその後の仕事人生に活きてくると思うんだよね。飛び込みという、ある意味じゃ当てのない仕事も、そんな発見をするためにはまんざら捨てたものでもないかなってさ。そんな意識で、まずは動いてみてくれたとしたら、私としては嬉しいね」
 
部下 「はい。だんだんと興味が湧いてきました」
上司 「せっかくだから、よかったらまた、飛び込みであったこととかを聞かせてくれないかな。私も若いころの気分を取り戻せるような気がしてワクワクするからね」
部下 「わかりました。必ず」
上司 「話ができて良かったよ。期待してるから」
部下 「はい。ありがとうございました!」
 

なんか大河ドラマのような壮大な独白ですよね(笑)。これをボスは演じてくれたんです、研修で。会議室の窓際に立って、外の景色のほうを見ながらです。私はなぜか涙が出そうになっちゃって(またまた笑)。

でも、ここまでできたとしたら相当なものですよね。見事な語り部(かたりべ)です。上司の独白を聴きながら、部下は上司に対する親近感が増したと思います。上司の若かりし日の飛び込みの経験談を臨場感を持って聴いたはずです。そして、自分が飛び込みをしているシーンを頭に描きながら、上司の独白に耳を傾けていたはずです。
 

ちなみにですが、わざわざ窓際に移動して外を見ながら独白するというのもテクニックのひとつです。相手と面と向かって視線を合わせながらやってしまうと、相手はプレッシャーを感じて肝心の話の中身に意識がいきません。物理的に距離を作って、視線も合わさないようにして独白するのです。
 
ボスがそうやって、カウンセリングで、親を施設に入れることを躊躇している娘さんや、自分の親を扶養から外して生活保護を申請することに否定的だった息子さんとかの気持ちを変えてしまう場面を、この5年間にたくさん目撃してきました。ホント、すごい人です!
 

ところで今日は、そんな尊敬するボスの誕生日でした。ささやかながらケーキを準備(単にショップで買っただけですが…)したところ、「毎年サンキューね。そうやって照れくさそうにハッピバーステー歌ってくれるでしょ?結構、感動しちゃうんだよね」と言ってくださって、夕飯をご馳走してもらいました。なんか、毎年こうなってしまうので、ご馳走してもらいたくってケーキを用意してるんじゃないかって思われやしないか不安なのですが…。今年もまた、楽しい夜を戴きましたっ!
 
 
すっかり長くなってしまってゴメンナサイ。
『独白』という説得技法に興味を持っていただけたでしょうか?     

独白が持つ可能性を、いつか読者のみなさんが実感できる日が来ることを願ってやみません。
 
それでは、また次回。
ごきげんよう。

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