【認知症予防大作戦プロローグ】恋愛遊戯でボケ知らず

恋焦がれたひとだった。近くて遠いひとだった。無謀なまでに、心底、愛したひとだった。
突然の覚醒から50年。歪んだ愛の漂流に漕ぎ出して40年。さいごの会話から30年。
壊れてしまった憧れのひとがここにいる。
この人を支えていかねばならない。どうしようもなくチャランポランでハチャメチャな甥に自信と勇気をくれた、憧れの叔母の愛と恩に報いるために・・・。

都内の総合病院に勤める彼のもとへ、母の弟である叔父から電話があったのは、街がクリスマス色に輝き始めた頃だ。何年ぶりだろう。祖父母の法事も、33回忌を最後に、親戚一同が会して執り行うこともなくなった。彼の両親が他界した後は、親戚づきあいはさらに疎遠になっていた。幼少の頃、時には面倒をみてもらった叔父ではあるが、そのときの彼には、ふだん仕事上で関わることの多いシニア患者たちに相対するのと何ら変わりはなかった。きわめてクールに会話をつなぐ。

「嗚呼、叔父さんですか。ご無沙汰しています。父の7回忌では、お心遣いをありがとうございました」
「やあ、教介くん。突然にすまないねぇ。実はウチのやつのことで相談に乗ってほしいことがあるんだよ。部長先生だって?大活躍だって聞いてるよ。いゃあ、博子には困っててね……。一度、時間を取ってもらえないものかなぁ。お願いするよ」

母方の叔父の妻。彼にとっては叔母である。その名前を耳にしたとき、彼は胸の内がざわめくのを感ぜずにはいられなかった。かすかな記憶をたどる。祖父の33回忌では顔を見なかったから、彼が結婚した時が最後だろうか。

「わかりました。月が替わったら、土日でもよろしければ杉並のほうへ伺いますよ」
「そうかい。ありがとう。助かるよ」

電話を切ると、デスクの椅子を回転させ、窓の外に目をやった。
また、あの人に会えるのだろうか。かつて身を焦がすほどに憧れていたあの人に……。

10日後。彼のすぐ目の前に、壊れてしまったあの人がいる。かつて恋焦がれた人が、変わり果てた姿で目の前にいた。30年ぶりのあの人は、すっかり変わり果てた姿でうなだれている。視線が宙を飛んだり地を這ったりとせわしない。が、耳元で名を呼びながら、小さな両手をそっと包み込むように握りしめたとき、もの哀しそうな瞳が彼と重なった…。

物心ついた時から、彼は母のすぐ下の弟に嫁いできた叔母が好きだった。きっかけは小学校一年の時だ。祖父母の家の中庭で遊んでいた時、たまたま、叔母が縁側ではじめての子に授乳する場面を垣間見てしまったのだった。あの日以来、叔母の抜けるように白い膨らみが頭から離れなくなった。

中学2年の夏、親族旅行のさなか、力づくで叔母とキスをした。その出来事があってから、叔母への想いはさらに加速。学校をさぼっては叔母のもとを訪れるようになった。せっせとラブレターをしたためて日参する甥に、しだいに叔母も態度を軟化させ、いつしか若さを持て余す甥をなぐさめてくれるようになっていった。

心躍らせて歓喜した彼だったが、叔母はどうしても最後の一線だけは超えさせてくれない。悶々とした状態が続くなか、高校一年の夏に、ついぞその時が訪れた。十分な助走期間のおかげもあってか、はじめての交歓で納得のいく時間を共有できた叔母と甥は、濃密な関係を積み重ねていった……。

転機が訪れたのは、彼が大学に入学してから。同世代の若い女の子に夢中になった彼は、あんなに憧れつづけていた叔母を軽んじるようになる。にもかかわらず、叔母は一切文句を言うこともなく、彼のすべてをやさしく受け入れてくれるのだった。それでも次第にふたりの距離は遠のき、甥が成人した後は連絡を取ることもなくなっていく。

ふたりがさいごに言葉を交わしたのは、彼の結婚披露宴。気づけば、あの縁側の出来事から50年以上の時間が過ぎていた。彼は叔母の前に跪く。こころで叔母の名を呼びながら、端正な青白い顔を見上げれば、叔母の瞳に歳を重ねた自分が映っている。

遠くで風の音を聞いた気がした。そして甥は、抗うことのできない強烈な力で、遠い昔のまぶしい季節に、いや、呵責の季節に引き戻されていった。叔母の瞳のなか、甥は遠いあの日のふたりの時間を甦らせるのだった。20歳ちがいの叔母と甥の、禁断の愛の物語を!

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さて、ご紹介した小説チックなお話は、私の親友である医師から聞いた実話です。血こそ繋がってはいないものの、彼が幼少期から想いを寄せていた親戚の叔母とのエピソードです。親友にとって、青春の一頁には欠かすことのできない女性だったにちがいありません。と同時に、この話は、脳の機能を維持したり甦らせたりする上で、男女間の恋愛の情というものが有効であることを再認識させられるエピソードでもあります。

私の会社(百寿グループ)では、2020年4月より、長生き時代最大のリスクである認知症予防を目的とする認知症予防講座『淑女と紳士のラブゲーム』を手掛けています。

私どもが毎年年初に行う『初詣客100人に聞きました!何を願懸けしましたか?』では、過去6年連続で「認知症になりたくない」がトップとなっています。ですが、認知症への危機意識が高い一方で、その予防策については確固たる定説がなく、結果的に成り行き任せになっているのが実情です。

しかしながら、西洋医学では確立されていない認知症予防ですが、全国の介護施設では、認知症の周辺行動の緩和事例が多数報告されています。百寿グループでは、3年半をかけて100ケースの分析を重ね、脳全体に円滑に刺激を与え、脳年齢を維持する効果大と思われる予防エクササイズを全10講座(20時間)に体系化しました。その内容は、シニアを退屈させないように配慮しながら、カラダとココロとアタマにハラハラドキドキ・ワクワクウキウキ感を喚起できるエクササイズとコミュニケーションゲームで構成されています。

★脳機能低下の原理を知る ★反射神経を刺激する ★簡易内観でこころのタガを外す ★アファメーションで自己肯定感を喚起する ★前向きな言葉で脳を刺激する ★愛する人に想いを綴ることでこころを温める ★詩歌を暗誦できるようにする ★本能的な高揚感で血流をよくする ★愛の場面を演じて幸せ気分に浸る ★家族やメンバーを相互に称えあう

百寿グループの英知を結集した、脳年齢を維持する感動プログラムであると自負しています。今後、同サービスを全国の老人クラブや地域コミュニティへお届けしていくつもりです。あわせて、笑いと涙、感動と歓喜で脳を活性化し、脳年齢を維持するための具体的な方法について、積極的に情報発信を展開してまいります。

そして、これから、認知症予防プログラム『淑女と紳士のラブゲーム』の内容をご紹介していきます。みなさんにもバーチャルで体験していただけたらうれしく思います。

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