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【争族の最新事情】遺産争奪戦から老親略奪戦へ

今回は、いわゆる争族(あらそうぞく)の最新事情についてお届けします。

財産まわりの相談を受けていて実感していることがあります。コロナショックの前後で、明らかに争族の質が変わってきています。もともと『争族』は、親の死後に展開される遺産相続争いのことを指していました。でもここ数年の争族は、親が生きているうちから勃発します。老い衰えた親を管理下に置いて、自分に都合いいようにコントロールする…。これが現在の争族の実態なのです…。

背景にあるエンディング前の療養期間の長期化

平均寿命と健康寿命の差。これを終末療養期間と呼びます。要するに、エンディングを迎える直前の療養期間のことです。ちなみに、健康寿命とは、医療や介護などの制約を一切受けずに自立した生活を送ることができる状態のことを言います。昭和40年代半ば、終末療養期間は約5年。私の祖父母は4人とも、65歳までに亡くなっています。それが令和4年現在の終末療養期間は、男性が9年、女性が12年となっています。

コロナ以降、志村けんさんのように、発症から2週間も経たずに他界されるケースも散見されますが、基本的に終末療養期間は長期化し、平均10年となりました。読売巨人軍の終身名誉監督の長嶋茂雄さんなど、脳梗塞発症から20年以上も療養期間が続いています。また、私の経験則ながら、認知症に罹患した場合は7年~8年と、平均よりは短い傾向があります。

争族の観点から言えば、志村けんさんパターンであれば、遺族の揉め事があるとすれば、当然のことですが、従来型の争族になります。でも、これからの争族はまちがいなく現代型の争族、つまり、認知症の兆しが出てきたり、要介護状態になったりした老親を手なづけて早期に財産を手中にしようとする兄弟姉妹間の諍いが増えてくると思っています。

老親の療養コスト負担に耐えられない現役世代

現在、認知症の人が1,000万人います。天涯孤独の人を除き、家族や親族が介護をはじめとるサポートをすることになります。ほとんどの場合、現役世代の子どもたちです。ご承知のとおり、今日では実の子どもであっても、親名義の預金口座に手をつけることはできません。
建前としては成年後見制度を利用することになりますが、親子ともども赤の他人の管理下に置かれるような状況を望む人などいませんから、現役世代の子どもは、とりあえず、コストを肩代わりしながら老親を支ることになります。

ただ、問題は、終末療養期間が長びく傾向にあることです。本来は親の財源で充当すべき医療や介護や生活支援に係るコストを、立て替え続けるだけの経済的余裕がない現役世代がほとんどなのです。そうなると、老親に多少なりと蓄えがあるのであれば、何とかしてそれを使えないものかと思案するようになって、私どもの事務所に辿りつく人も出てくるわけです。

普通預金で暗証番号がわかっていれば最悪の事態は避けられる

そんな場合の標準的な対応は、銀行と個別折衝して事情を話し、支店長判断とはなりますが、お子さんが親名義の預金口座からおカネを引き出せるようにしてもらいます。ポイントは、親の判断能力が完全に損なわれているとは決して言わないことです。そうすれば、成年後見制度にまっしぐら…という事態は回避できます。

(銀行にも支店長にもよりますが)親子であることを証明できて、キャッシュカードの暗証番号を知ってさえいれば、一日一回のATM操作で50万円まで引き出すことが可能です。その一方で、限度額が30万円とか20万円とか、引き出し回数の月額上限を設定されるケースもあります。経験的には、信用金庫がもっとも厳しいです。なお、定期預金だけはどうにもなりません。入院先や療養先に出張してでも本人確認を取ろうとしてきます。そうなると、老親が日常的に認知症であったり、親子関係が芳しくなかったりすると、そこから先へは進めなくなります。

普通預金であっても、子どもが暗証番号を知らなかった場合はどうなるか。残念ながら、おカネを引き出すことはできません。ただし、老親宛ての請求書を窓口に持っていけば、医療や介護に係るものだと客観的に認識できる請求については、銀行から請求元にダイレクトに送金を代行してもらうことは可能です。銀行としては、身内泥棒に配慮して、「何があっても、お子さんの口座への入金だけはしませんよ!」ということなのです。

結局は兄弟姉妹の存在が争族の原因

従来型の争族は、相続権を持った子どもが複数いるがために起きていました。ひとりっ子の場合は、よほど強欲な親戚でもいない限り、遺産争いとは無縁でした。ただ、現代型の争族は、老親とひとり息子・ひとり娘の間でも起きる可能性があります。老親がおカネに執着したり、わが子を信頼していなかったりで、一方の子ども側には、老親を支援するだけの経済力がない。そんな場合は、財産管理という建前で親のおカネを引き出しまくる身内泥棒に発展するリスクが高くなります。

しかし、何といっても圧倒的に多いのが兄弟姉妹間の老親囲い込み合戦です。介護するという名目で親を預かり、そそのかしたりダマしたりして、まずは貴重品を預かって勝手に親名義の預金口座からジャンジャンおカネを引き出しまくります。さらには、生命保険を解約させて返戻金をせしめたり、自分に都合のいい信託契約や遺言を用意して署名捺印させたり、親の手指を握って代書したりします。怪しんだ兄弟姉妹も同じことをして対抗します。家族介護の長期化で心が荒んだり、自身の家計がキツキツだったりすると、どうしても親名義の財産に目を奪われてしまいがちです。ふつうであれば信じがたいようなことが、あっけなく起こりうるということが、諸々の相談を受けているとよくわかってきます。

不動産・定期預金・有価証券類は従来型争族に持ち越される

老親名義の土地や家屋については、老親を囲っているうちに信託契約を偽装し、名義変更を画策する子どももいますが、それはごく一部に過ぎません。登記簿上に記録が残ってしまい、後々ほかの相続人にバレてしまうからです。なので、現代版の争族においては、親が生きているうちは普通預金の略奪合戦がほとんどです。不動産については、多くの場合、親の死後に従来型争族が再度勃発することになります。

親が遺言をしたためていなかった場合、遺産は基本的に法定相続通り均等分けとなります。終末療養期間に献身的に親を支えた子どもは、それに係るコスト(寄与分)を請求してくるかもしれません。これにはエビデンスが必要となるうえ、兄弟姉妹すべてが合意することが条件となるため、非常にハードルが高いのが実際のところです。親としては、介護を頼むのと同時に、然るべきおカネを前渡しすべきというのが私の持論です。

また、兄弟姉妹の中には、「姉貴は(学費、習い事費、留学費、生活費、結婚子育て費、住宅取得費…)たくさんおカネを出してもらってるから、その分は差し引かないと不公平だ」などとイチャモンをつけてくる人が少なからずいるものです。これを『贈与の持ち戻し』と言いますが、争族テーマとしては急増傾向にあります。相続税対策として贈与税非課税特例を使う親は多いですが、贈与を受けた子ども側のことを思えば、遺言で「持ち戻しは免除する」と明記しておく必要があります。が、そこまで対策を講じている人を、私は見たことがありません。

財産分与は遺言執行より有言実行せよ

終末療養期間が長期化している現代においては、従来の遺言相続は機能しづらくなってきています。医療や介護をはじめとするエンディングまでのサポートを頼む子どもには、それに係る予算と感謝料を事前に手渡しておくべきです。あれやこれやと子どもに作業を頼むばかりでおカネの話はスルーしておいて、結局は相続時にもそれが反映されないケースがいかに多いことか!おまけに介護者が相続権のない嫁だったりしたら悲惨すぎます。そんな親は、おそらく天国には行けないと思います。

また、遺言には、財産分与の全貌が全相続人に知られてしまうというデメリットがあります。均等分けにすれば、親の老後支援に貢献した子どもは面白くないし、差をつければ、貰える金額が少ない子どもが不公平だと言い出します。結局、全員が積極的納得に至ることはないのです。法廷には持ち込まれなくとも、親の死後、感情レベルでの争族に陥る兄弟姉妹は想像を絶するほどに多いものです。

頼まれもしないのに(ふたり以上の)子どもたちを世に送り出した親側の責任として、親としての威厳と判断力が万全の状態にあるうちに、老い先を託すわが子にはきちんと自身の言葉で依頼して、同時に、そのための予算と報酬を前渡ししてしまう。その上で、相続(親が他界した)時点では、遺産が均等割りされるよう段取りしておくなどして、子どもたちの争族を回避しなければなりません。それはまいがいなく、親の責務だと思います。


最後にひとつ、こんな回文をご紹介しておきましょう。

『世の中ね、顔かおカネかなのよ』(上から読んでも下から読んでも…)


というわけで…。

Happy Ending loves preparations   ですよ!

*各単語のアタマを取ると…。

HELP!

*人生100年時代の老い先案内人・山崎宏の完全オリジナルです。

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