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問題行動を伴う認知症対応7つのステップ(後編)

さて、前回の続編である。人生100年時代における最大のリスク・認知症。中でも、諸々の問題行動を伴う認知症の場合、家族の人生が壊れてしまう可能性を孕んでいる。いわゆる老老地獄から脱出するための具体的な方法論は、「モノ忘れ外来⇒認知症病棟⇒老健」である。これを実現するための7つのステップは、過去に300件近い実績のある確実な方法である。今回は、ステップ4からステップ7まで、一気にお届けしよう。

ステップ4.認知症病棟への保護入院
これまでの経験則から、医療相談室のMSWとの折衝がうまくいけば、一週間以内に具体的な入院日程の連絡が入るはずだ。もう、あと一歩のところまで来ている。
ところで、多くの場合、認知症の本人は、はじめは入院などイヤだと駄々をこねるものだ。しかし、ここは心を鬼にして、とにかく前に進むこと。なんなら、入院する旨を本人に伝えないという選択肢もある。入院当日というのは、だいたいは外来診察から入院病棟へと引き継がれていくものである。家族が保護入院の手続き(この書面は直系のお子さんの捺印が必要)を行うのと並行して、本人は診察室に入るや薬で眠らされ、移動式寝台で病棟へ運ばれていく。仮に本人が嫌がり抵抗したとしても、クスリの力で眠らされ、そのままキャスター付きベッドで運ばれていくことになる。なので、本人ではなく家族の意志で入院させるという意味で、これを「保護入院」と言っている。

入院病棟では病棟担当のMSWが登場してくる。そして、入院やら面会やらに係るルールの説明等がなされた後、こんな質問をしてくるはずだ。
「通常、認知症病棟への入院は、2カ月から3ヵ月となっています。退院後の具体的なことは、何か考えていらっしゃいますか?」

ここでは、こう答えるようにしたい。
「はい。やはり、自宅で家族と一緒にということは無理があると思いますので、老人ホームかグループホームを早速さがしはじめるつもりです。できればこの近くで、どこか良いところがあれば教えていただけると助かります」

つまり、早急に終のすみかを探して、なるべく早く病院を出ていきますよ、というポーズを示すことが重要なのだ。病院というのは、ある患者に3ヵ月以上、居座り続けられると収益が落ちてくるので、どんどんベッドを回転させたいものなのである。とは言っても、業務の特性上、嫌がる患者を力づくで追い出すこともできないので、規定の在院日数できっちりと退院する方向で動いてくれそうな家族には好感を持つわけだ。まちがっても、「できれば、可能な限り、1日でも長く入院させておいてほしい」などと言ってはダメ。口が裂けても、である。いくら本音はそうであっても、だ。いくらあなたが「正直」をポリシーとして生きてきたとしても、である。
入院待ちの認知症患者はうじゃうじゃいる。病院にとって望ましい新規患者と入れ替えに退院勧告を受けるのは、やはり、扱いづらい患者や家族なのだ。これが真実である。だからこそ、「もちろん3ヵ月で出ますよぉ~」オーラを漂わせること。これが大切になってくる。

ステップ5.入院30日経過時点の面談
概ね一か月が経過すると、本人の院内での様子をフィードバックするための面談がセットされることになる。実際は、施設探しの進捗をチェックされると思っていればまちがいない。ここで、あなたは、「仕事の合間を縫って必死に探しているものの、なかなか条件に合うところがなくて困っています。特に、こんなに費用が嵩むものだとは思っていなかったのでビックリしています…」的なムードを醸し出すようにすること。これが大切である。

MSWは、「どのあたりでお探しですか?」とか、「失礼ですが、ご予算的にはどれくらいを想定していらっしゃいますか?」などと訊いてくる可能性が高い。そのときは、「なるだけ住み慣れた地域に近いところで」・「月額10万円を超えないのが理想」と答えるようにする。つまり、現実的にあり得ない話をあえてするということ。都会になればなるほど、月額10万円で入れるような物件はあり得ない。公的施設である特養は、安価ではあるけれど、「順番待ちは3年以上」とか喧伝されているので、まぁ、ふつうに考えたら出口が見つからない。

さて、面談のさいごはこう結ぶようにしよう。
「なんとか、入院60日を目途に、もっと範囲を広げて、週末に田舎のほうとかも見学に行ってみるつもりです。また、適宜ご報告させていただきます」

そんなふうに、心から申し訳なさそうに言うこと。そして、いつもよくしてくれている職員の方々に対するお礼も忘れないようにしたいところだ。

ステップ6.入院60日経過時点の面談
そろそろ、病院側もこちらの動向に対して関心が高まってくる頃である。「もうそろそろ、次の行き先、決まったの?」といった具合に。この時点では、かなり具体的な地名や物件名を出して、「だいぶ精力的に範囲を広げて本気で探しているんだなぁ~」という印象を持たせることが重要となる。でも、帯に短しタスキに長し……といった感じで、これといった決定打に行き当たっていないもどかしさ。それを前面に出すようにする。そして、頃合いを見て、こう訊いてみよう。

「あのう。もちろん、継続して探して、なんとか手を打とうとは思っているのですが……。仮に3ヵ月経過時点で、次が決まっていなかったとしたら……。実際問題、どうなってしまうのでしょうか?」

ここで、気の利いた相談員なら、「行き先が確定するまでの繋ぎとして、老健という中間施設にいったん入所する」というオプションを出してくれることが予想される。しかし、あなたの切羽詰まった状況が相手に伝わっていなかったとしたら、「そうですねぇ。うちも入院待機者がたくさんいるものですから…」と言ってダンマリを決め込むかもしれない。いずれにしても、あなたは凛としてこう告げるようにする。

「とにかく、できる限り早期に確定させてご連絡します。明日から、会社のほうも休みを取ってますので、もっといろいろと廻ってみるつもりですので。ご迷惑をおかけしますが、どうかあと少しだけ、よろしくお願い致します」

ご家族も必死なんだな……と思わせることだ。ここまでいくと、相手は次の面談を持ちかけてくるか、「いついつまでに状況を教えてもらいたい」などと言ってくるはずだから、あとはそれに従えばいいだけの話である。

ステップ7.最終面談
入院から3か月程度が過ぎると、やはり病院側は方向性を決めにかかってくるのが一般的である。例外的に、病院側からは何の圧力もないままに、6カ月近く入院したケースも散見されるが。ここで、あなたははじめて、神妙な面持ちで老健の話を切り出すようにする。

「実は、先日、役所の介護保険課に相談に行ったのですが、そこで『老健』という話を教えていただきました。最終的に、どうしても適当な物件が見つからなかったとしたら、老健で時間稼ぎをするしかない……みたいに言われたのですが……」

こうして具体的に老健の話が出てくると、病院側の相談員もいよいよ老健についてガイドをはじめると思われる。そのなかで、「在宅復帰のリハビリ施設であって生活の場ではない」とか、「基本的に3ヵ月しか居られない」だとか言ってくるはずだ。でも、そんな話はスルーして構わない。神妙にうなずいたり、あいづちを打ったりしていればいいだけである。肝心なのは、病院側から、具体的な老健の名前を提示してもらうことだ。ふつう、どこの病院でも老健とのチャネルは必ずある。同系列のグループ内に老健を持っているところだって多いのだ。逆に言えば、最初から戦略的にそういう病院のもの忘れ外来を受診するという技もアリなわけ。

さぁ、勝負どころです。おもむろに訊いてみよう。
「こちらの病院がおつきあいのある老健……というのもあるのでしょうか?」

ないはずはない。「一応……」とかなんとかもったいぶりながら、いくつか老健の名前を出してくるはずだ。そうしたら、すかさず畳みかけていこう。

「是非、ご紹介してもらえませんか。急に施設探しとかやることになって、いろいろわからなくて手間取ったりしましたけど、あと3ヵ月あれば何とかなると思うんです。最悪の最悪、九州のほうとか行けば、かなり費用も抑えられそうなんで。あと少しだけ、猶予期間をいただけると、本当に助かります。何とかお願いします」

あなたが深々と頭を下げるのを見て、きっとMSWは満足げに言うはずだ。
「わっかりました。事情は理解しているつもりですので、ちょっと老健のほうに訊いてみましょう。空きがあるといいのですが……」

おめでとう!心配無用。空き、あります。大丈夫です。これまでの、MSWとの関係性にもよるが、相談員が「確認してみましょう」と言っておいて「ダメでした」となることは、99%ありません。本当に空きがなかったとしたら、入院期間を延ばしてくれると思っていい。大船に乗ったつもりで、相手の返事を待っていれば大丈夫です!

大事なところなので再確認しておくと…。病院(相談員)から退院時期について話があった際には、病院に頼んで、老健(老人保健施設)もしくは特養(特別養護老人ホーム)を紹介してもらうのがいいだろう。「老健は自宅復帰のための中間施設だから3ヶ月で退所しなければならない」というのが定説のようになっているが、全国の老健の8割近くが看取りまで対応していることを記しておく。

私は過去10数年、毎年30人前後のクライアントを、「モノ忘れ外来→精神科認知症病棟→老健」の流れでサポートをしてきた。すでに20数名が亡くなられたが、みな老健で最期を迎えられた。「3ヵ月経ったから出て行ってくれ」などと言われたケースは皆無ではないが、きちんと事情を話せば老健側でも考慮はしてくれる。まちがいない。

あと、余談になるが、私としては、民間の有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅(通称、サ高住)はお薦めできない。特に全国展開している大手介護事業者の物件はリスクが高いと思っている。公的介護施設のほうが断然安いし、サービス品質だってそうは変わらないからだ。他には、民間では唯一、その地域で代々医療を提供している病院や診療所が経営するサ高住(サービス付き高齢者向け住宅)がおすすめである。

さいごに

さて、病院が老健を紹介してくれることが決まると、おそらく数日以内に相談員から連絡が入るはず。当該老健の具体的な名前と、具体的なスケジュールを教えてくれるはずだ。MSWには、全身全霊で感謝のメッセージを伝えてほしい。そういうもので世の中は円滑に回っていくものだと、私は思っている。

ここまできたら、もう心配は要らない。一応、老健の相談員が施設内を案内してくれたあと、事務手続きについてガイドしてくれる。そのなかで、「3ヵ月ごとに在宅復帰判定委員会というのがあって、症状に改善が見られて、ご自宅での生活も可能と判断された場合には……」などと説明があるかとは思う。しかし、あなたはただ、フンフンとうなずいているだけでOKだ。なんの問題もない。認知症は改善しないのだから。老健に入ってしまえば、もう一件落着だ。

以上、7つのステップで、老親の認知症に苦慮してきた家族は、超安価な費用負担で、老人ホーム・ループホーム)・サービス付き高齢者向け住宅よりも、そして、全国で多くの人たちが懇願している特養なんぞよりも、もっともっと安全で快適な暮らしを確保できたことになる。

家族の、問題行動を伴う認知症で大変な思いをされているみなさん。この7ステップで、一日も早く自分の時間と人生を取り戻してください。心からお祈りしています。

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