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現役世代への提言 ~老親問題で不利益を被らないために~

今回は、そなえない老親にそなえさせる方法についてです。もう少し具体的に言いますね。エンディングまでに高確率で起こりうる老後の諸問題について、何ら段取りしていなかった親がそのまま倒れてしまった結果、切っても切れない親子の縁ゆえに、面倒を余儀なくされる現役世代がとても多いわけです。なので、仕事に家庭に忙しい現役世代のみなさんが、老親関連のことで不利益を被らないためのリスクヘッジの方法をお伝えしよう…ということです。

齢を重ねてますます我が強くなり、人の話に耳を傾けず、煩悩に執着して晩節を穢す老親がいかに多いことか。

この記事に書くことは、社会福祉士としてさまざまなケースを見てきたからこそ行きついた、老親リスクを回避する方法です。現役世代のみなさんには、転ばぬ先の折れない杖だと思って、是非とも読んでアクションを起こしてほしいと願っています。

だって、近い未来、老親問題は必ず現実のものとなりますし、親はひとりじゃ死んでいけない以上、好むと好まぬとにかかわらず、子であるみなさんが対応せざるを得ないのですからね。であれば、早めに老親対策を講じることで、逆にみなさんが何かしらのメリットを手にできるような方向にもっていくことを考えてみませんか?

それでは、関心を持っていただけた方のために、兄弟姉妹に先がけて老親の終活キーパーソンになって得をする方法をお話ししていきましょう。絶対にお得な話なので、どこかにコピペしておいて、何度も何度もくりかえし読まれることをおすすめしておきます。


さて、医療や介護の現場で使われる言葉に、「キーパーソン」というのがあります。ご存知でしたか?医療や介護の世界では、家族の誰かにキーパーソンになってもらうのが一般的です。簡単に言うと、折衝窓口とか折衝責任者といった感じです。

医療や介護を提供する側としては、ある患者(利用者)さんのことでいろいろな家族が出てきたり、逆に、だれも出てこなかったりすると、とても困ることになります。本人の判断能力や意思疎通能力が損なわれてしまった場合には、どうしたって家族に状況説明を聴いてもらったり、治療法の選択等について意思決定してもらったりする必要があるわけです。

医療職・介護職には”説明責任”というのが法律で定められていて、本人やキーパーソンへの説明と同意なしに、提供者都合で勝手に治療したり介護したりすることはご法度です。昔は医者が好き勝手に手術したり延命したりして家族には事後報告…なんてことがザラでしたが、現代はコンプライアンス(法令遵守)時代ですから、かなり過敏になっています。一部の病院では、「患者側の責任者を決めてください」とか「患者側責任者はどなたですか」とか、門外漢の人は心理的抵抗を覚えてしまうような表現や言動が罷り通っていたりします。

ただでさえ、仕事や家庭のことで忙しいなか時間を捻出して立ち会っているのに、しかも慣れない医療現場に身を置いて緊張しているのに、「責任」などという言葉を耳にすると、「げっ。なんか面倒くさそうだな。できれば関わりたくないな」といった具合に、ちょっとネガティブになってしまうかもしれません。

ですが、この記事でお伝えしたいのは、医療・介護のことのみならず、老親のエンディングに至るまでの諸々の課題すべてについて、兄弟姉妹に先がけてキーパーソンになるべきだということです。そして、長い目で見たときにそのほうが得ですよ…ということなのです。


ということで、20年以上もの長きにわたり、たくさんの親子問題に携わってきた経験から、誰よりも早く、老親の終活キーパーソンになることをおすすめします。兄弟姉妹がいる場合は、特にそうすべきです。理由は簡単で、この役割を担う子どもが、財産承継においてもっとも有利だからです。

これまでの記事で何度もお話ししてきたように、老親はひとりで死んでいくことはできません。どうしたって、子どもたちのサポートが不可欠です。子ども側がいくら望まなかったとしても、結局は親のことで動かざるを得なくなるのです。それが親子というものであり、親子の縁は死んでも切れないということなのです。

医療や介護のみならず、実家の売却、葬儀の段取り、遺品の整理、死後の届け出等々、面倒ばかりが想像されるかもしれません。ですが、これらは、結局は子どもたちの誰かがやらざるを得ません。であるならば、いちはやく老親との間にギブ・アンド・テイクの関係を樹立して、キーパーソンの役割を果たすために必要なコストを含めた対価を得てください

加えて、親子の関係を再構築して、絆を深めて、幼少の頃のような相思相愛を取り戻してください。絶対にそうしたほうがいいですよ! 
心の底から、そう思っています。

例えば以下のようなことについて、両親と会話する人はほとんどいないのではないでしょうか。

・両親はそれぞれ、どのように生まれ、どんな青春時代を過ごしたのか。
・結婚前の両親はどのように出会い、どのように自分が生まれてきたのか。
・自分が物心つくまでの間、両親は自分とどのように関わってくれたのか。
・両親が人生でいちばん大事にしてきたことは何か。
・両親はいま、自分に対して何を思い、何を望んでいるのか。
・両親はこれからの人生をどのように過ごしていきたいのか。(これが、いわゆる終活の話)

ほんの一例ですが、老親とこうした会話と時間を積み重ねていくことは、私たちのルーツをたどるプロセスなのです。両親の人生について意識的に知ろうとすることで、私たちの原点が、原風景が、生まれてきたことの意味がわかっていくのです。

付け加えておくと、こうした話は、現役世代のみなさんも50歳ともなれば、わが子と積極的に交わすべきです。それが終活の第一歩です。「いや、ちょっと早すぎるでしょ?」なんて思う人は要注意です。人間50歳になったら、明日の朝、今日と同じように目を覚ます保証などありませんよ。健康上の問題以外でも、事故や事件や天災に巻き込まれないとも限りません。大切なのは、いつ何が起こったとしても、可愛いわが子が厄介や面倒や不利益を被らないように、そなえておくこと。親たるもの、これだけは肝に銘じておきたいところです。

ちょっと話がそれましたが、老親と現役世代が一緒になって、それぞれの終活シナリオを作っていくのが理想かもしれません。共同作業をすることで、まちがいなく心理的距離が縮まりますからね。両親と生前にこんな時間を共有できたとすれば、命日に墓前で手を合わせるたびに、親への感謝の念が湧いてくるはずです。そんな私たちの背中を、娘や息子が見ています。家族であることのすばらしさ、親子であることのすばらしさが、おのずと引き継がれていく瞬間です。

おもしろいデータがあります。
子どもが複数いる老親世代(70代~)の8割が、財産は均等分けにすると言っています。でも、「親はひとりじゃ死んでけない」という話をした後で同じ質問をすると、数字が逆転します。8割の老親が「財産分けにおいては差をつける」と考えなおします。要するに、老後のサポートをいちばんしてくれた子どもには、おカネを多めに残すようにしたい……。冷静に、そう気づくのです。

老親の終活のキーパーソンになれば、もちろんワークロードは生じますが、親子の接触頻度が高まるほどに信頼関係が深まり、好感度が高まり、愛着が増して、そして頼っていくものです。当然の結果として、かけがえのないわが子に、老後支援の労力相当分以上のおカネを渡してあげたくなるのです。

なので、縁あってご両親のもとに生まれてきたのであれば、親の老後に積極的に関わって、幼少の頃のような関係を取り戻して、結果として、財産承継を有利に進めてみてはいかがでしょうか?


いかがでしょうか。ちょっとは、ちょっと見やっかいな老親と積極的に(戦略的に)関わってみようかな…という気になってもらえたでしょうか?

老親の終活キーパーソンになるための具体的な話の進め方は、『縮伝頼渡(しゅくでんらいと)』の4つのステップで行っていきます。次回の記事から、順を追って具体的に書いていきますので、楽しみにしていてください……。

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