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米国における生成AI関連訴訟のあらまし―2024年2月編―


はじめに

Twitter(現X)をやっていると、海外の生成AI企業動向の情報収集・周知されている方をお目にすることが多いです。さらに訴訟動向に関するものを取り上げているときもあるので、ここは法学の研究者の端くれとして紹介せざるを得ない…!という気持ちで2つの主な訴訟における裁判所の決定について紹介してみようと思います!

※筆者は英米法を専攻していたわけではないので、民事訴訟ないし米国法に関する用語の誤訳や法律上の解釈のミスがあれば忌憚なくご指摘ください。

1.2月8日決定:Sarah Andersen, et al. v. Stability AI LTD., et al., Case 3:23-cv-00201-WHO(特別申立と費用請求にかかる棄却決定)

本件は、Sarah Andersen, et al. v. Stability AI LTD.に付随して提起された、Stability AIがAndersenらに対して申し立てた特別申立です。
※著作権法におけるフェア・ユース(§106)をめぐる争いではないことに注意されたし。

こちらの訴訟は以下のツイート(ポスト)が示すように、日本語の記事には本日現在なっていないので、マイナーな決定ではあります・・・。

判決(決定)本文は以下のリンクをご参照ください。
https://www.scribd.com/document/704715651/Andersen-v-Stability-AI


(1頁)
DeviantArt社は、反SLAPP法(カリフォルニア州民事訴訟法§425.16)に基づく特別申立[special motion to strike:「特別削除の申立」とも翻訳されることがある。本記事では「特別申立」と表現する。―訳者注]を再提起した。 以下に説明するように、申立および修正申立は反SLAPP法の公益の適用除外に該当するため、DeviantArtの申立は棄却される

背景

先の命令で、私[裁判官のこと―訳者注]は3組の被告による棄却申立を大部分で認め、一部を却下した(Dkt. No. 117 (October 2023 Order) )。また、被告のうち1社であるDeviantArt, Inc.は、カリフォルニア州の反SLAPP法である(California Code of Civ. Proc. § 425.16. Dkt.No.50)。この申立は他の被告も参加した(Dkt .No.54, 59)。申立は、原告のパブリシティ権の主張のみに向けられ、DeviantArtとその他の被告が棄却申立で行ったものと同じ主張を行った(例えば、Dkt. No. 49を見よ)。

2023年10月決定で、私はパブリシティ権に関する請求を棄却し、原告に「パブリシティ権に関する理論を明確にするとともに、各被告が特に広告に関連して各原告の名前を使用したこと、および被告のその他の商業的利益に関して、もっともらしい[plausible]事実を主張すること」を要求した(決定21-22頁)。また、パブリシティ権の主張に対するDeviantArtの第一修正抗弁についても検討したが、法律上の問題として適用されるとは認めず、


(2頁)
「変形的使用の抗弁の適用可能性は、原告がパブリシティ権の主張を明確化し、そうでなければ修正の上で、その後の時点で証拠による判断するのがよい」と結論づけた、(22頁参照)。

 DeviantArtの特別申立とは別に、私は以下のように説明した。

「DeviantArtは、原告らのパブリシティ権に対して特別申立を提起し、そこでの原告の行為はカリフォルニア州反SLAPP法(カリフォルニア州民事訴訟法§425.16.20)により保護される活動であると主張している。反SLAPP法が適用されると仮定した場合、言い換えれば、DreamUpプログラムを提供するDeviantArtの行為は、同法により保護される表現的行為であると仮定した場合、特別申立の本案は、パブリシティ権の請求が米国著作権法によって先占されているかどうか、また、それ以外の適切に主張されているか否かという、被告が特別申立で主張するものと同じ論点によるものである。

 私は、パブリシティ権に関する請求を、修正の余地を残して棄却したため、DeviantArtの特別申立に関する判断[ruling]を延期する。原告がパブリシティ権に関する主張を再び主張した場合、DeviantArtは特別申立を更新することができ、私はその時点でその本案申立について検討する」

決定27-28頁

 原告は2023年11月29日に修正申立を提出した。原告は修正申立からパブリシティ権の主張を省いた(Dkt.No.129.)。DeviantArtは特別申立を更新し、原告が異議申立を取り下げたことに照らして、これを認めるべきであり、最初の申立と2回目の申立を行う際の弁護士費用を請求する権利があると主張した(Dkt. No. 136.)。

法的基準

カリフォルニア州の反SLAPP法は、「言論の自由および請願権の行使を『主として凍結させるために提起される訴訟』から保護し」、「公共的意義を有する問題への継続的関与を促すため」に制定された。FilmOn.com Inc. v. DoubleVerify Inc., 7 Cal.5th 133, 246 Cal.Rptr.3d 591, 439 P.3d 1156, 1160 (2019) (Cal. Civ. Proc. Code § 425.16(a)を引用)。反SLAPPの申立を判断する際、裁判所は2段階のプロセスを踏む(Equilon Enterprises v. Consumer Cause, Inc., 29 Cal.4th 53, 67 (2002))。 第一段階では、裁判所は申立当事者が「言論の自由に対する合衆国憲法修正第1条の権利を促進する行為から訴訟が生じたことを疎明」したかどうかを評価する。


(3頁)
(Nat'l Abortion Federation v. Center for Medical Progress, Case No. 15-cv-03522-WHO, 2015 WL 5071977, at *3 (N.D. Cal. Aug. 27, 2015) 。 申立被告[moving defendant]は、この段階において、保護される活動の全ての主張と、それによって支持される救済の請求を特定する責任を負う。申立当事者[moving party]が第1段階を立証できた場合、その責任は非申立当事者に転換され、非申立当事者はその主張を優越する合理的な蓋然性を示さなければならない(Makaeff v. Trump Univ., LLC, 715 F.3d 254, 261 (9th Cir. 2013) )。「原告が請求において優越する蓋然性を立証するためには、法的問題として判決を求める申立に用いられる基準と同等の基準を満たさなければならない」。 Price v. Stossel, 620 F.3d 992, 1000 (9th Cir. 2010) 。

2段階の本案分析を行う前に、裁判所は、法令の適用除外の一方または両方が適用されるかどうかを検討しなければならない(Takhar v. People ex rel. Feather River Air Quality Mgmt. Dist., 27 Cal. App. 5th 15, 25 (2018) )。適用除外について、反SLAPP法は「もっぱら公益のために、または一般市民のために提起されたいかなる訴訟」(Civ. Proc. Code § 425.17(b))[1]または、営利的言論 [commercial speech] から生じる訴因には適用されないと規定している(§ 425.17(c) )。

検討

原告は、被告のAIアートクリエイション製品の訓練および/または販売促進のために作品を使用されたアーティストのクラスを代表して救済を求める本件は、公益適用除外条項に該当すると主張している(反対意見6-8)[2]。反対意見の中で、原告は、正に的を射ている最近の第9巡回区判決に大きく依拠している(Martinez v. ZoomInfo Techs., Inc., 82 F.4th 785, 790 (9th Cir. 2023) )。


[1] DeviantArtは、原告がDeviantArtの特別申立に対する事前の異議申立でこの適用除外を主張しなかったため、原告がこの適用除外を主張することはできないと主張している(Reply at 5-6)。 しかしながら、反SLAPP適用除外条項の適用可否は法律上の問題であり、裁判所が第一審で検討する必要がある(See Takhar, 27 Cal. App. 5th at 25. )。

[2] 公益の適用除外は、以下の3つの条件を満たす、「もっぱら公益のために、または一般大衆のために提起される」事件を対象とする。すなわち、⑴原告が一般市民や原告が所属する集団のために求められる以上の救済,またはそれと異なる救済を求めていないこと。⑵ 訴訟が成功した場合,公共の利益に影響を与える重要な権利を実現し,一般市民または大規模なクラスの人々に大きな利益を与えることになること。⑶ 私的執行の必要性があり,原告に不相応な経済的負担を強いるものであること。(§ 425.17(b))。


(4頁)
Martinez事件では、陪審員はカリフォルニア州の関連法規を幅広く分析し、カリフォルニア州のパブリシティ権に関する法定およびコモンロー上の請求、ならびにプライバシーおよび知的財産権に関する請求に違反するとして、被告のオンライン・ディレクトリによる原告の氏名および肖像の使用に対する救済を求める集団訴訟は、公益の適用除外に該当すると結論づけた(Martinez, 82 F.4th 785, 787を参照)[3]。

被告の、最新の決定理由書 [Statement of Recent Decision] (Dkt. No. 156) は、第9巡回区裁判所がMartinezの全員法廷で再審請求を認め、協議結果 [panel decision] が無効となったことを指摘している(Martinez v. ZoomInfo Techs, Inc., Ninth Circuit Case No. 22-35305, 2024 WL 189137 (9th Cir. Jan. 18, 2024) を参照)。もはやこれは拘束力を持たない。それにもかかわらず、一般的な集団訴訟とカリフォルニア州のパブリシティ権請求に対する公益例外の適用に関して、カリフォルニア州法を徹底的に分析しており、私はこの意見書のこの部分が参考になると思う。

適用除外に目を向け、425.17条(b)が要求する3つの要件 [prong] を考慮すると、原告は、侵害されたパブリシティ権に関する請求に関して、集団に対して求める救済以上の、あるいはそれとは異なる救済を求めておらず、第1の要件を満たしている。第3の要件も満たしている。私的強制が必要である。反SLAPP申立とそれに付随する手数料条項で、どの当事者が誰を強制しようとしているのかについて、当事者同士が熱弁をふるっていることからもわかるように、また、何十億もの作品が製品の学習に使用されたとされていることを考えれば、資金力のある被告に対してこの種類の申立を提起するための費用と比較すれば、原告の実際の経済的利益は取るに足らないように思える。

当事者間の主な争点は、第2の要件、すなわち「訴訟が成功した場合、公共の利益に影響する重要な権利を行使することになり、一般公衆または大多数の者に、金銭的か非金銭的かを問わず、重要な利益を与えるか否か」についてである(第425.17条(b))。この要件について、原告は、カリフォルニア州の長年にわたるパブリシティ権を保護する法規およびコモンローの方針から、パブリシティ権の請求が成功すれば「公共の利益に影響する重要な権利を行使する」ことになると主張している。


[3] DeviantArt社は、原告は先の特別抗告に対する異議申立で公益適用除外を提起していないため、この時点で、公益適用除外を主張することはできないと主張する。この適用除外が適用されるかどうかは法律上の問題であり、いかなる時点においても検討することが適切である。


(5頁)
被告が商業的に提供する作品生成製品が、アーティストの名前をどのように使用できるか、あるいは使用できないか(アーティストのスタイルに関連するか、製品のプロモーションに関連して名前を使用するか)は、重要かつ最先端の問題である。そのような製品に関連して自分の名前を使用することに異議を唱えるアーティストの権利の範囲を明確にすることは、ともすればカリフォルニアのアーティストに大きな利益をもたらすだろう。

DeviantArtはこれに異議を唱えている。すなわち、DeviantArtは、オンライン・ディレクトリが集団訴訟メンバーの肖像を使用して、完全なデータベースのサブスクリプションを販売したという原告の申立を考慮したのは、この製品を作動させる方法が、基本的な「ティーザー情報」(名前と職種)を表示するとともに、完全なデータベースにアクセスするための完全なサブスクリプションの購入を勧めるものだったからだという原告の主張をMartinezが考慮しているのだ、と。DeviantArt社によれば、ティーザーや広告に原告の名前が使用されたことは、カリフォルニア州の広範なコモンローと法律によるアイデンティティの商業的濫用に対する保護を考慮すると、原告のパブリシティ権請求が第2要件を満たすとMartinez側が判断した理由であるという(Reply at 5-8.4)[4]。

DeviantArtは、原告の第一主張を、アイデンティティの商業的濫用ではなく、芸術的スタイルの濫用に対する救済を求めるものであるとし、第2要件は充足されていないと主張している(同上)。しかし、原告の第一主張は、パブリシティ権の主張を裏付けるために、彼らの氏名の使用を主張している。

Compl. ¶ 205.

[4] 仮に判例法として残っていたとしても、Martinezがパブリシティ権に関する請求がすべて公益適用除外条項の第2要件を必然的に満たすような、範疇的な適用除外条項が創設されたわけではないという点については、DeviantArtと同意見である。DeviantArtの通り、裁判所はパブリシティ権に基づく集団主張に対する特別申立を認めている(例えば、Maloney v. T3Media, Inc., 853 F.3d 1004, 1010 (9th Cir. 2017) を見よ。) しかし、Maloney事件の裁判所は公益適用除外を考慮していない。パブリシティ権の主張を提起する集団訴訟に対する反SLAPP法の適用は、公益と営業的言論の適用除外のいずれが適用されるかを判断する前に、私がそうであったように、事件の具体的な主張と関係する申立を考慮して、個別事例に応じて判断されなければならない。


(6頁)
Martinezとは全く別に、公益の適用除外の第2要件はここでも満たされていると私は判断する。原告らは、被告らが原告らの氏名を用いてアート作品やその市販品を宣伝したと主張した。それにもかかわらず、パブリシティ権の請求は棄却された。理由は以下のとおりである。

原告にとって問題なのは、DreamStudio, DreamUp, またはMidjourney製品の広告、販売、購入勧誘のために、被告が原告の氏名を使用したことをもっともらしく主張するための、3名の原告に固有の事実が訴状のどこにも記載されていないことである。また、製品のテキスト・プロンプトにこれらの原告の名前を使用することで、「原告の芸術的スタイルをよく知る人々が、原告がその画像を作成したと信じるに足りるほど十分に類似したAI生成画像」がどのように生成され、出力画像がどの学習画像とも「ほぼ一致」しない可能性が高いという、論旨が矛盾する申立に照らして、原告の氏名に関連する営業権にもっともらしい損害をもたらすことになるのかに関する主張もない。

Andersen v. Stability AI Ltd., No. 23-CV-00201-WHO, 2023 WL 7132064, at *12 (N.D. Cal. Oct. 30, 2023)

もし原告がそのような事実を主張できていたならば、原告はその請求を述べただろう。だからといって、当初のパブリシティ権の請求が、DreamUpの販売もしくは宣伝に関連した氏名の使用に基づくものであることを否定するものではない。

公益適用除外はここでも適用される。DeviantArtの特別申立は、第一主張の本案および現在検討されているとおり、棄却する[5]。


IT IS SO ORDERED.

Dated: February 8, 2024



[5]  この結論からすると、原告の請求が第425.16条(e)に基づく保護された活動を攻撃したものであるというDeviantArtの主張が正しいか否か、あるいはDeviantArtが優勢な当事者であるかどうかを考慮する必要はない。また、反SLAPP法または合衆国法典第28編第1927条に基づく原告の慰謝料請求も略式で棄却する(反対意見10-11)。DeviantArtの第一および更新された特別申立は、瑣末なものでも、全く利益がないものでもなかった。


参考文献
渡邊和道「カリフォルニア州反SLAPP法の適用除外」金沢星稜大学論集53巻2号(2020年)175頁以下。


2.2月12日決定:PAUL TREMBLAY, et al.,
,v. OPENAI, INC., et al., 

これは対OpenAI訴訟のうち、作家らが提起した訴訟です。決定の1頁を読んでいただければわかる通りで、一部認容、一部棄却の裁判所の決定です。

Gigazineさんの記事の見出しだと誤解を生みそうなので、以下の指摘もなされています(本決定の概要はこちらを読むのをおすすめします)。

判決本文はここからアクセス可能です。
https://caselaw.findlaw.com/court/us-dis-crt-n-d-cal/115818024.html

…ということで、判決文全文に行ってみましょう!


これは暫定的クラス著作権訴訟[putative class action copyrght case]である。OpenAI, Inc.の棄却申立は2023年12月7日に当裁判所で審理された。当事者により提出された書類を閲読し、そこに記載された両当事者の主張および審理での主張、ならびに関連する法律上の権利者を仔細に検討した結果、当裁判所は以下の理由により、本申立の一部を認容し、一部を却下する。

Ⅰ.背景

当裁判所には、Tremblay et al v. OpenAI, Inc. et al, 23-cv-3223とSilverman et al v. OpenAI, Inc. et al, 23-cv-3416という、ほぼ同一の2件のクラスアクションがある。原告らは書籍の著者であり、その書籍がChatGPTという人工知能(「AI」)ソフトウェアを操作するOpenAIの言語モデルの学習に使用されたと主張している。その書籍がChatGPTという人工知能(「AI」)ソフトウェアを操作するOpenAIの言語モデルの学習に使用されたと主張している¹(Silverman Compl.Silverman Compl.¶ 1-4; Tremblay Compl.¶¶ 1-4.)。原告のPaul Tremblay, Sarah Silverman, Christopher GoldenおよびRichard Kadrey(以下「原告ら」と総称する)は、その書籍において登録された著作権を保有している。


[1] 本訴訟における棄却の申立ての目的上、当裁判所は訴状に記載されたすべての事実主張を真実とみなし、原告側に最も有利な解釈で弁論の全趣旨を解釈する。Manzarek v. St. Paul Fire & Marine Ins., 519 F.3d 1025, 1031 (9th Cir. 2008)。


Tremblay Compl. ¶¶10, 12, Ex. A (The Cabin at the End of the World (Tremblay))²; Silverman Compl. ¶¶ 10-13, Ex. A (The Bedwetter (Silverman); Ararat (Golden), and Sandman Slim (Kadrey)).

被告OpenAI³は、大規模言語モデル(または「LLM」)として知られる特定のAIソフトウェアを作成し、販売している(Tremblay Compl.¶ 23.)。これらの言語モデルは、「学習データセット[training dataset]」として知られる大量のテキストを入力することで「学習」される(同上)。言語モデルは学習データセットからテキストをコピーし、「表現的情報[expressive information]」を抽出する(同上)。ChatGPTはOpenAIの言語モデルで、有料ユーザーがテキストプロンプトを入力すると、ChatGPTがそれに応答し、質問に答えたり本を要約したりする「人間の推論をシミュレート」する(同上、¶¶ 22, 36-38.)。ChatGPTは、学習データからの「パターンとつながり」に基づいて出力を生成する(同上 ¶ 39)。 

 OpenAIは原告の著作権で保護された書籍を複製し、学習データセットに使用した(同上 ¶ 24)。ChatGPTは、各原告らが著した書籍を要約するように入力されると、書籍の内容とテーマについて正確な要約を生成した(同書 ¶41(Ex.Bを引用); Silverman Compl.42(Ex. Bを引用))。

 原告は、クラス期間中にOpenAIの言語モデルの学習データとして使用された著作物の著作権を所有する米国内のすべての人々のクラスを代表することを求めている(Tremblay Compl.¶ 42, Silverman Compl.¶ 43.)。

 原告らは、(1)直接的著作権侵害(争点Ⅰ)、(2)代位侵害[vicarious infringement](争点Ⅱ)、(3)デジタルミレニアム著作権法(「DMCA」)第1202条(b)違反(争点Ⅲ)、(4)カリフォルニア州Bus. & Prof. Code第17200条に基づく不公正競争(争点Ⅳ)、(5)過失(争点Ⅴ)、および(6)不当利得(争点Ⅵ)である。

 OpenAIは2023年8月28日、争点ⅡないしⅣの棄却を求める即時棄却申立を提起した(ECF 33、(「申立」)


[2] 原告Mona Awadは、予断なく自発的に請求を退けた(ECF 29)。
[3] 被告は、原告らが総称して 「OpenAI 」と称呼する7つの事業体である(ECF 33(「申立書」)14頁(Tremblay Compl.¶¶13-19頁; Silverman Compl. ¶¶14-20頁を引用)。当裁判所はこの用語法[naming convention]に従う。
[4] 被告の棄却申立は、SivermanおよびTremblayの訴えに関するものであり、同時に両判決要録に収録された。



(3頁)

Ⅱ.法的基準

連邦民事訴訟規則8条(a)は、「申立人が救済を受ける権利を有することを示す、簡潔かつ平易な主張の陳述」を記載することを義務付けている。被告は、連邦民事訴訟規則12条(b)(6)に基づき、救済が認められる主張を述べていないとして、請求棄却を申し立てることができる。「規則12(b)(6)に基づく却下は、訴状に認識可能な法理論、または認識可能な法理論を裏付けるのに足りる事実が欠けている場合にのみ適切であるとする(Mendiondo v. Centinela Hosp.Med. Ctr., 521 F.3d 1097, 1104 (9th Cir. 2008))。連邦民事訴訟規則12条(b)(6)の申立に対抗するためには、原告は「表面上もっともらしい救済の主張を述べるのに足りる事実」を主張しなければならない(Bell Atl.Corp. v. Twombly, 550 U. S. 544, 570 (2007))。原告が「被告が申し立てられた違法行為に対して責任を負うという合理的推論を裁判所が導くことができるような事実的内容」を主張する場合、その主張は表面上もっともらしいものとなる(Ashcroft v. Iqbal, 556 U. S. 662, 678 (2009))。

 訴えのもっともらしさを検討する際、裁判所は「訴状に記載された事実主張を真実として受け入れ、申立提起していない当事者に最も有利に解釈する」とする(Manzarek, 519 F.3d at 1031)。とはいえ、裁判所は「もっともらしいが確証のないものにすぎず、正当化しえない事実の演繹的推認、もしくは不合理な推論を真実とは認めない」。In re Gilead Scis. Secs. Litig., 536 F.3d 1049, 1055 (9th Cir. 2008) (引用省略)。

Ⅲ.分析

被告は、著作権の直接侵害に関する請求を除くすべての争点の棄却を求めている(申立書18頁)。被告は、代位的著作権侵害を理由とする争点2の棄却、デジタルミレニアム著作権法(「DMCA」)第 1202 条(b)違反を理由とする争点Ⅲの棄却、カルフォルニア州Bus & Prof. Code 第17200条に基づく不正競争行為を理由とする争点4、過失を理由とする争点5、および不当利得を理由とする争点6である(同上)。裁判所はそれぞれを順を追って説明する。

A. 著作権代位侵害(争点Ⅱ)

[米国]著作権法は、(1)「著作権のある著作物を複製すること」、(2)「二次的著作物を作成すること」、および(3)「著作権のある著作物のコピーを…公衆に頒布すること」に対する排他的権利を著作権者に認めている(合衆国法律集第 17 編第 106 条(1)-(3))。著作権保護は、著作物の基礎となる「すべての思想、理論および事実」には及ばない(Eldred v. Ashcroft, 537 U. S. 186, 219 (2003); 17 U. S. C. § 102(b)を見よ)。


(4頁)

 実際、「著作物が著作権で保護されているという事実だけでは、著作物のすべての要素が保護されるとは限らない」(Corbello v. Valli, 974 F.3d 965, 973 (9th Cir. 2020) (引用省略))。

 著作権侵害は、原告が、(1)「有効な著作権を有する」こと、(2)「被告が、自分の作品の一部をコピーした」ことを示す必要がある(Corbello, 974 F.3d at 973.)。第2の要素は「2つの異なる要素を含んでおり、それは『コピーすること』と『違法な流用』である(同上, 974 F.3d.)。「コピー」とは、直接証拠によって、あるいは被告が原告の著作物にアクセスし、2つの著作物が、コピーを立証することとなる類似点を共有していることを示すことによって証明することができる一方、「違法な流用」のメルクマール[hallmark]は、その著作物が本質的な類似性を共有していることであるという(Skidmore as Tr. for Randy Craig Wolfe Tr. v. Led Zeppelin, 952 F.3d 1051, 1064 (9th Cir. 2020)(「『違法な流用』のメルクマールは、当該著作物が本質的な類似性を共有していることである」)(原文強調)を参照)。
 代位侵害の主張には、直接侵害の最低限度で必要とされる証明[threshold showing]が必要である(Perfect 10, Inc. v. Amazon.com, Inc., 508 F.3d 1146, 1169 (9th Cir. 2007) (「Amazon.com」);A&M Recs., Inc. v. Napster, Inc., 239 F.3d 1004, 1013 n.2 (9th Cir. 2001) aff'd, 284 F.3d 1091 (2002) (「著作権侵害に対する二次的責任は、第三者による直接侵害がない場合には存在しない」)。次に原告は、「被告が、(1)侵害行為を監督する権能を有し、(2)侵害行為に直接的な金銭的な利害関係を有する」ことを証明しなければならない(Perfect 10, Inc. v. Giganews, Inc., 847 F.3d 657, 673 (9th Cir. 2017) ("Giganews") (引用省略))。

 被告は、(1) 原告は直接侵害があったことを主張していない、(2) 原告は被告が「監督する権能」を有していたことを主張していない、(3) 原告は 「直接的な金銭的利益」を主張していない、という3つの理由から、代位侵害の主張は失当であると主張している(申立書 19-21頁)。当裁判所はまず、原告が直接侵害を十分に主張しているかどうかを検討し、最終的には被告の後者の2つの主張には触れないこととする。

 原告は、「直接的コピー」の証拠を有しているため、「本質的類似性」を主張する必要はないと示唆している(ECF 48(「反論」)15頁)。被告は言語モデルを学習させるために著作権で保護された書籍を直接コピーしたため、原告は本質的類似性を示す必要はないと主張している(同上15(Range Rd.Music, Inc. v. E. Coast Foods, Inc., 668 F.3d 1148, 1154 (9th Cir. 2012)を引用している。



(5頁)

(「本質的類似性」とは、「侵害とされる作品が、オリジナルを完全に複製することなく、オリジナルの要素を流用している場合」に、複製が行われたかどうかを判断するのに資すると説明している)。原告はRange Rdを誤解している。同判決では、著作権侵害がバーでの著作権で保護される楽曲の公の演奏であったため、裁判所は本質的類似性を認定する必要はなかった(Range Rd., 668 F.3d at 1151-52, 1154.)。その原告らは、演奏された楽曲が保護された楽曲であるという反論の余地のない証拠を提出したため、本質的に類似していることを示す必要はなかった(同1154頁)。本件における原告らの主張は、ChatGPTの出力が著作権で保護された書籍の直接的なコピーを含んでいるというものではない。直接的複製を主張していないため、原告は出力と著作物との間の本質的類似性を示さなければならない(Skidmore, 952 F.3d at 1064; Corbello, 974 F.3d at 973-74を参照のこと)。

「OpenAI Language Modelsのすべての出力が侵害する二次的著作物である」という原告らの主張は不十分である(Tremblay Compl.59; Silverman Compl.¶ 60)。原告は、出力内容を説明することも、特定の出力が原告らの書籍と本質的に類似している、あるいはまったく類似性がないとも主張することもできていない。従って、当裁判所は、副次的著作権侵害の主張を、訂正の余地を残して棄却する。

B.DMCA第1202条(b)(争点Ⅲ)

著作権法は、代位的および直接的な侵害からの保護に加え、著作権管理情報(「CMI」)、すなわち、題号、著作者、著作権保有者、作品の利用条件、著作権表示に記載された、または著作物に関連して伝達されたその他の識別情報などの除去または改変を制限している(Stevens v. Corelogic, Inc., 899 F.3d 666, 671 (9th Cir. 2018))。デジタルミレニアム著作権法(DMCA)第1202条(b)は、権限なく、(1) CMIを「意図的に除去または改変」すること、(2)「[CMI]が除去または改変されたことを知りながら[CMI]を頒布すること」、あるいは(3)「[CMI]が除去または改変されたことを知りながら...著作物の...複製物を頒布すること」である(合衆国法典第17編第1202条(b))。 CMIの除去または改変に対する1202条の主張を述べるには、原告らはまず「削除または改変されたCMIが何であったか」を特定しなければならない(Free Speech Sys., LLC v. Menzel, 390 F. Supp. 3d 1162, 1175 (N. D. Cal. 2019))。1202条(b)違反の3形式はそれぞれ、「[意図的にCMIを除去することが]」侵害を「誘導する、可能にさせる、容易にさせる、または隠蔽することを知りながら、または知るに足りる合理的な根拠がある」ことを要求しているため、原告は必要な主観的状況も示さなければならない(合衆国法典第1702条(b))。


(6頁)

OpenAIは、第1202条(b)(1)の主張は、原告が、OpenAIが学習過程で意図的にCMIを除去したこと、または侵害を隠蔽もしくは誘導する意図があったことをもっともらしく主張していないため、失当であると主張し、第1202条(b)(3)の主張は、原告が被告が著作権で保護された著作物または複製物を頒布したことを主張していないため、失当であると主張している(申立書21-22)。裁判所は、まず1202条(b)(1)の主張を分析する。

1.第1202条(b)(1) - CMIの意図的な削除または改変

1202条(b)は、CMIの削除が「侵害を誘導し、可能にし、容易にし、又は隠蔽する」ことを認識し、又は「知るに足りる合理的な理由」があることを要求している。第9巡回区では、原告は「過去の『行動パターン』や 『手法[modus operandi]』を実証するなどして、被告がその行為が将来及ぼすであろう影響を認識していた、または認識するに合理的な理由があったことを積極的に示さなければならない」としている(Stevens, 899 F.3d at 674.)。弁論段階では、「被疑侵害者がこのような必要な主観的状態であったことをもっともらしく示す」事実を主張する必要がある(Andersen v. Stability AI Ltd., No. 23-CV-00201-WHO, 2023 WL 7132064, at *10 (N. D. Cal. Oct. 30, 2023); Philpot v. Alternet Media, Inc., No. 18-CV-04479-TSH, 2018 WL 6267876, at *5 (N. D. Cal. Nov. 30, 2018)(原告が「[被告が]必要な主観的状態を有していたことを示す事実を主張できなかった」場合、DMCA請求を棄却する))。

原告は、「意図的に」被告が学習過程で使用する著作権で保護された書籍からCMIを削除したと主張している(Tremblay Compl.Tremblay Compl.¶ 65.)しかし、原告はこの主張を裏付ける事実を何ら提示していない。実際、訴状にはChatGPTの出力の抜粋が含まれており、その中には原告ら氏名への複数の言及が含まれていることから、OpenAIは「著作者氏名」への言及をすべて除去したわけではないことが示唆される。例えば、Tremblay Compl. Ex. B. at 3(「これらの章を通して、Tremblayはサスペンスと心理的恐怖を見事に維持している」)、Silverman Compl. Ex. B. at 1(「Silvermanは鋭いウィットをもってコメディタッチを演出している」)を見よ)。さらに、「設計上、学習過程ではCMIは保存されない」という主張を裏付ける事実はない(Tremblay Compl.¶ 64.)。


(7頁)
Doe 1 v. GitHub, Inc., No. 22-CV-06823-JST, 2023 WL 3449131, at *11 (N. D. Cal. May 11, 2023)で、原告らは、CMIが通常どこに表示されるのか、被告はCMIが繰り返し表示されることを認識していたこと、被告はその後「CMIを無視または除去し、CMIを生成しないようにこれらのプログラムを学習した 」と主張している。これは、「被告が意図的にCMIを除去するようにプログラムを設計したという合理的な推論」を裏付けるのに十分であった。これとは対照的に、原告は、「設計上、学習過程ではCMIを保存しない」という確証なきの主張をするにすぎない(Tremblay Compl.¶ 64.)。

たとえ原告が、学習過程において、被告が故意に書籍からCMIを削除したこと知っていたことを示す事実を提示したとしても、原告は、学習データセットで使用される複製物のCMIを除去することによって、ChatGPTの出力が侵害を誘導、可能、促進、または隠蔽することを被告が知る合理的な根拠となったことを立証していない(Stevens, 899 F.3d at 673を参照。(「誰かが(著作権保護を受けた著作物を)探知されずに利用できるかもしれない」という主張は、CMIが削除される折に常に存在する一般的可能性を示しているに過ぎず、必要な主観的状態を示すものではない)。原告は、ChatGPTの学習にどのインターネット書籍を使用しているかをOpenAIが明言していないことは、ChatGPTのユーザーはどの出力が著作権を侵害しているかどうかを知ることができないため、OpenAIが故意に侵害を可能にしていることを示していると主張する(反論: 21-22)。しかし、原告は、そのような情報を明らかにしないことが、内部データベースにおけるCMIの削除が故意に侵害を可能にすると主張されるかどうかに関係することを示唆するような判例を指摘していない。原告は、第12条(b)(1)に基づく主張を構成することができていない。



2.第1202条(b)(3)-著作物または複製物の頒布

原告はまた、OpenAIが二次的著作物―ChatGPTの出力ーを作成し、CMIを含まない出力を頒布したため、被告が第1202条(b)(3)に違反したと主張している(Tremblay Compl.Tremblay Compl.¶ 66.)。DMCAは、「単に侵害的作品からCMIを省略することを禁止するものではない」(Dolls Kill, Inc.Co., No. 222CV01463RGKMAA, 2022 WL 16961477, at *3 (C. D. Cal. Aug. 25, 2022))。他人の著作物を再製することは違法となりうるが(例えば著作権法に基づいて)、この行為が必ずしもDMCAに関連するとは限らない。Kirk Kara Corp. v.W. Stone & Metal Corp., No. CV 20-1931-DMG (EX), 2020 WL 5991503, at *6 (C. D. Cal. Aug. 14, 2020) (原文強調) を見よ。(「その作品は本質的に類似しているかもしれないが、被告は原告作品の同一複製物を作成し、その後、刻印されたCMIを除去した」わけではないため、請求を棄却した)。


(8頁)

法文の平易な文言の下では、法的責任[liability]は原「著作物」または原「著作物の複製物」を頒布することを必要とする(合衆国法律集第 17 編第 1202 条(b)(3))。原告は、被告が自分の書籍やその複製物を頒布したとは主張していない。その代わりに、原告らは「OpenAIの言語モデルからのすべての出力が侵害的な二次的著作物である」と主張しているが、そのような出力が何を含むのか、つまり著作権で保護された書籍なのか、書籍のコピーなのかについては何も示していない。これは、DMCAに基づくこの訴因を支持するには不十分である。
 原告は自分たちの主張をDoe 1の主張と比較しているが、Doe 1の原告は、被告が「CMIが除去または変更されたことを知りながら、(原告によりライセンスされた)コードの複製物を頒布した」と主張している(Doe 1, 2023 WL 3449131, at *11)。Doe 1の原告は、被告は、出力としてプログラムがライセンスされたコードなどの「学習データを出力として再製する」ことを知っていたと主張し(同上)。原告は、ChatGPTがCMIなしに原告の著作権保護を受けた著作物を複製しているとは主張していない。

従って、当裁判所は、DMCAの請求を修正の余地を残して棄却する。

C.UCL (争点Ⅳ)

OpenAIは原告のUCLの請求の棄却も求めている。商行為や慣行がUCL[Unfair Competition Law]に違反する可能性があるのは、それが『不法』、『不公正』、『詐欺的』のいずれかである場合である。これら3つの形容詞はそれぞれ、「個別かつ明確な責任理論[a separate and distinct theory of liability]」を把握している(Rubio v. Cap.Rubio v. Cap. One Bank, 613 F.3d 1195, 1203 (9th Cir. 2010) (Kearns v. Ford Motor Co., 567 F.3d 1120, 1127 (9th Cir. 2009)を引用))。「UCLの適用範囲は広範であり、不当な事業行為に対するその基準は意図的に広範となっている。Moore v. Apple, Inc., 73 F. Supp. 3d 1191, 1204 (N. D. Cal. 2014)。原告は各論点の下でUCLの主張を展開しており、当裁判所はそれぞれを順番に検討する。

1.不法な

原告は、被告がDMCAに違反して「不法な商行為」を行ったと主張している(Tremblay Compl.69-70; Silverman Compl.¶ 70-71.)。裁判所がDMCAに関する請求を棄却した以上、派生的なUCLに関する請求を維持することはできない(Eidmann v. Walgreen Co., 522 F. Supp. 3d 634, 647 (N. D. Cal. 2021)をみよ(「もし『原告が前提となる法の下で主張を述べることができない』のであれば、(UCLの)主張もまた失当である)(原文修正) (Hadley v. Kellogg Sales Co., 243 F. Supp. 3d 1074, 1094 (N. D. Cal. 2017)引用); Armstrong-Harris v. Wells FargoBank, N. A., No. 21-CV-07637-HSG, 2022 WL 3348426, at *3 (N. D. Cal. Aug. 12, 2022) (判例引用)。


(9頁)

仮に原告がDMCAに基づく請求をなしうるとしても、不公正な商行為による経済的損害を示さなければならない(Davis v. RiverSource Life Ins., 240 F. Supp. 3d 1011, 1017 (N. D. Cal. 2017) (quotes Kwikset Corp. v. Superior Ct., 51 Cal.4th 310, 322 (2011)を引用))。被告は、原告は 「金銭または財産を喪失した」と主張していないと言う(Kwikset Corp., 51 Cal.4th at 322-23 を見よ)。原告は、「被告が原告の著作物のデジタルコピーからCMIを削除した瞬間に生じる知的財産への将来の損害のリスク、つまりほぼゼロに近いコストで複製され、オンラインで頒布し再製できる複製物である」ため、DMCA請求に関連して知的財産を喪失したと反論している(反論28頁)。しかし、原告の訴状のどこにも、被告自らの書籍の複製物を再製し頒布したと主張している箇所はない。従って、いかなる損害も推測の域を出ず、UCLにおける不法類型はこの追加的な理由によって失当となる。

2.詐欺的な

原告はまた、「詐欺的」行為に基づいてUCLに違反したと主張する(回答26-27頁)。原告らは、被告の不法行為によって「消費者が騙される可能性が高い」とし、被告が「CMIなしで出力するようにChatGPTを詐欺的に設計した」とする訴状のある段落を指摘している(Tremblay Compl. ¶ 72.)。このCMIに関する主張は、原告の主張がDMCA違反に基づくものであることを示すものであり、従って、裁判所はDMCAに関する主張を棄却しているため、失当である(前掲・Section B,C(1))。原告の請求の根拠が詐欺的な商行為にある限りにおいて、原告は詐欺をどこで主張したかを示していない。従って、原告はUCLの詐欺行為の申立に適用される連邦民事訴訟規則9(b)[[詐欺を主張する私的訴訟において「詐欺を構成する状況を特定性をもって摘示しなければならない。悪意、意図、知識、その他人の主観的状態については一般的に主張することが許される。―訳者注]の高度訴答要件[heightened pleading requirements]を満たしていない(Armstrong-Harris, 2022 WL 3348246, at *2を見よ)。したがって、詐欺行為に基づくUCLの請求もまた失当である。

3.不公正な

UCLの不公正条項により、原告は、被告が原告の著作物を使用して、原告の許可なくChatGPTを学習したと主張している(Tremblay Compl.¶ 72.)。カリフォルニアの裁判所は「不公正」を広く定義している。


(10頁)

例えば、カリフォルニア州控訴裁判所は、「カリフォルニア州不正競争防止法は、不法な商行為だけでなく、不公正な商行為も禁止している。この法は、たとえ法律で禁止されていなくとも、新たなスキームが考案されれば、それを規制するために、裁判所に最大限の裁量権を与えるために、意図的に広範に制定されている」と述べている(People ex rel. Renne v. Servantes, 86 Cal.App.4th 1081, 1095 (2001))。控訴裁判所はさらに、「『不公正な』慣行を判断するための一つのテストは、被害者に対する損害の重大性が被告の行為による実益[utility]を優越するかどうかである」と説明した(同1095頁)[5]

被告が営業上の利益を得るために言語モデルを学習させるために原告の著作物を使用したという原告の主張が真実であると仮定すると、当裁判所は被告の行為が不公正な慣行を構成する可能性があると結論づける[6]。したがって、UこのCLの請求の部分は進行することができる。

D.過失(争点Ⅴ)

過失の主張は、原告が(1)義務、(2)違反、(3)因果関係、(4)損害を立証することを要求する(Corales v. Bennett, 567 F.3d 554, 572 (9th Cir. 2009) (引用省略)。「原告に害を及ぼす危険を生じさせた被告には、一般的な注意義務」がある」。Brown v. USA Taekwondo, 11 Cal.5th 204, 214 (2021), reh'g denied (May 12, 2021) (引用省略))。しかしながら、「いかなる被告が全ての原告に対して注意義務を負うわけではない」(同213頁) 。

 原告は、被告が保有する原告情報の管理に基づく注意義務を負い、「過失、不注意、無謀にも―ChatGPTを含む―原告の(著作権で保護された)著作物で学習されたシステムを収集、維持、管理」することによって、その義務に違反したと主張している(Tremblay Compl.74-75¶;Silverman Compl. ¶¶ 75-76.)。被告は、1)原告はOpenAIが義務を負うことを立証していない、2)訴状は意図的行為のみを争っている、と主張し、過失の訴えの棄却を求める(申立: 30-31頁)。


[5]被告は、「不公正」条項には、その行為が「独占禁止法に違反する恐れがある」ことを主張する必要があると主張している。ECF 54(「回答」)18頁(Cel-Tech Commc'ns, Inc. Co., 20 Cal.4th 163, 164 (1999)を引用している。) しかし、これは 「競争者間 」での不公正行為の定義である。Sybersound Recs., Inc. v. UAV Corp., 517 F.3d 1137, 1152 (9th Cir. 2008) (引用者注:同書)。ここでの主張の根拠とは異なるため、この定義は適用されない。

[6] OpenAIは専占[preemption]を提起していないため、当裁判所はこれを考慮しない。しかし、UCLの請求が著作権の請求と同じ違反を主張する限りにおいて、連邦著作権法によって専占される可能性があることに留意する。



(11頁)
訴状では、被告が過失的に保有した情報を維持・管理したと主張している(Tremblay Compl.74-75; Silverman Compl.¶¶ 75-76.)。原告は、被告には原告著作物を保護する義務があったと法律上の補強[legal support]もなく主張している(反論30頁)。原告は、原告の著作権で保護された書籍に含まれる公開情報を「維持[]し管理[]」する義務が存在することを明らかにしていない。過失の主張は、これを理由に失当である。

当事者間に「特別な関係」があるという原告の主張も失当である(反論: 30頁)。原告は訴状のどこにも、当事者間に信認関係[fudiciary]や保管関係があると主張していない。原告は、被告が原告の「個人情報かつ機密情報」の保管者であったという、不適切な事例を引用するだけで、単に自らの書籍を所有しているだけでどのように特別な関係が生じるのかを説明していない(Witriol v. LexisNexis Grp., No. C05-02392 MJJ, 2006 WL 4725713, at *8 (N. D. Cal. Feb. 10, 2006)[7]。

 原告は被告に法的義務を負わせていたと申し立てていないため、当裁判所は修正の余地を残してこの請求を棄却する。

E.不当利得(争点Ⅵ)

第6の争点として、原告は、ChatGPTを学習させるために著作権で保護された書籍をOpenAIが使用したことに対する不当利得の請求を提起している(Tremblay Compl.Tremblay Compl. ¶ 79-86; Silverman Compl.¶¶ 8087.)


[7]被告は経済的損失の法理を引き合いに出していないが、経済的損失の法理も回復を妨げる可能性もある。N. Am. Chem. Co. v. Superior Ct., 59 Cal. App. 4th 764, 777 (1997) (「経済的損失の法理は、原告の不法行為による経済的損害の回復を、そのような損害が何らかの身体的損害(すなわち、人的傷害または物的損害)を伴わない限りで禁止するために適用されてきた。)"); See also Aas v. Superior Ct., 24 Cal. 4th 627, 636 (2000) (過失訴訟における責任を身体的損害に対する損害賠償に限定し、経済的損失のみに対する回復を認めない); 例えば、Strumlauf v. Starbucks Corp., 192 F. Supp. 3d 1025, 1035 (N.D. Cal. 2016) (economic loss doctrine barred plaintiff's claim)を参照のこと。



(12頁)

第9巡回区は、不当利得請求を、独立した訴因として、あるいは「契約に準する主張に基づく返還請求」として認めている。ESG Cap.Partners, LP v. Stratos, 828 F.3d 1023, 1038 (9th Cir. 2016).「独立した訴因として不当利得を主張するためには、原告は被告が原告の費用で利益を受け、不当に保持したことを示さなければならない。"と述べている。利益が錯誤、詐欺、強要または要求によって与えられたものでない限り、通常、原告に返還されることはない。(Nibbi Bros., Inc. v. Home Fed. Sav. & Loan Assn., 205 Cal. App. 3d 1415, 1422 (Cal. Ct. App. 1988) (quoting 1 Witkin, Summary of Cal. Law (9th ed. 1987) Contracts, § 97, p. 126. see Astiana v. Hain Celestial Grp., Inc., 783 F.3d 753, 762 (9th Cir. 2015) (quoting 55 Cal. Jur. 3d Restitution § 2) (不当利得返還請求の基礎となる理論は、「被告が『過誤、詐欺、強制、または要求によって』不当に利益を与えられた」というものである)。

被告は、原告がOpenAIに、準契約的に「供与した利益」が何であるか、または原告が「錯誤、詐欺、強制」によってこの利益を与えたことを主張していないため、この請求は棄却されなければならないと主張する(申立: 32頁) (Bittel Tech., Inc. v. Bittel USA, Inc., No. C10-00719 HRL, 2010 WL 3221864, at *5 (N. D. Cal. Aug. 13, 2010) を引用する) (「通常、原告は錯誤、詐欺、強制によって被告に利益が与えられたことを示さなければならない。(引用省略)。原告は、OpenAIが「錯誤、詐欺、強要、要求によって」不当に利益を与えられたと主張することができていない。 '"Astiana, 783 F.3d at 762 (citation omitted); LeGrand v. Abbott Lab' ys, 655 F. Supp. 3d 871, 898 (N. D. Cal. 2023) (same); See, e.g., Russell v. Walmart, Inc、No. 22-CV-02813-JST, 2023 WL 4341460, at *2 (N. D. Cal. July 5, 2023) (「RusselがWalmartに利益のある役務を提供しただけでは不十分であり、RusselはWalmartがした加重的[qualifying]行為によってその利益を不当に確保したことも主張しなければならない。Walmartによる、加重的な過誤、詐欺、強制、または要求がなければ、不正は存在しない」)。原告は、OpenAIが詐欺、錯誤、強制、または要求によって原告の著作物から不当に利益を得たと主張していないため、この主張は失当である[8]


[8]原告は、過失および不当利得の請求を十分に主張していないため、当裁判所は、この時点で専占の問題に触れる必要はない。




(12頁)

IV.結論

以上の理由により、当裁判所は被告の棄却申立を一部認容し、一部棄却する。原告の修正訴状は2024年3月13日までに提出されなければならない。裁判所の許可または被告の同意がない限り、当事者または請求を追加することはできない。修正訴状は、23-cv-3223-AMO (Tremblay et al. v. OpenAI, Inc. et al.), 23-cv-04625-AMO (Chabon et al. v. OpenAI, Inc. et al.), 23-cv-03416 (Silverman et al. v. OpenAI, Inc. et al.) の請求を統合する。裁判所は3つの訴訟を統合する別の命令を出す予定である。この命令は、23-cv-3223-AMO(Tremblay et al, v. OpenAI, Inc. et al.)のECF 33と23-cv-03416(Silverman et al. v. OpenAI, Inc. et al.)のECF 32を終結させる。

上記の通り命令する

2024年2月12日




この記事を書いた時点では、上記修正訴状の提出期限は過ぎていますが、その後どうなったのでしょうか?

界隈ではEU AI Actの施行が取りざたされていましたが、さて・・・

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