介護職は底辺の職業なのか?「はい、そうです。」と言える理由
底辺の仕事
就活情報サイト「底辺の職業ランキング」に批判が殺到しているとのこと。
どれどれと、内容を見てみると、12の〝底辺職〟のうち、6つは自分が今まで経験したことのある職業だった。関連する職業を加えると8つになる。だいぶ底辺を彷徨ってきたようだ。
その中で、案の定というべきでしょうか、想定内というべきでしょうか、やっぱり「介護士」がランクインされていました。
そのことについて、日本介護福祉士会は公式サイトで声明を出し、強い不快感を示したようです。
そりゃそうですよね。自分たちが日々行っている仕事を、〝底辺職〟としてランクインさせられたら、怒るのも無理はないと思います。
ただ、別の見方をすれば、底辺職にランクインさせられて反応するということは、そのことを、心のどこかで認めているのかも知れません。
もし、〝底辺職〟のランキングに、「外資系コンサルタント」や「医者」が入っていたら、と考えると、彼らはそのことを、ネタに使うくらいの心の余裕があるように思えます。
以前、上場企業のコンサルタントの方と話をした時のこと。
「私たちの給料は時給換算すると、マクドナルドのアルバイトより安い」
と言って笑っていました。
つまり、それだけ長時間労働をさせられている、ブラック企業ということですね。おそらく〝底辺職〟にランクインされたら、喜んでネタに使うと思います。
「私たちの仕事は、底辺職だから」
みたいな感じです。
しかし、介護職が同じセリフを使うと、なぜか悲壮感が漂う。そんな感じがしませんか?
介護職は底辺の職業なのか
実際、介護職は〝底辺の職業なのか〟と問われたら、「はい、そうです」と、答えるでしょう。
その理由は、私の過去の職業体験から起因します。
私は以前、フィリピンで不動産の営業職をしていました。仕事柄、様々な業界の日本人と知り合うことが出来ました。
主な仕事は、海外駐在員に住居を仲介することでした。面白いもので、不動産仲介業をしていると、その業界、その会社の懐具合がよくわかります。
例えば、海外駐在員の場合、たいていは会社で規定された家賃手当の枠内で住居を選ぶことになります。なので、
〝某メーカー企業の家賃帯はいくら〟
〝某金融機関の家賃帯はいくら〟
といった感じで、お客さんの家賃手当の上限を把握したうえで、住居を紹介します。
当時の私は、お客さんと一緒に内見をしながら、
〝こんな豪華な住居を会社からあてがわれるなんて、この人はどんだけ仕事ができるのだろうか〟
と、羨望の眼差しで見つめていました。
なぜなら、私の住居に比べて、2倍、3倍、下手すると4倍の家賃帯の住居を会社から支給されていたからです。
そのことは、つまり、私よりも2倍、3倍、下手すると4倍の仕事ができて、会社に貢献しているということになるからです。
なので、底辺を彷徨ってきた私としては、高級コンドミニアムに当然のように住むことが出来る、他業界の上場企業や大企業にお勤めの方は、
〝皆すごく仕事が出来る人たち〟と思っていました。
介護業界と他業界の差とは
さて、不動産業界で数年働いていると、お客さんと個人的に仲良くなり、友達同士みたいな関係が増えていきました。その過程で、徐々に私の中で「?」がうまれてきました。
〝私と彼らの間に、住居の「差」と同じくらいの能力の「差」が、一体どれくらいあるのだろうか?〟と。
仮にあったとしても、その差は少なくても3倍や4倍はないでしょう。
底辺から這い上がり、少し高いところから世の中を見渡してみると、いろいろな事実に気がつきます。
その1つに、会社から支給される家賃手当の額と、その人の能力は、決して比例しない、ということが分かりました。
〝ではその差は一体どこから生まれてくるのか〟
という問いに対して、全てではないにせよ、大きな影響を与えるのは、所属している業界や職種によると思います。
例えば、ものすごく仕事が出来る介護士が、海外駐在員として赴任したとします。
しかし、どんなに優秀な介護士であっても、彼らにあてがわれる住居が、他業界の上場企業や有名企業の駐在員と同じかというと、そのイメージが全くわきません。
実際のところ、介護職は、職業に対しての希少性が低く(つまり誰でもできる仕事である)、社会保障が財源である限り、多額の家賃手当が支給されることはないのです。
底辺を支える職業
〝家賃手当の多寡で、その人の能力の優劣が決まるわけではない〟という事実に気が付き、改めて、介護業界で働く優秀な人たちを思い浮かべてみました。
彼らのパフォーマンスが、組織の売り上げに直結することはありませんが、対象となる利用者さんの生活の質(QOL)を高めることには、大いに貢献しています。
しかし、その尺度では、彼らの給料を上げることは難しい。どんなに頑張っても、給料がなかなか上がらないという点において、介護職が、底辺の職業ランキングに、ランクインしてしまうのも致し方ないと思います。
ただ、〝底辺の職業〟についての私の解釈は、〝底辺を支える職業〟として捉えています。人間が老化する身体を持っている限り、誰かが介護をしなくてはなりません。
介護の質はいくらでも妥協できます。したがって、介護は誰でも出来る仕事になります。誰でもできる仕事に、国は高い給料を支払うことは出来ません。
その結果、誰かがやらなければならない介護の仕事は、誰もやりたがらない仕事になるのです。
介護職は、まさに〝社会の底辺を下から支えている職業〟だと思います。
底辺職業と希少性
さて、人生100年時代を生きる我々は、一つの職業で人生をまっとうすることがかなり厳しくなりました。
いくつかの変節点をつくりながら、キャリアをデザインしていく必要があります。
私の経験上、給与水準の高い人気の業界や職種から、介護などの〝底辺職業〟へとキャリアチェンジするのは、かなり難しい選択だと思います。
一度上げてしまった生活水準は、なかなか下げられないものです。
一方で、〝底辺職業〟から出発して、給与水準の高い業界や職種を目指して、キャリアチェンジするのは難しくないと思います。
もちろん、それなりに努力は必要です。でも、仕事が合わなければ、また底辺職に戻ればいいだけだし、既にセーフティネットは備えてあります。
そして、キャリアチェンジを成し遂げた場合、底辺を経験したことが、給与水準の高い別の業界に移ったときに、必ず強みに変換できます。
なぜなら、その業界では底辺職業を経験した人が少ないからです。希少性が出ます。
底辺×高さ÷2
人生100年時代を生きる、理想的なキャリア形成とは、底辺×高さ÷2の総面積ではないでしょうか。
底辺×高さ÷2=人生100年時代の理想的なキャリアの三角形
100年も生きていたら、人生上がったり下がったりを経験しなくてはなりません。
高さだけをやみくもに求めていると、途中でポキッと折れて、いつか底辺に落とされてしまうかもしれません。
でも、馬鹿にしていた底辺の仕事に従事することで、初めて見える世界もあるはずです。
まとめ
介護職の腰痛予防と同じで、人生100年時代は、キャリアの支持面積を広げていきましょう。
両足を肩幅に広げて、しっかりと地面を踏みこんでいれば、多少の人生の困難は乗り越えられるはずです。
では、冒頭の質問に戻ります。介護職は〝底辺の職業なのか〟と問われたら、
「はい、そうです。人生100年を見越して、キャリアの支持面積を広げているのです」
と答えてみてはいかがですか。
そして、余裕の表情でこう付け加えてみるのはどうでしょう。
「底辺にいるのだから、これ以上は下がりようがありません。我々には、〝高さ〟を上げるかどうかの選択肢があるのです。」
と。強がりではなく、私は本気でそう思っています。
なので、「底辺の職業ランキング」に介護職がランクインしたのは、将来のネタに使えるからおいしいな、と思いました。
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