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人気YouTuberヤンチャンの考える「これからの日中交流」【日中新世代対話 登壇者インタビュー①】

2022年12月22日(木)19時50分から豊島区民センターホールで開催される「日中新世代対話 Dialogue & Synergy」。イベントに先立って、ここではパネルディスカッションに登壇するゲストパネラーへのインタビューを掲載します。第1回目は四川省出身の人気YouTuberヤンチャン。彼女の語る〝新しい日中交流のあり方〟とは――。

【プロフィール】ヤンチャン。四川省出身。日本人に向けて中国の最新事情や語学学習法などを紹介するYouTubeチャンネル「ヤンチャンCH/楊小溪」(登録者数17.3万人)を運営する。2022年9月に初めての著書『33地域の暮らしと文化が丸わかり! 中国大陸大全』(KADOKAWA)を上梓。日本在住11年目。(プロフィールは2022年12月時点)

北九州での日本語の〝猛特訓〟

―― 現在、ヤンチャンは東京に暮らしながらYouTuberとして活動しています。ところが、小さい頃から日本へ興味があったわけではないそうですね。

 上海の大学で日本語学科に入学したのが、私と日本の最初の出合いになります。四川省の田舎町で育った私には、「将来は北京や上海といった大都会で暮らしたい」「外国語を習得したい」といった漠然とした夢がありました。そのどちらの夢も叶えられるということで、上海の大学の日本語学科に進学したんです。

 最初はただ単位のために日本語を勉強していました。ところが、勉強の一環で日本のドラマや映画を見始めると、これが想像以上に面白くて、日本に対する興味が少しずつ湧いてきました。

 その後、2011年に北九州市にある大学に1年間、交換留学しました。旅行も含めて、私にとってはそれが生まれて初めての海外体験。福岡空港に降り立ち、学校が手配してくれたバスに乗って、郊外の街路樹の葉や緑に覆われた遠くの山々を眺めながら、〝日本の田舎ってこんなに色鮮やかなんだ!〟と心から感動したのを覚えています。

 我が家は決して裕福な家庭ではなく、私は自分でアルバイトをして家計の負担を減らしていました。日本到着後も、日本語はまだ上手く話せませんでしたが、私はすぐにカラオケ店で夜勤のバイトを始めました。朝まで働いて、そのまま大学に行って勉強をするという生活でした。

 真剣に働いてはいましたが、他の日本人に比べて、できない仕事が多いのも事実です。しばらくして、新しく店長になった人から、「3か月後でもヤンチャンが日本語で接客できないなら、申し訳ないけどクビにさせてもらう」と告げられたのです。

 私も生活がかかっているので、そこからは必死になって日本語の勉強をしました。まずアルバイト先の日本の友人に、お店の中で目に見えるものすべてを一つずつ指して、「これは日本語で何と言う?」と聞き、それをメモしていきました。また、お客さんのいないタイミングを見計らって、友人がお客さん役になって、私のために入店から部屋案内までの流れを演じてくれたのです。その後、友人に指摘された日本語のミスを私はすべて書き出し、一連のフレーズを丸暗記しました。

 それらの〝猛特訓〟を経て、3か月後には電話対応も含めて無事に一人で接客ができるようになりました。当時、助けてくれた友人には本当に感謝しています。北九州で出会った人たちとは10年以上たった今も連絡を取り合う関係です。

YouTuber「ヤンチャン」が生まれるまで

―― 大学卒業後には日本の東京の大学の修士課程に進学。修了後には日本で会社員を経験し、その後に独立されたのですね。

 中国系企業の日本支社に1年半ほど勤めました。越境ECを行う会社で、主に日本の化粧品を中国に向けて販売していました。ちょうど〝爆買い〟という言葉が飛びかっていた頃です。その会社ではライブコマースもしていたのですが、そこで私は司会進行役を務めたこともあり、YouTuberとしての活動につながる経験もしました。

 独立後には、前職の経験を生かして、日本企業の中国進出に関するプロモーション事業を行いました。その頃には私も中国のSNS「Weibo」で日本の情報を発信していて、フォロワーが8万人近くいたので、日本で築いた人脈と中国のSNSでの影響力を掛け合わせてお仕事をしていました。

 そうしたなかで、〝日本人に向けた中国情報の発信をしたい〟と思うようになり、YouTubeへの投稿を始めました。2019年の秋ごろで、コロナ禍になる直前でした。

 当初は語学学習の動画を投稿していましたが、再生数はどれも2桁止まり。たまに再生回数が100を超えたら本気でガッツポーズをしました(笑)。でも、二か月ほど続けても結果が振るわず、いったんYouTubeからは手を引きました。

 ところがその後にコロナ禍になって、本業の仕事量が大幅に減ってしまい、時間ができたんです。それでもう一度、YouTubeへの投稿を始めました。今度は少しトレンドを意識して、2020年2月当時での中国のコロナ事情に関する動画をアップしたところ、これが1週間ほどで再生回数が1万回を超えたんです。それがきっかけとなって、YouTuberとしての活動を本格的にスタートしました。


ヤンチャンの考える新しい日中交流のあり方

―― 現在、YouTuberとして活躍されていますが、動画を作る上で心がけていることは何ですか?

 正直に言うと、今は再生回数をそこまで気にしていません。それよりも、日本の視聴者にとって〝価値のあるもの〟を届けることを心がけています。価値があるというのは、今の中国を理解できる内容であったり、日本のメディアなどであまり取り上げられない実際の中国人の考え方であったり、そうしたリアルな情報のことです。

 昨年、中国に一時帰国した際に、動画をたくさん撮りました。四川の田舎の風景も映像に収めましたし、久しぶりに帰国して実際に感じた中国の良い面と悪い面を視聴者に向けて率直に語りました。日本と中国の人々が交流する上で、お互いのリアルな情報を知ることが大切なのではないかと私は考えています。

―― 今年は日中国交正常化50周年で、22日のイベントには〝次の50年の日中交流をデザインする〟といったテーマも盛り込まれています。ヤンチャンの考えをお聞かせください。

 YouTuberとして動画コンテンツを作っていて強く感じるのは、中国を知ってもらう〝きっかけ作り〟の大切さです。たとえば、これまでに中国に何の関心も持っていない日本人に対して、「中国を知ってください!」と言っても絶対に相手にされませんよね。でも、たとえば、その人が映画や音楽が好きだとします。そこで、その人におすすめの中国映画や、中国の音楽を紹介すれば、少しは興味を持ってくれるかもしれない。もしくは、おしゃれが好きなら、中国メイクやファッションを紹介するのも良いでしょう。その人が中国に興味を持つまでの〝入口をデザインする〟ことが私は大切だと思います。

 また、私自身の経験から思うのは、語学が人生を変えてくれるということです。最初、私は日本に対して強い興味を持っていませんでしたが、日本語を学んだことで日本が好きになりました。同じように、中国に対して特別に好感を持っていなくても、中国語を勉強することで、中国人の考え方や文化について理解を深められると思います。

 自分のそうした経験もあって、私も来年には、実践的に中国語を使いたいと考えている日本の中国語学習者に向けた事業を始めたいと思っています。堅苦しいものではなく、中国の友人ができるようなコミュニケーションや、実際の会話で使えるような表現を、楽しく自然に身に着けられるような場を想定しています。

 相手の文化を知ることが、友好の前提になると思っています。そして私にできることで、そうした機会をこれからも多く提供していきたいです。

取材&文:河内滴

※12月22日のパネルディスカッションにはヤンチャンの他、北京のベンチャー企業で長年環境ビジネスに携わってきた佐野史明さん、日中交流学生団体のリーダー、元中国大使の宮本雄二当財団理事長も登壇します。以下のQRコードから参加申込みができます。