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JAAS(日本科学振興協会)のDORA署名について

DORA、すなわち研究評価に関するサンフランシスコ宣言(San Francisco Declaration on Research Assessment)は、2012年、米国細胞生物学会(ASCB)において起草された研究評価のあり方に関する勧告です。研究計量に関するライデン声明とともに、世界的なイニシアティブになっています。

DORAでは、論文の質を測るメトリクスとして、ジャーナルインパクトファクターが誤用されている科学界の現状を指摘し、採用・昇進・助成等個別の研究者や研究内容の評価において雑誌ベースの数量的指標を用いないことを求めています。さらに研究評価では、出版物のみならず研究のすべての成果の価値とインパクトを検討すべきであり、質的指標を含む幅広いインパクトの評価基準を考慮すべきであるとしています。

DORAは宣言の中で賛同者の署名を呼びかけ、2024年1月現在、世界において、署名機関は3000機関以上、個人は2万1千人以上に及んでいます。2023年には、日本国内においても、東京大学科学技術振興機構(JST)といった組織が署名したほか、生物科学学会連合など各学会においても署名するところが増加しています。

一方、研究評価は、大学・研究機関といった研究者キャリアパスが進展する現場、助成機関といった研究振興を直接担う組織の運営等に関わるだけではありません。科学研究政策、報道のあり方、サイエンスコミュニケーション、企業、教育などさまざまなところにも関わる事柄です。

JAASでも、その研究環境改善ワーキンググループの有志の間で議論し、科学振興の立場から、学術の健全で多様な発展を支持し、多様な観点で研究内容の評価を行うことを、社会全体で共有すべき価値観と考え、JAASの理事会での審議の上、この署名を通じて表明することとしました。

JAASは、この2024年2月22日にNPO法人として設立2周年を迎えました。JAASのDORA署名を記念し、JAASのメンバーから、それぞれの研究評価についての価値観について、社会全体に発信するエッセイやコメントを募集し、研究環境改善WGのnoteに掲載していきます。

是非、社会のできるだけ多くの皆様に、DORAの趣旨をご理解いただき、対話し、学術の健全で多様な発展を促進する研究評価のあり方について、社会全体で共有するきっかけとしていただきたいと思います。

2024年2月22日

      日本科学振興協会・研究環境改善ワーキンググループ有志


【JAASのDORA署名にあたって寄せられたコメント】

研究評価の最近の動向を理解していただくために、研究評価についてのオンラインリソース・ポータルサイトReformscape、研究評価改革とオープンサイエンスの記事、DORAに準拠した新しい履歴書(narrative CV)、長文の「インパクトファクター至上主義からの脱却を目指そう」「DORAとともにこれからの研究評価を考えようなどのDORAについての関連情報も掲載されていますので、ご参照ください。

このたびJAASがDORAに署名したことはとても大きな意味を持つと考えています。そもそもJAASは学術誌を持っているわけでもないし,何かを評価する機関でもないため一見するとDORAと関係ないように思えるかもしれませんが,JAASのポリシーとしてこれを表明するという点と,今後DORAの存在を積極的に広めていけるという点で非常に重要です。
 
私は4年半ほど前に個人でDORAに署名し,折に触れて「DORAですよー」と宣伝してきたつもりですが,一度も興味を持たれたことがありませんでした。まあこれは私のプレゼン能力の深刻な欠如のせいなのですが,それゆえにJAASが今後これを推していけるとなると大変心強いのです。

科学を元気にするためには,凄まじいインパクトファクターの雑誌に載る一本の論文による「点」のみの前進ではなく,多くの高品質な論文による「面」での前進,そしてその波状攻撃が必要なはずです。そしてその再現性や一般化可能性の検証も同時に進められなければなりません。しかしながら現状,一本の論文への評価が極めていびつであり,再現性の確認などに至っては投稿すら受け付けてくれない雑誌もあったりします。そんな状況だからこそ,DORAなのです。
 
ところでつい最近,DORAがReformscape (https://sfdora.org/reformscape/) という研究評価についてのオンラインリソースのポータルを作りました。これは例えば,自分の所属する大学で評価に関する議論が巻き起こった時などに,他機関の例として挙げたりするのに役立ちます。しかし実際使ってみられるとわかりますが,なんと日本のリソースが1件もない!今回のJAASの署名による波及効果で,Reformscapeに日本の情報が出てくるようになるのをまずは期待したいと思います。

リンク:Reformscape (https://sfdora.org/reformscape/)

JAAS理事、Journal of Illusion (DORA署名済み) Senior editor,九州大学 山田祐樹


このたびのJAASによるDORAの署名を通じて、「DORAって何?」ということで、多くの方にDORAについて知っていただく機会となればと思います。学術研究の評価、紹介、理解にあたっては、「出版物のみならず研究のすべての成果の価値とインパクトを検討すべきであり、質的指標を含む幅広いインパクトの評価基準を考慮」するという理念が多くの方々に受け入れられ、オープンサイエンスにも関わる習慣、文化として、広く社会に根づいていってほしいです。

リンク:参考文献(オープンアクセス=無料購読可能)
研究評価改革とオープンサイエンス:国際的進展と日本の状況(林 隆之、 佐々木 結、沼尻 保奈美)

リンク:
「研究評価に関する国際シンポジウム―研究評価改革に関する国際動向―」を開催

リンク:
DORA私的雑感(山形方人)

JAAS理事 山形方人


自分がかなり歳を経てから博士後期にすすんだこともあり、恥ずかしながらJAASで活動をするまでDORAのことは知りませんでした。現在はみなさんと研究環境改善の議論を進めるなかでインパクトファクターに傾倒しない評価の在り方を見直していく必要性をひしひしと感じています。各自が自身の研究に向き合うことと同時に日本の研究開発力を上げるためには埋もれた人材や研究をきちんと評価していく取り組みは欠かせません。もちろんDORAに署名したからといって、すぐに何かが変わるということはないと思います。しかしこんな方法があるのではないかとか、ここは変えたほうがいいのではないかということの議論のプロセスが重要で、JAASが組織として署名することに意義を感じています。引き続き、みなさんと一緒に日本の科学のために活動をしていきたいと思います。

JAAS理事 吉田智美


DORAに準拠した新しい履歴書(narrative CV)についても、多様な研究者を確保するためのしくみとして、この機会に紹介させてください。DORAのサイトには多く取り上げられていますが、和文ではほとんど言及されていないようです。文章が雑になり恐縮ですが、以下Narrative CVについての情報です。イギリスのRoyal SocietyがDORAと共同で作ったテンプレートが広く使われるようですが、ヨーロッパ各国のFunding agencyでそれぞれ書式を作成しているようです。

リンク:DORAに準拠した新しい履歴書(narrative CV)

JAAS理事、並木重宏


私は、個人としてDORAに署名し、また日本神経科学学会の将来計画委員会・委員長として学会のDORA署名にもたずさわりました。私が所属している団体としては、他にも日本分子生物学会、日本生物科学連合が署名をしており、JAASによる署名は私が関係するものとしては少なくとも5つめの署名ということになるかと思います。 

DORAの宣言の中で指摘されているようにジャーナル・インパクトファクター(JIF)偏重が数多の深刻な弊害を科学コミュニティにもたらしていることは疑いようがありません。しかし、DORAが発出されてから11年以上が経過しDORAへの日本からの署名も増えているにもかかわらず、正直、日本でのジャーナル・インパクトファクター至上主義は、未だほとんど改善されていないと断言して差し支えないでしょう。DORAへの署名はJIF至上主義から脱出するための重要な一歩ではありますが、現在でもはびこるJIF偏重を見れば、それだけでは全然十分でなく、そのための具体的な策を研究コミュニティが立案し実行していくためのロードマップが必要であることを示しているように思います。ここでは、JIF偏重がなぜ生じ、なぜダメなのか、その欠点を改めて復習し、それを解消するための私なりの策をいくつか提案させていただきます。

リンク:インパクトファクター至上主義からの脱却を目指そう(宮川剛)

藤田医科大学・宮川剛 (JAAS副代表理事)


私が所属する日本生化学会は国内ではかなり早い段階で署名しており、私も個人で署名しております。DORAの歴史は長く、活動も活発なのですが、今も(特に国内では)JIFによる数値評価が重要な位置を占めている研究領域は少なからず存在します。

研究者の方はご存知ですが、ひとつの学術誌に掲載される論文の引用数の分布は正規分布ではなくべき分布に近いです。その場合、平均値にはあまり意味がなく(例えばものすごく引用数の多いお化け論文はJIFを上げますが、一報による効果です)、JIFが掲載論文に期待される引用数を反映するとはいえないわけです。
続き⇒リンク:DORAとともにこれからの研究評価を考えよう

JAAS理事 田中 智之


2024年2月22日現在


 



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