17日本語学講義 方丈記翻字

佐藤信男 日本語学講義 1998 奥羽大学 記録尾坂淳一
(方丈記翻字)

1、辞典(24点)
日本国語大辞典 小学館
大辞典 平凡社
上田万年・松井簡治 修訂大日本国語辞典 冨山房
大槻文彦 大言海 冨山房
言泉 大倉書店
中田祝夫 古語大辞典 小学館
角川古語大辞典 角川書店
時代別国語大辞典上代編 三省堂
時代別国語大辞典室町編 三省堂
正宗敦夫校訂 倭名類聚抄 風間書房
中田祝夫・峯岸明編 色葉字類抄 風間書房
正宗敦夫編 類聚名義抄 風間書房
雅言集覧 広益図書
大漢和辞典 大修館書房
広漢和辞典 大修館書房
大漢語林 大修館書房
大字源 角川書店
学研漢和大辞典 学習研究社
字源 字源刊行会
新字鑑 弘道館
辞源 南務印書館
辞海 台湾中華書房
日葡辞書 長崎学林
日仏辞書

2、字典(10点)
中田易直・中田剛直 かな用例字典 柏書房
日本名跡かな字典
古筆かな字典 三省堂
児玉幸多 くずし字解読辞典 近藤出版社
児玉幸多 くずし字用例辞典 近藤出版社
若尾俊平・服部大超 草字苑 柏書房
山田勝美 難字大鑑 柏書房
長島豊太郎 古字書総合索引 日本古典全集刊行会
杉本つとむ編 異体字研究資料集成 雄山閣
杉本つとむ 異体字弁の研究並に索引 文化書房博文社

3、その他(10点)
古事類苑 古事類苑刊行会
物集高見 広文庫 広文庫刊行会
橋本不美男 原典をめざして 笠間書院
山岸徳平 書誌学序説 岩波書店
長沢規矩 書誌学序説 吉川弘文館
長沢規矩 古書のはなし 冨山房
伊知地鉄男 日本古文書学提要 新生社
日本古文書学講座1総論編 雄山閣
池田亀鑑 古典の批判的処置に関する研究 岩波書店
柿本奨 蜻蛉日記全注釈 角川書店

4、「方丈記」
a作者
鴨長明1155?~1261年、京都賀茂神社鴨長継の次男1204年出家法名蓮胤
b成立
建歴二年(1212年)三月
c内容
安元三年(1177年)の京都大火災から建歴二年三月まで
d諸本
(広本)古本系、流布本系 仮名書き
(略本)長享本、延徳本、真名本 真仮名書き
e古本
大福寺本 1244年新快写
前田家尊経閣文庫蔵本 鎌倉時代末?
山田孝雄蔵本 1598年写?漢字片仮名交じり
氏孝本 1614年写流布本に近い
名古屋図書館本 転写本、焼失、氏孝本に近い
f流布本
一条兼良写本 室町時代中期写
嵯峨本 慶長十五年頃刊行?
正保板本 三種あり
g活字本
新日本古典文学大系 岩波書店
日本古典文学大系 岩波書店
日本古典文学全集 小学館
新潮日本古典集成 新潮社
簗瀬一雄 方丈記全注釈 角川書店
方丈記 角川文庫
方丈記 講談社学術文庫
方丈記 旺文社文庫
青木伶子編 広本略本方丈記総索引 武蔵野書院
草部了円 方丈記諸本の本文校定に関する研究 初音書房
簗瀬一雄 方丈記諸注集成 豊島書房
吉田幸一編 兼良本写真複製 古典文庫
簗瀬一雄 名古屋図書館本翻刻 碧沖洞叢書
   
5、中古日本語資料
a韻文資料
和歌、歌謡、仏足石歌、
b散文資料
和文(信頼性の高い資料は稀)
漢文訓読文(訓点が原本として存在)
漢字仮名交じり文
変体漢文(公家日記など)
c古辞書
新撰字鏡
和名類聚抄
類聚名義抄
色葉字類抄

6、文法
動詞
九種類の活用形の完成(下一段の成立)
四段・ラ変(母音交替型)
上一段・下一段(接辞付加型)
ナ変・カ変・サ変・上二段・下二段(混合型)

奈良時代八種
↓下一段とワ行下二段
平安時代九種
↓連体形終止の一般化
明治時代五種

形容詞ク活用
語形変化がそのまま活用語尾となる
ク ク シ キ ケレ ×

形容詞シク活用
~シまでは不変化、終止形~シは語幹と一致する
シク シク シ シキ シケレ ×
第一次語幹 むなごと むなぐるま
第二次語幹 むなしさ
ク活用からシク活用へ変化
いちじるく→いちじるし きびく→きびし かまびすし

本活用と補助活用
本活用=形容詞本来の活用、助動詞を伴うことができない、命令形がない
補助活用=本活用の欠陥を補う 高くありき→高かりき

形容動詞
品詞としての認定の問題
ナリ活用(ニアリ→ナリ)
連用形+ニの解釈(はるばる・はるばるに・はるばるなり・はるばると)の統一的解釈
タリ活用(トアリ→タリ)漢文訓読文にみえ和文にはみえない、連用形+トが殆どで、タリ・タルなどは希少、連用形+トの解釈

助動詞
連用形接続・終止形接続・未然形接続

助詞
文の中にあって下位の述語などに係る格助詞、系助詞、副助詞、接続助詞
文末にあって文をまとめる終助詞
文の成り立ちに直接には関わらない間投助詞

名詞
代名詞
副詞
連体詞
接続詞
感動詞

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐前期

平成10年12月14日演習

1翻字
                    カリ↓
ノイホリモヤヽフルサトヽナリテ'ノキニクチバフ↓
カク'ツチヰニコケムセリ'ヲノヅカラコトノタヨリニミ↓
ヤコヲキケバ'コノ山ニコモリヰテノチ'ヤムゴトナ↓
キ人ノカクレ給ヘルモアマタキコユ'マシテソノカズナ↓
ラヌタグヒツクシテコレヲシルベカラズ'タビゝ炎上ニ↓
ホロビタル家又イクソバクゾ'タヾカリノイホリノミ↓
ノドケクシテヲソレナシ'ホドセバシトイヘドモヨルフス↓
ユカアリヒルヰル座アリ'一身ヲヤドスニ不足ナシ'

2口語訳
仮の住まいも次第に馴染んだ家となって、軒には枯れ葉が深く、土居には苔が生えている。ふとした機会に都の様子について人が語るのを聞くと、私がこの山へ籠り住んだ後、高貴な人びとの亡くなられるのも多く耳に入る。いうまでもなく、その数に入らない人びとを全て知ることなどできない。度々の火災で滅んでしまった家は、同じくどれほどか。私はただもう仮の住まいだけで、のんびりしていて心配事はない。狭いといっても夜横になる床があって昼座っている座がある。我が身ひとつを置くのに不足はない。

3語注
ノキ 屋根の張り出した部分、軒
ツチヰ 築地、土居

4問題点
「フルサト」大福寺本のみ。他の諸本はフルヤ。感慨の度合いを考慮するとフルサトが適切とされる(一、二、三、四)。しかし方丈記には「世に仕ふるほどの人誰かひとりフルサトに残り居らむ」と旧都の意味のフルサトの例がある。混同は考えにくいのではなかろうか。

「コトノタヨリニ」例解古語辞典第三版三省堂では「何かのついで」と訳す。しかしヲノヅカラとキコユは呼応しており、カクレ給ヘルモ、間の文は現在形で挿入文。作者の受動的で不意だった所をくんで「ふとした機会に」と訳すべきであろう。

「タビゝ炎上ニ」諸本タビゝノ炎上ニと格助詞ノがある。三はタビゝ炎上ニ。これでは一軒に何度も火災があったともとれてしまうので、写本の際の脱字と考えられる。度々の火災とは承元二年閏四月十五日の大火を中心とした再三の火事。

「イクソバク」ソは十の意、数量の多さをあらわす。作者は「イクバク」「イクソバク」を使い分けたか?

参考文献
一、西尾実校注 日本文学大系方丈記 岩波書店
二、神田秀夫校注訳 完訳日本の古典37 小学館
三、三木紀人校注 新潮日本古典集成方丈記 新潮社
四、築瀬一雄 方丈記全注釈 角川書店

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐後期