08日本語史講義 音韻史 文字史 文法史

橋本博幸 日本語史講義 1997 奥羽大学 記録尾坂淳一
(音韻史、文字史、文法史)

1、序説(日本語史研究とは)
a「日本語」と「史」
日本語の範囲
‐空間的 日本という国土で使われる言語
‐時間的 有史以前、未来語は含まない、奈良~現在 千数百年間
史(歴史)の意味
‐過去の日本語の個々の事実
‐連続性のある事象間での変化の事実
‐この二つに対する研究者の解釈、意味付け


足 あ 万葉集
畔 あ 古事記
網 あ 万葉集、古事記
吾 あ 万葉集、古事記 =(奈良)個々の事実
 ↓=連続性
あし 土佐日記
あぜ 御名抄
あみ 宇津保物語
あれ 落窪物語 =(平安)個々の事実
↓なぜ変わったのか=解釈、意味付け
複数の同音語の存在(コミュニケーションに支障)
別の言語要素を付加し同音を解消
表現の明確化

b研究部門(分野)
音韻 音韻史
文字 文字史
語彙 語彙史
文法 文法史
文章 文章史
奈良~現代の文献資料によって描かれる歴史
「偏り」地域 政治文化の中心地(奈良京都大阪江戸)
‐‐‐‐性格 詩歌語、口頭語、文章語、
‐‐‐‐階層  貴族語、地方語、武士語、僧侶語、町人語

2、音韻史(音韻、仮名、アクセント)
音韻史の資料
奈良  万葉仮名(音仮名)
平安  悉曇資料
室町末 キリシタン資料
江戸  謡曲資料、ローマ字書き文献(英米式)
現代  現代語

a上代特殊仮名遣い(表記の区別)
世の中は 空しきものと 知る時し いよよますます 悲しかりけり
余能奈可波 牟奈之伎母乃等 志流等伎子 伊与余麻須万須 加奈之可利家理
の 乃能
し 之志子
よ 与余
ま 麻万
か 加可
「恋」古非、故悲、孤悲、→己非×許悲×→甲類
「言」己等、許等、→古等×故等×孤等×  →乙類
=区別され交わらない

アイ_ウエ_オ
カキキクケケココ ガギギグゲゲゴゴ
サシ_ス_セソソ ザジ ズゼ ゾゾ
タチ_ツテ_トト ダヂ ヅデ ドド
ナニ_ヌネ_ノノ
ハヒヒフヘヘホ_バビビブベベボ
マミミムメメモ(モ)古事記のみ
ヤ__ユ__ヨヨ
ラリ_ルレ_ロロ
ワヰ__ヱ_ヲ

本居宣長「古事記伝」
石塚龍麿「仮名遣奥山路」=仮名遣いの問題とした

橋本進吉=音韻の差
アイ ウエ オ
ai i: ue e: o o: =八母音あった

子音
カkガg
サs ∫  ts  t∫
ザz ∫  dz ds
タtダd
ナn
ハpБ バb
マm
ヤj
ラr
ワw

ア行イi ヤ行イi ワ行ヰwi
ア行ウu ワ行ウwu→u
ア行エe ヤ行エje ワ行ヱwe
ア行オo ワ行ヲwo
ザ行ジzi  ダ行ヂdi
ザ行ズzu ダ行ヅdu

print「万葉仮名一覧」出典不明
あいうえお
かがき甲ぎ甲き乙ぎ乙くぐけ甲げ甲け乙げ乙こ甲ご甲こ甲ご乙
さざしじすずせぜそ甲ぞ甲そ乙ぞ乙
ただちぢつづてでと甲ど甲と乙ど乙
なにぬねの甲の乙
はばひ甲び甲ひ乙び乙ふぶへ甲べ甲へ乙べ乙ほぼ
まみ甲み乙むめ甲め乙も
やゆ(え)よ甲よ乙
らりるれろ甲ろ乙
わゐゑを

bアヤワ行の変化(表記の混同)
えe ↘
   je(10世紀)↘
ゑje↗     je(13世紀)→e(江戸時代)→e(現在)
     ヱwe ↗

おo  ↘
   wo(11世紀)→o(江戸時代)→o(現在)
をwo↗

いi   ↘
   i(13世紀)→i(現在)
ヰwi↗

e榎 万葉仮名 衣→10世紀表記の混同↘
je枝     延↗      13世紀表記の混同
we絵             恵↗

(11世紀サンスクリット)
エト者i音ヲ以テiト呼ブ而シテ終ニ舌端ヲ垂レバ則チエノ音ト成ル也
(13世紀ポルトガル)
榎Yenogi
枝Ye
絵Ye

(11世紀サンスクリット)
o起、wo治
ヲト者u音ヲ以テuト呼ブ而シテ終リニ唇ヲ開ケバ則チヲノ音ト成ル也
(13世紀ポルトガル)
起Vocoru
治Vosameru

(11世紀サンスクリット)
i報、wi参
(13世紀ポルトガル)
報Mucui
参Mairu

仮名一覧表「あめつち」
あめつちほしそら
やまかはみねたに
くもきりむろこけ
ひといぬうへすゑ
ゆわさるおふせよ
えのえをなれゐて=48音

「いろは歌」
いろはにほへとちりぬるを
わかよたれそつねならむ
ういのおくやまけふこえて
あさきゆめみしゑひもせす=47音

あめつち「えのえ」=区別があった(古い)
↓11世紀
いろは歌「え」(新しい)

cハ行子音の変化とハ行転呼音(ゆるみ)
現在のハ行音ha ci Φu he ho
現在のバ行音ba bi bu be bo
現在のパ行音Pa Pi Pu Pe Po
      h 声門摩擦音
      Φ両唇摩擦音
      P両唇破裂音

「ハ行子音」
奈良P・Φ→平安Φ→鎌倉室町Φ→江戸h(ci,Φu)→現在
   ①   ②   ③    ④ ⑤ 
       ↘P→ P→   P      →現在
        ⑥  ⑦
「唇音退化」唇の負担が軽くなる(パ→ファ→ハ)
①清音/濁音
無声/有声
k/g
t/d
→◯/b→P/b
沖縄方言 葉Pa 畑Pataki
万葉仮名ハ波半→P

②円仁「在唐記」
パ唇音ハ本郷ノ波字ヲ以テ之ヲ呼ブ下ノ字亦然リ皆唇音ヲ加フ
Pa-唇音=「波」Φa+唇音=Pa

③「日萄辞書」
春Faru 人Fito 舟Fune

④リチャード・コックス「イギリス商館長日記」
箱根Facony Hacony 浜松Famamach Hamamach(=どちらでもよい)

⑤三浦庚妥「音曲玉淵集」
し∫iの仮名ひciと聞こえぬやうにいふべき事
ひの仮名しと聞こえぬやうにいふべき事
(当時の発音ha ci Φu he ho)=現在のハ行
(伝統芸能 Φa Φi Φu Φe Φo)

⑥「古今集」
1011 梅の花見にこそ来つれうぐいすの
ひとくひとくと厭ひしもをる
人来人来 Φi to ku→pi to ku→ピートク
(音が別れていたため二つの意味を付けられた)

⑦「日萄辞書」
patto pinpin ponpon

「ハ行転呼音」
11世紀過ぎ~
麗うるはし 泡あわ
願ねがふ 植ううる(は・わ)(ふ・う)の混同
=ハ行とワ行の仮名の混同
11世紀ハ行Φa Φi Φu ΦeΦo
   ワ行wa wi u we wo
Φ↘
  w (語頭以外)(語頭では起きない)
w↗

11世紀以前→以後→現在
川かはkaΦa kawa   kawa
問とひtoΦi   towi     toi
会あふaΦu   au     au
上うへuΦe   uwe.uje  ue
顔かほkaΦo kawo   kao

変化の要因
「唇音の退化(ゆるみ)P→Φ  ゆるみΦ→w」
奈良~平安時代
髪か かみ
背せ せなか
猪ゐ ゐのしし
鹿か しか
蚕こ かひこ
=多音節語化=ゆるんだ発音が許容
樋ひPi→多音節化かけひkakepi→ゆるみkakeΦi→ゆるみkakewi

「有声化Φ→w」
かけひkakeΦi●○●有声無声有声→kakewi●●●
=前後の母音(有声音)に同化された

「語頭以外」
箱はこΦako  語中よりも丁寧に発音に発音される
      はさまれない=有声化しない

(もし語頭で起きた場合)
橋はし于ひる外ほか=鷲わし居ゐる岡おか「同音衝突」
(語中語尾で起きた転呼での同音衝突)
語中語尾のw音=泡青魚香くらいしかない

dサザ、タダ行子音の変化と四つ仮名の混同
「サザ行子音の歴史」
_a_i_u_e_o サ行s、∫、ts、t∫、特定不能
_a_i_u_e_o ザ行z、ʒ、dz、dʒ、特定不能

室町末sa∫isu∫eso zaʒizuʒezo

江戸sa∫isuseso zaʒizuzezo

現在sa∫isuseso zaʒizuzezo
∫eとʒeが消滅

「タダ行子音の歴史」
tatituteto dadidudedo 破裂音

室町末tat∫itsuteto dadʒidzudedo 破裂摩擦音

四つ仮名(じ・ぢ、ず・づ)の混同
じzi、ʒi、dzi、dʒi→ʒi↘
           ʒi江戸時代に表記の混同
      ぢdi→dʒi ↗

ずzu、dzu、dʒu→zu↘
          zu江戸時代に表記の混同
     づdu→dzu↗
江戸時代「鴨東藪父ノ蜆縮凉鼓集」しじみちぢみすずみつづみ(区別できない人が多くなってきた)

e語音配列の変化
「上代の語音配列則」
ラ行音が語頭にこない 力士舞→借用語
濁音が語頭にこない ばら→うばらむばら
音節構造=c+v子音+母音
    =開音節(母音でおわる)
    =母音単独音節は語頭にしかこない
    =単語内に母音連続はない

「単一位化」
濁音=連濁 山川やまがわ→やわかわ、やまがは
     朝霧あさぎり→あさつきり
母音の脱落 araiso vcvvcv→ariso vcvcv
母音の融合 sakiari cvcvvcv→sakeri cvcvcv
子音の挿入 Φaruame cvcvvcv→Φarusame cvcvcvcv

「音便の発生」(平安以降)
多音節語化→ゆるみ→音便の発生
イ音便 裂きて→裂いて=母音連続
ウ音便 正しくす→正しうす=母音連続
發音便 踏みて→踏んで=閉音節(子音でおわる)
促音便 持ちて→持って=閉音節

「長音の発生」
ウ段長音
食うkuΦu→ハ行転呼音kuu→キリシタン資料cu`→ku:
言ふiΦu→ハ行転呼音iu→キリシタン資料yu∨(ひろがる 開音)→ju:

オ段長音
早くΦajaku→ウ音便Φajau→キリシタン資料faya∨→Φαjα:
良く joku→ウ音便jou→キリシタン資料yo∧(すばる 合音)→jo:(母音の連続がないための長音)
(短母音aiueo)
    ↑↑↑
(長母音  u:o:α:=相手になる短母音が無いため消えやすい)

その他の長音(江戸以降) 
ア段長音 行けば→ikjα:
イ段長音 悪い→wari:
エ段長音 威勢→ise:

f拗音(漢文から入ってきた元来日本に無かった音)
開拗音ャュョ
長ジョウ 訓点資料「乗」(類音表記)
歴リャク     「リアク」
緒チョ      「チオク」
跡シャク     「シイヤク」
合拗音ヮヰヲ
郭クヮク→直音化カ 訓点資料「果ク」
毀クヰ →直音化キ     「貴」
血クェツ→直音化ケ     「決」

「土佐日記」934年頃
「京」(開拗音)きあう×きいあう×=漢文にしか使えないので仮名表記されていない

仮名表記される拗音=化粧けさう 宿世すくせ 紙燭しそく=拗音の直音表記(サザ行に多い)
さ∫aす∫uそ∫oサ行そのものが拗音だったため
表記さしすせそ
音 しゃししゅしぇしょ

gアクセント史
資料
11世紀末「金光明最勝王経音義」
12世紀「類聚名義抄」
声点(しょうてん)
 四声=上声(後平調) 去声(上昇調)
          ■
    入声(低平調) 平声(低平調)

 六声=入声軽(Ptkで終る高平調)
   =平声軽(下降調)
    詩 'ウタ.=ウ′タ
    歯 ハ'=ハ↗
    訴 ウ.'タ.ウ=ウッタ′ウ
    音 .コ.エ=コエ↘
    経 ノ..ト'ル=ノ′ットル′
    水 'ミ''ツ=濁音=ミヅ

17世紀「補志記」
節博士 春ハル=ー\=角(低く)徴(高く)=ハル'

二拍名詞アクセント型の変遷(京都方言)
   平安末 近世初 現代
梅枝庭ウメ  ウメ  ウメ
石川寺イシ  イシ  イシ
山家花ヤマ  ヤマ  ヤマ
息空松イキ  イキ  イキ
雨秋声アメ\ アメ\ アメ\

溝ミゾ→↘ 脛ハ↗キ 百合ユリ↗→ 虹ニ↘ジ
=平安では9のアクセント
=現代では4のアクセント

(資料がアクセントを限定した理由)
着ハク→身につける ハ→ク
   →除く    ハク↘
   →出す    ハク↘
=意味の認識を助ける

3、文字史
a文字の種類
表意(表語)文字─漢字
表音文字=単音文字─ローマ字(一文字一単語)
表音文字=音節文字─平仮名、片仮名(一音一文字)

b日本における文字の歴史
漢字 ~現在
万葉仮名(真仮名) ~鎌倉時代
略体仮名(平仮名片仮名) 平安~現在
(神代文字 漢字伝来以前に日本独自の文字があったという説 卜部兼方、平田篤実等)

c中国における漢字 許慎「説文解字」後漢
六書=漢字を六つに分類
一、象形 物の形をかたどる 日山
ニ、指事 抽象的観念を表す 一ニ三上下
三、会意 意符+意符 炎東
四、形声 音符+音符 銅胴江
五、転注 本来の意味を他の意味に引用する
‐‐楽ガク楽ラク楽ギョウ 悪アク悪オ
六、仮借 意味に関係なく音を利用

d日本における漢字
漢字の伝来
1~2世紀
「後漢書」建武中元二年(AD57年)倭奴国貢奉朝賀
金印に「漢倭奴国王」
古代中国貨幣(BC45~AD24年製)出土
彷製鏡(中国の鏡を模造)漢字の順を入れ換えたりくずしたり→文様としかみていなかった
5世紀
「古事記」和迩吉師わにきし が論語十巻千字文一巻を持ってきた
「日本書紀」阿直岐あちき が経典を持ち込み、王仁わに(百済)から皇太子が習った→5世紀には文字として認識
5~6世紀
金石文(刀などに刻まれた文字)漢字を文字として使用、渡来人が書き手
漢字による漢文から漢字による日本文に→漢字の音訓を利用 spring 春、張る、波流

e漢字の音訓
      ↙発音─変形→音↘
中国語 漢字         日本語
      ↖意味─訳語→訓↗
冬toη=1音節━━━━トウフユ━2音節
明メイミョウミン━━あかるいあきらかあける(一つの漢字に複数の音訓)

=多義語 中国語の時点から複数の意味=複数の訓
=中国の音が何度も入ってきた=複数の音
5~6世紀 南方音「呉音」
随~唐 北方音「漢音」
宋以降 南方音「唐音」(音韻変化や地域差)

呉音=経文きょうもん 成就じょうじゅ 世間せけん 権化ごんげ(仏教関係)
漢音=経歴けいれき 成功せいこう 期間かん 権力けん 文章ぶん 就職しゅう 世せい 化学か
 ↓
「日本紀略」漢音を奨励(呉音が根強かった)
‐漢音=正音、呉音=和音
‐呉音と漢音が両立 強力=ごうりききょうりょく
‐唐音 和尚お 椅子す(数は少ない)

(漢和辞典における音の問題)
元=A辞典 呉ガン漢ゲン
 =B辞典 呉ゴン漢ゲン慣用音ガン
→ゴン使用されない例
→遠オンエン 建コンケン 言ゴンゲン
→◯ンeン
→元◯ン-ゲンゴンになるはずだというB辞典の推定

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐前期

f万葉仮名(真仮名)
日本語を表記するために漢字を表音文字として用いたもの→字義を捨て読み(訓音)のみを利用

使用される場
漢文中の固有名詞=表記できない場合
訓注、語句、歌謡、和歌=音を示す必要
私的記録文書、手紙、=(漢文より手軽)→略体仮名を生む基盤に

万葉仮名の種類
893万葉仮名+漢字 世間乎宇之等夜佐之等
2453全て漢字
音仮名
訓仮名

「なつかし」
3917奈都可思 音(中国の音)を利用=音仮名
3791名通蚊為 訓(日本での意味)を利用=訓仮名
4181夏樫   訓仮名(一字ニ音節)
1333名香思  訓(ニ音節)+訓+音

「けむ」
1172家牟   音
3337異六   訓(む=和語)
1111兼    音(ニ音節)
2338異牟   訓+音
音節と仮名の対応関係=一対多
ナ→奈、名、 ツ→都、津、 カ→可、蚊、香、
シ→思、為、

「戯れ書」訓仮名の延長
1827山上復有山ば→山の上にまた山有る→出ば
2491馬声 蜂音 石花 蜘蛛 荒鹿
   い  ぶ  せ くも あるか
2542ニ 八十一あらなくに
  に  くく
2594今そ和ぎ少熱
      ぬる

(いななくとはФi+鳴くか?記録者→橋本に考察あり)

g平仮名、片仮名、草仮名
万葉仮名略体化=草化→草化仮名→平仮名(美しさ)
       =省文→省文仮名→片仮名(書きやすさ)

略体化が行われる場
記録、文書、手紙→草化
訓点記入(漢文訓読)→草化、省文
 ↑
万葉仮名は画数が多い
手紙等の略体化=速書
訓点の略体化=速書、小記(スペース)

経緯
手紙等 万葉仮名─草化 草化仮名─10世紀 草仮名
                  └平仮名

訓点  万葉仮名─省文 省文仮名─10世紀 片仮名
        ∟草化→×

print「有年申文867年」
   草化仮名
   ↓
  「成実論天長五年(828)点所用仮名字体表」
   草化仮名+省文仮名
   ↓
  「蘇悉地羯羅経延喜九年(909)点所用仮名字体表」
   省文仮名
   ↓
  「大日経疏康和五年(1103)点所用仮名字体表」
   省文仮名

草仮名 万葉仮名を意図的に少しだけくずした文字 「秋萩帖」10世紀末 異体仮名
「元永本古今和歌集」1120年 異体仮名

h異体仮名
「字源が違う」
平仮名ka 加→か 可→◯ no 乃→の 能→◯
片仮名sa 散→サ 左→◯

「草体化の段階が違う」
平仮名u 宇→◯→う

「省画部分が違う」
片仮名na 奈=大→ナ =示→エ

広日本文典(明治30年)
平仮名に=仁尓 さ=左佐 す=須春

現行の字体=明治33年小学校令施行規則

print「現行平仮名の字源」出典不明
い以ろ呂は波に仁ほ保へ部(部首)と止
ち知り利(全画)ぬ奴る留を遠
わ和か加よ与た太れ礼そ曾
つ(未詳)ね祢な奈ら良む武
う宇ゐ為の乃お於く久や也ま末
け計ふ不こ己え衣て天
あ安さ左き幾ゆ由め女み美し之
ゑ恵ひ比も毛せ世す寸ん无

print「現行片仮名の字源」出典不明
ア阿イ伊ウ宇エ江オ於
カ加キ幾ク久ケ介コ己
サ散シ之ス須セ世ソ曾
タ多チ千ツ(未詳)テ天ト止
ナ奈ニニヌ奴ネ祢ノ乃
ハ八ヒ比フ不ヘ部ホ保
マ末ミ三ム牟メ女モ毛
ヤ也ユ由ヨ与
ラ良リ利ル流レ礼ロ呂
ワ和ヰ井ヱ(未詳)ヲ乎ン(撥音記号レ)

print「現行ローマ字の綴方(第一表)」出典不明
aiueo
kakikukeko   kyakyukyo
sasisuseso   syasyusyo
tatituteto    tyatyutyo
naninuneno     nyanyunyo
hahihuheho     hyahyuhyo
mamimumemo  myamyumyo
ya(i)yu(e)yo
rarirurero    ryaryuryo
wa(i)(u)(e)(o)
gagigugego     gyagyugyo
zazizuzezo   zyazyuzyo
da(zi)(zu)dedo   (zya)(zyu)(zyo)
babibubebo    byabyubyo
papipupepo    pyapyupyo

     仮名の用法の実態 上代特殊仮名遣いなど
仮名遣い<
     仮名の使い方に関する規範
→11世紀以前は発音通りに表記=規範の必要なし

i音韻変化と仮名表記の関係
jeえ────────────jeえへゑ
Φeへ ハ行転呼音weへゑ↗
weゑ↗

Φoほ↘
woを──woほをお
oお↗

Φiひ↘
wiゐ──wiひゐ↘
iい────────iひゐい

Φaは↘
waわ──waはわ

Φuふ↘
uう──uふう

四つ仮名
ʒiじ↘
   ʒiじぢ
dʒiぢ↗

zuず ↘
   zuずづ
dzuづ↗

(一音節に仮名が二つ以上ある場合)
無差別に使用
規準を立てて使い分け=仮名遣い
→その時代の音韻体系に基づく =現代仮名遣い
→過去のある時代の用法に基づく=契沖仮名遣い
               =定家仮名遣い

j定家仮名遣い
藤原定家「下官集」1204年以降 書写用語のリスト
を・をみなえし、をぐら山、をくつゆ(置露)、
お・おく山、おしむ、
(→アクセント高平=を、低平=お)
え・ふえ、かえで、
へ・しろたへ、ことのゆへ、
ゑ・ゆくゑ、こゑ、
ひ・おまひ、かひもなく、
ゐ・あゐ、つゐに、
い・にしのたい、
(→「旧草子」平安時代後期の用法)

歴史的仮名遣いとずれ=おくつゆ、をしむ、かへで、ことのゆゑ、ゆくゑ、つひに、

k行阿「仮名文字遣」1363年以降 下官集の発展版
定家の項目+ほ、わ・は、む・うふ、を増補
を・お 定家   行阿
鬼   おに   をに
凡   およそ  をよそ
疎   おろそか をろそか
→区別の用法は同じ、アクセントの変化wo低→高

定家仮名遣い批判
成俊「万葉集跋文」1353年
長慶天皇「仙源抄」1381年

l契沖仮名遣い(≒歴史的仮名遣い)
「代臣記」平安中期以前の文献をもとに定める=音韻変化が起こる前
古文献の用字と定家仮名遣いにずれ
「和字正蜚鈔」1693年

対立=橘成貫「和字古今通例全書」
是認=賀茂真淵本居宣長ら国学、楫取魚彦「古言梯」

「和名類聚抄」934年源順 意義分類体漢和辞書

m現代仮名遣い 昭和21年内閣告示「現代かなづかい」
表音的仮名遣い
ゐゑをくゎぐゎぢづ→いえおかがじず
語頭以外のはひふへほ→わいうえお

不徹底な部分
助詞はへを
頻度が多く定着が強かった
こんにちは やむをえない きれいだわ くるわくるわ

動詞いう「い」わ い / / え え
    「ゆ」/ / う う / /
同一の語に二つの分裂した活用

同音の連呼
ちぢみ つづく いちぢるしい

二語の連合 
はなぢ みかづき(連合の意識が強い)
やまじ さかずき(連合の意識が弱い)

オ段長音
とお おおかみ とおる 原則「う」

現代仮名遣い批判 
視覚的問題 蝶てふ→ちょう
語源がわからない 絆きずな→き+つな
活用 四段「書」かきくくけけ→五段かきくくけけ+こ

nローマ字
室町期末 ポルトガル式
江戸期 オランダ式
幕末期 ドイツ式、フランス式、英語式、 
慶長三年1863年ヘボン「和英語林集成」
明治期以降 発音に基づくor五十音図に基づく
明治18ローマ字会による英語式のつづり方
明治19ヘボン式(ローマ字会のつづり方を採用)
明治19日本式 田中館愛橋
明治38ローマ字ひろめ会
明治41標準式(修正ヘボン式)
明治42日本のローマ字
大正 日本ローマ字会
昭和5  文部省臨時ローマ字調査会 訓令式
昭和29国語審議会 現行方式
「第一表」訓令式 一般に国語を書き表す場合
「第二表」標準式+日本式 国際的関係や慣例によって改め難い場合

つづり方の相違
aiueo
kakikukeko kyakyukyo
sasisuseso syasyusyo日本式
sashisuseso shashusho標準式
tatituteto tyatyutyo日本式
tachitsuteto chachucho標準式
naninuneno
hahihuheho日本式 hyahyuhyo
hahifuheho標準式
mamimumemo
yayuyo
rarirurero
wawon

zazizuzezo zyazyuzyo日本式
zajizuzezo jajujo標準式
dazizudedo zyazyuzyo訓令式
dadidudedo dyadyudyo日本式
dajizudedo jajujo標準式

「藤」
訓令式huzi
日本式hudi
標準式fuji

4、文法史
a連体形終止の一般化
奈良~鎌倉
ぬ、あり、なし=終止形
見ゆる=連体形(係り結び)
とどむる、ねたき、つる、おぼゆる=連体形
→余情(会話文や歌 つづく感じ)として使用
出典 万葉集 土佐日記 源氏物語 平家物語

室町以降
ほむる、する、らるる、ぬ、いまする=連体形
→通常の終止法として使用
出典 天草版平家物語(キリシタン資料) 天草版伊曽保(イソップ)物語

終止形終止─室町時代に消滅
連体形終止─頻用しために特殊効果(余情)を失った

連体形終止による終止機能が残る
未然 連用 終止× 連体 已然 命令
     ↓
未然 連用 連体   連体 已然 命令

全活用に及ぶ

b動詞活用の変遷
活用の種類九種→五種
=四段化①ラ変が四段に②ナ変が四段に
=一段化③下二段が下一段に④上二段が上一段に
=下一段蹴るが四段に
(所属語数の少ない活用は多い活用へひっぱられる)

①有|ら り り る れ れ ラ変
     ↓連体形終止
 有|ら り る る れ れ 四段

②死|な に ぬ  ぬる ぬれ ね ナ変
     ↓連体形終止
 死|な に ぬる ぬる ぬれ ね ナ変
     ↓四段にひっぱられる
 死|な に ぬ  ぬ  ね  ね 四段

③受|け け く  くる くれ けよ 下二段
     ↓連体形終止
 受|け け くる くる くれ けよ 下二段
     ↓連用形に統一される
 受|け け ける ける けれ けよ 下一段

④起|き き く  くる くれ きよ 上二段
     ↓連体形終止
 起|き き くる くる くれ きよ 上二段
     ↓連用形に統一される
 起|き き きる きる きれ きよ 上一段

個物の移動(字類抄)
経|へ へ ふ  ふる ふれ へよ ハ行下二段
     ↙へる
  へ へ へる へる へれ へよ ハ行下一段

媚|び び ぶ  ぶる ぶれ びよ ハ行上二段
     ↙びる
 び び びる びる びれ びよ ハ行上一段

c形容詞活用の変遷
古語
たか|く  く  し き  けれ ◯
  から かり ◯ かる ◯  かれ ク活用

うれ|しく  しく  し しき  しけれ ◯
  しから しかり ◯ しかる ◯   しかれ シク活用
         └シを抜くと終止形がなくなる
→本活用
→補助活用(カリ活用)

補助活用の成立
たかし+む
たかし+あり+む→たかくあらむ→たかからむ(母音の脱落)

活用の種類と意味との関係
ク活用 赤し、薄し、遅し、=状態的
シク活用 怪し、恐ろし、悲し、=情意的感情的

現代語
たか|◯  く  い い けれ ◯
  かろ かっ  ◯ ◯ ◯  ◯
うれし|◯  く◯ い い けれ ◯
   かろ かっ  ◯ ◯ ◯  ◯

奈良
たか|け  く  し き  け  ◯
          けれ
  から かり  ◯ かる ◯  かれ

うれ|しけ  しく  し しき  しけ  ◯
             しけれ
  しから しかり  ◯ しかる ◯   しけれ
(_特有の活用)

平安
たか|◯  く  し き  けれ ◯
  から かり ◯ かる  ◯  かれ

多|◯  く  し  き  けれ ◯
 から かり かり かる かれ かれ
(_多しのみ)

うれ|◯   しく  し しき  しけれ ◯
  しから しかり  ◯ しかる ◯   しかれ

室町末
たか|◯ く い い けれ ◯
うれし|から かり ◯ かる ◯ ◯
連体形 たかきコト うれしきコト
↓イ音便化
たかいコト うれしいコト
↓連体形終止の一般化
たかい うれしい

江戸
たか|く く い い けれ ◯
うれし|から かっ ◯ ◯ ◯ ◯

奈良
↓上代特有の活用が消滅
平安
↓連体形がイ音便化
↓終止形が連体形終止で消滅
室町末
↓本活用に未然形出現
↓補助活用の変化
江戸
↓本活用の未然形再び消滅
現代

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐後期