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断片:君達の神の正気はどこの誰が保証してくれるのかね?

例によってコメント欄に書ききれない話など(笑)。

千円払えない人のために要点だけ少し。

スポーツ文化ツーリズムアワード2021の表彰が決定していた「温泉むすめプロジェクト」が運営会社エンバウントの受賞辞退によって事実上「キャンセル」されてしまった。これを受けて多くの人が嘆き、一部には過激な行動に出る者もいるという。ただこれは様々なキャンセルカルチャー被害の一例というよりは Point of No Return (帰還不能点)と考えるべき事例なのではないか。これまでは一方的にフェミニストやリベラリストからの攻撃を受けるだけだった「表現の自由」勢力が最近では力を増し、松戸VTuber事件のように逆襲に転じる状態にもなっている。このまま事態が進めばそれは、対話による相互理解を不可能とし、互いが互いをキャンセルする相互確証破壊の時代となるのではないか...

というわけでコメント。
今の時代を生きている人達から見ると馬鹿げた話のように聞こえるかもしれませんが、生まれたときから冷戦構造下にあった世代にとっては核戦争による相互確証破壊:MAD (Mutual Assured Destruction)はけして夢物語ではなく、在る種の現実感を伴った話でもあったんですよ。初代ターミネーターに描かれたスカイネット反乱後の世界、マッドマックスの舞台、拳法はともかくとして(笑)北斗の拳の世界は、それなりにリアリティがある話でもあった。いま享受している平和も、あるいは明日には消え去るかもしれない。経済成長を謳歌し明るい明日を考える人々が多くいながら、一方でノストラダムスの大予言のような破壊的な未来の話を求めるというアンビバレントな行動は、こうした環境下ならではものではないか。私達は未来を信じながらそれを信じきれない世界に生きている。そういう状況が核戦争がリアリティを持った世界では日常だったわけです。

ただまあ、残念なこ...幸いなことに(笑)冷戦構造は事実上ソビエト連邦の敗北と崩壊によって終結し、いまの世界があるわけです。相互確証破壊という名の狂気は無くなったものの、非対称戦争という別の狂気に彩られた世界へ。冷戦が終結した直後はともかくとして、今の世界の有り様を素晴らしいものと捉える人は稀でしょう。憂える人のほうが多いのではないか。

腹を割って書いてしまうと、私は人間の理性/良心/倫理etc...に毛ほどの信も持っていないので、相互確証破壊による限定的な平和は狂気の沙汰であり、人類社会がそれで生き延びたという事実は単に運が良かったに過ぎないと考えています。あるいは神の恩寵なのかもしれません。どっちにしろ、それが平和を生むとは考えていない。
とは言え、事実だけを取り上げると、米帝・ソ連が大量の核を保有し睨み合い殲滅の可能性が現実にあったからこそ、両国の間に緊密な交渉のパイプがあったということは否定のしようがありません。限定的な地域紛争は続いたものの、世界は相対的には「平和」だったわけです。そう、事実だけを見るならば相互確証破壊は小競り合いを残すものの総合的には平和を生んできたわけです。これをどう捉えるのか。

アメリカとソビエトのトップと、一山幾らのヲタクとフェミニスト/リベラルを同一線上で語るな、とお叱りの人もいるかもしれません。しかしよく考えてください。今の世界の各国のトップと過去のトップに大きな違いがあるでしょうか。そりゃまあ国によってはあるかもしれませんが(笑)、総合的には大差ないでしょう。人間の判断力の良し悪しなんてものは結局のところ環境によって左右されるものです。「自分に力があるように相手にも同じ力がある」と考える人間の判断が大きく異なるものでしょうか。

大きく出ますが、我々人類の歴史は相互確証破壊という狂気を乗り越えて続いているものです。私達は狂気を手にしその狂気の下にあったからこそ理性を保てたのかもしれません。今ふたたび別の狂気を手にしようとしているならそれは、あるいは平和への第一歩なのかもしれない。誰がそれを保証してくれる狂気なのかは知りませんがね(苦笑)。


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