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Poetry) A Memory of Sea and She in Noto as Note.

Iino.
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こちら全16名の中学生クラス。
seaとsheの発音を一緒に練習しています。
ボードに綴られたseaとshe。
私の指差しに従って、
みながseaかsheかを唱える。

こっちは?
sea!
これは?
she!
こっちは?これは?じゃあこれは?
sea! sea! she!

seaとsheの交響曲。
そのリズムと音色を司る指揮者、私。
舌と喉という楽器の使い手、子どもたち。

素朴なリズムと音との連なりが
言葉となって意味を結び
豊穣なイメージが立ち上がってくる。

sea, sea, sea...
sea, sea, sea...
能登の海に育った子どもたちよ。
その舌に宿る海の記憶はなにか。
sea, sea, sea...
舌先で鳴る歯擦音。
その先端をゆくは、水面を滑空するあの海鳥たちか。
鳴るのは羽根が風切る音か。
それとも、耳元に届く海鳴りか。

she, she, she...
she, she, she...
能登の海に育った子どもたちよ。
その舌に宿る「彼女」とは、誰のことか。
she, she, she...
海を喚起するseaに、hという呼気の湿り気が混じる。
その吐息は、誰の吐息か。
幼き日、耳元できいた母の吐息か。
優しき海の囁きか。

she, she, she...
ほらみんな、活用してみよう。
活用って、何かって?
三水でもって、舌を用いてみるのです。
水を得た魚のように、舌が喜ぶことでしょう。
she, her, her...
she, her, her...
ほらね。誰の吐息か、
湿り気混じりの温かな風が吹いてくる。
能登の雪の冷たさで
かじかんだ手をも暖めてくれるような。
気を抜くと、身も心も溶かされてしまいそうな。

こちら能登町、
子どもたちも大好き。
近所にあるお菓子屋さんの名前は
そう、「ラ・メール」。
la mere...
フランス語にして「海」のこと。
それと同時に「母」のこと。
la mere, la mere, la ...... me...... re......
音の消え際。
儚げに入り混じる微かな呼気が、
やはり母のそれを思わせる。
それからきっと、
ラ・メールのお菓子を食べて
舌のうえで溶けてゆく
砂糖の優しい味もかな。

あ、みんなよく見て!
海という字面のなかにも
母が潜んでいるよ。
微笑みながら。

sea, sea, sea...!
she, she, she...!
sea, sea, she, she!
sea, she, sea!

私の指さしに感応して
子どもたちの舌先が
「海」と「彼女」を奏でる。
彼らが宿す能登の記憶と、
言葉が宿す太古の記憶とが、
海の彼方から遠く谺してくる。

sea, sea, sea...
she, she, she...
she, her, her.
la mere.

私たち生命の母胎、海。
その記憶は、
ここ能登の子どもたちの舌先にも、
確かに宿っている。

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