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素材ヒストリア ごま編

 石けん作りのベースとなる油の代表はオリーブ油ですが、その産地は地中海沿岸の国々です。では国産の油は?といえば、まず第一に「ごま油」が挙げられます。
 とはいえ、ごまの起源は日本からはるか彼方のアフリカ大陸だと考えられています。スーダンのサバンナ地帯が、そのふるさとでした。そこから地中海を経てインドに伝わると、ごまから搾った油が食用油や灯火用の油として広く用いられるようになったほか、インドの伝統医学「アーユルヴェーダ」で病気予防や若返りのための油として重宝されるようになります。

ごま

 日本には中国から伝わり、奈良時代には重要な作物として栽培されていたと考えられています。特に仏教の伝来とともに、脂質、たんぱく質、炭水化物、ミネラルなどを豊富に含むごまは、肉食を禁じられた僧侶の貴重な栄養源として注目され、精進料理の素材として用いられてきました。高野山や永平寺の「胡麻豆腐」は、そんな精進料理から生まれたものです。

永平寺

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 一方で、庶民には、シソ科の植物荏胡麻(えごま)からとる荏胡麻油が灯火用の油としてよく用いられてきたといいます。しかし江戸時代に入ると菜種油の生産が盛んになり、燃やすと煤が多く出る荏胡麻油は敬遠され、主流は菜種油に変わっていきました。

 ごま油もまた、江戸時代になると庶民の「味」になっていきます。それまでにも、油で揚げた料理は精進料理などに見られたものの、安土桃山時代にキリスト教の宣教師から小麦粉を衣にした揚げ物料理が伝わり、それが江戸時代、ごま油で魚介類を揚げた「ゴマ揚げ」となって人気になったのです。これが今の「天ぷら」のルーツで、ごまの風味で魚の生臭さを消すと同時に、賞味期間を延ばす工夫として生まれた料理だと言われています。

 ところで、石けんは焼いた羊から滴り落ちた油脂と灰がまじってできたという伝説がありますが、日本では仏教伝来以降、肉食は敬遠されるようになったため、動物性油脂はおそらくほとんど手に入らないものになっていたと思われます。石けんは動物性油脂、植物性油脂どちらからも作ることができますが、植物性油脂の多くは常温では液体の不飽和脂肪酸を豊富に含むため、鹸化しても固まりにくく、パーム油やココナッツ油など飽和脂肪酸を多く含む植物油を加えなければ、石けんづくりはかなり難しいものとなります。(ちなみに、石けんの代表的ブランドである「牛乳石鹸」の石けん素地は、牛脂とヤシ油を原料に作られています 参考:https://www.cow-soap.co.jp/event/kodawari/kodawari02/
 日本には、南蛮貿易で鉄砲とともに石けんが伝わりました。石田三成が、博多の豪商神谷宗湛から石けん2個をもらったことに対する礼状が残っているそうです。戦傷の絶えなかったこの時代、石けんは薬用として大変珍重されたようです。しかし鉄砲がいち早く国産化された一方、石けんは国産化に至らないまま明治時代を迎えました。その理由の一つとして考えられるのは、石けんを作りやすい動物性油脂や、飽和脂肪酸が豊富な植物性油脂が手に入らなかったことです。

 もくせい舎では、そんな歴史を振り返りつつ、もしその時代に石けんが国産化されていたら・・・という発想で、ごま油を用いた石けんを作り上げました。それが「和の石けん 佐和山」です。ごま油のほか菜種油、豚脂を用いていますが、ごま油は「香り」という他の油にはない特長があり、江戸でごま油の揚げ物が魚の生臭さを消したのと同様に、手作り石けんにありがちな油臭さを、ほのかなごまの香りが打ち消し、やわらかな泡が心地よい石けんに仕上がっています。

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 また、アーユルヴェーダでごま油が用いられたことから発想した、ごま油のマッサージ石けんも制作しています。石けんでありながら泡立ちを抑え、オイルを多く含んでいるため、塗布することでマッサージ効果が得られます。

ごま米油


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