映画覚書 『Ryuichi Sakamoto | Opus』(2024)
開始1音目から息を呑んだ。鍵盤のタッチ、ペダルの踏み込み、衣擦れ、メガネを直す仕草、楽譜を捲る動作、そして移ろう表情。全てが坂本龍一という音楽家による音楽だったし、坂本龍一という音楽家も丸ごと音楽だった。聴き入っていくうちに、ピアノと指先、身体が音を媒介にして空間に溶け込んでいくような錯覚を覚えるくらいに。全体的にテンポを落ち着かせて、1音1音を慈しむように丁寧に積み重ねられて演奏された楽曲たちは、それぞれが持つ個性的で普遍的な、琴線に触れるような旋律をこれ以上ないくらいに儚