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-日本と西洋の身体をつなぐ橋- サビン・シタドレー奥野さん

サビン・シタドレー奥野さんへのインタビュー
2020/12/5に、スイスからサビン・シタドレー奥野さんを迎えてオンラインWSを開催するにあたって、JFCメンバーみんなでWSへ向けてのお話をいろいろ伺ってみました。


ーーー荒川:今日はよろしくお願いします。最初にサビンさんの自己紹介をお願いします。そして、どのようにフェルデンクライス®︎と出会ったのか、その時の体験も含めてお聞きしたいです。

サビン:はい、私はサビンと申しまして、スイスから来ました。スイス生まれのスイス育ちです。高校時代に交換留学生として日本に11ヶ月滞在しました。留学前からスイスで合気道をやっていて、そこで日本の話をいっぱい聞いて、日本に留学しようと思いました。日本にいる間は鳥取にいて、高校では薙刀部に入りました。その時にしゃんしゃん祭り※1の踊りとか、少しずつお茶やお花などをさせていただきましたが、そこから日本の文化はいつも身体を伴うもので、それによって心も落ち着くというのにすごく魅せられましたね。

※1毎年8月に鳥取市で開催される祭り。

留学後は、一旦スイスに戻って、ジュネーブ大学に通いながら日本舞踊を学び始めました。そして修士号をとったのちに奨学金で東大に行きましたが、東大にいく前からジュネーブの日本舞踊の先生に東京の先生を紹介してもらいました。その方は地唄舞の先生でした。地唄舞は関西地方の座敷舞です。

週何度かお稽古に通って、地唄舞の動きに魅せられました。動きはゆっくりしているので、徐々にいろんな身体の中の繋がりに気づきました。そこで修士論文を地唄舞について書くことにしました。伝統芸能の研究は歴史とか社会的な背景についてのものが多いのですが、私はそれよりも身体の使い方に興味があったのです。でも全くどういう手法で身体の使い方を説明したらいいかわからなかった。ですから、もっと身体のことを理解したいと思い、いろいろな本を読み始めました。

面白いものはたくさんありましたし、せっかく日本にいるのだから整体を学ぼうとも思っていたのですけれど、どの先生について学んだらいいかわからなかったり、、、西洋のものでも、今一つぴんとこなかったりしていました。しかし、フェルデンクライスメソッド®︎の本を読んだ時、すごく興味を惹かれたのです。考え、感情、動きと感覚は何事にも伴うということがよくわかり、それで、トレーニング※2を受け始めたのです。

つまり、まだあまり体験しないままに、フェルデンクライスの理論が素晴らしいと思って始めたんですけど、一気に二ヶ月トレーニングを受けて、それでやっぱりすごく変わりましたし、養成コースが続くにつれて、日舞の腕も上がりました。例えば、師匠に顎を引きなさいと繰り返し言われたり、腰を入れなさいなどと注意されましたが、フェルデンクライスメソッドの勉強を通じていろいろなことが理解できて、身体をどう使えばそういう風にできるのかわかるようになって、修行中にATM※3を教え始めたら、教えるのがとても好きになって、結局それが仕事になって大学も一旦休学しました。

その流れで、あるときトレーニングのクラスレッスンの通訳を頼まれて通訳をするようになり、そのおかげで何人もの先生のお話とか教え方に接することができたんですね。もちろん通訳をするのは、自分でトレーニングを受けるのとは全然違うんですけど、でもなんとなくFI※4のデモの間とかで色々と無意識に学んで、そのうちに私もスイスの養成コースなどでFIをするようになって、それで2年前にアシスタントトレーナーになり、、、いろいろなトレーニングでアシスタントをやったりして、そのおかげでとても勉強になっています。

※2フェルデンクライス指導者養成コース
※3フェルデンクライスのグループレッスンで言葉による指導
※4フェルデンクライスの個人レッスン。手でのタッチを中心に、主に非言語で生徒とコミュニケーションを図る
※フェルデンクライストレーナーはフェルデンクライスの指導者を育てる立場にある先生。創始者のモシェ・フェルデンクライスに学んでいた者を中心に、現在は新しい世代のトレーナーも生まれている

ーーー荒川:フェルデンクライスの本を読んで養成トレーニングに入られたという事ですけれども、日本で地唄舞を、名取を取られるまで学ばれるなど、日本に住んでいた経験が身体について深く興味を持つきっかけになったのでしょうか?

サビン:そうですね。子供の頃はどっちかといえば、頭でっかちで、勉強はともかく、身体にあまり自信がなかったです。水泳とか、長く継続すればできるようなスポーツは自信あったんですけど、、、。合気道は12歳頃からやっていました、でも一緒に稽古する相手がほとんど大人で、、、思いっきり手首を握りしめられたりすると、肩に力が入ったりして、悪い癖がいっぱいついてしまったんです。

合気道はまだとても興味あるんですけども、誰かと組むと、どうしても自分に気づきにくくなってしまって。でも例えば、地唄舞だと自分と音楽だけを通していろいろなことに気付く事ができたんです。スピードも遅いですから、ペースを落とすことも、私たちがフェルデンクライスメソッドでも使うような技法ですね。

私は日本の身体文化はすごく素晴らしいし優れていると思っています。反面、教育はスイスで受けたので、物事を理論で理解したいという思いが強いのです。ですから、日本でお師匠さんにいろいろと質問をすると、喩えだとか、なんとなくとか言うような返事が来て、それはそれでとても魅力的でしたが、実際にはどういうものなのかわからなくて、、、、フェルデンクライスメソッドは柔道の要素もいっぱい入っていたりして、日本の素晴らしい身体文化を応用していながら、それを西洋の理論で説明しているので、私にとっては二つの世界を合流させてくれたように思います。

ヴィパサナ瞑想もたくさんやりました。でもそれもやっぱり、座っているだけなのが身体に優しくないような感じがして。ATMだと同じように自分を観察しますし、例えば、ある動きができない時など、それに伴っていろんな感情が湧いてくるのを観察して、受け入れる。だからそういった意味ではこのメソッドは瞑想にも似ているように思うんですね。

ーーー荒川:なるほど。そういった身体を通して自分の内面を知るというか、身体と心が一つであるという考え方は、日本にもともとあって、サビンさんの以前の記事にも日本のその心身一如という考え方に惹かれたというように書かれていたのを拝見しましたが、日本の身体文化を通してだったり、フェルデンクライスを通して、体と心が一つであることを感じる経験というのはあると思いますが、普段の生活などで体と心が別れてしまっていると思うことはありますか?

サビン:そうですね。西洋では何百年かに渡って、体は罪であるとか、頭脳に劣っているという考えはあったと思いますし、ずっと靴を履いたまま生活をしていました。60年代頃から変わってきましたけれども、長年にわたって強かったし、身体を否定するような意識はどことなく潜在しているような気がします。

日本でもそうかもしれませんが、西洋文化圏では頭を使う仕事はいい給料で、体を使う仕事はいい給料でないんです。日本でもそんな風潮があるのは西洋の影響もあるのでしょうか。フェルデンクライスのように身体運動も含める脳の働きじゃなくて、数字化できるもの、体からかけ離れたような脳の使い方が、高く評価されすぎているように思います。

ーーー沖:よく海外の方が日本の身体文化、伝統文化や芸能の「型」みたいなことの面白さを語られる事が多いんですけど、僕は日本でしか生活した事がないので、どっちかと言えば、それはそういうもんだという認識で、海外だとそういったものはあまりないんですかね。それらは日本独特なものなのかどうか、日本以外の国、特にヨーロッパではそういうものがないのかどうかと思いました。

サビン:本来はあるんですよね。マスターについて木彫りを学ぶとか、、、まずある型を繰り返し、それからそれを身につけるというのは、たぶん本来はあるんでしょう、むしろ自由自在に表現しましょうというのがより高く評価されている感じがします。

ーーー沖:型とか、ある種の様式みたいなものがそのまま引き継がれていくことに価値をおいているものが日本には多いっていう感じなんでしょうか。

サビン:そうですね。海外において日本はそこが有名ですよね。真似るのがうまい。本当は型を身に付けた後に、型を捨てましょうっていうところまで行くんですよね。型でとどまらないですよね。そこまで知らない人もいるように思います。

ーーー沖:守破離※5みたいなものですね。

サビン:そう、そうです。

ーーー沖:面白いですね。いろんな視点を含めてお話してくださりありがとうございました、ワークショップもとても楽しみです!

※5茶道や武道などにおける三つの修行の段階。型(かた)を徹底して守る段階、後に形(かたち)を離れて自在になる段階があると言われている


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JFC主催|12/5 フェルデンクライス オンラインワークショップ
〜 Think Outside the Box. vol.1 〜 by サビン・シタドレー・奥野
詳細、お申し込みはこちらから。

サビン・シタドレー・奥野
(SFV認定フェルデンクライスプラクティショナー・ アシスタントトレーナー)
経歴
1994年 高校の交換留学生として初来日
2002年 ジュネーヴ大学修士課程卒業
2003年 再来日  
2006年 フェルデンクライス®養成コース入学。
      東京大学人文社会系研究課博士課程修了
      早稲田大学演劇博物館グローバルCOE研究員
2010年 フェルデンクライス®・プラクティショナーとして国際認定資格取得
以後フェルデンクライスやシェルハブメソッドの養成コースで通訳やインターンを行う
2013年 スイスへ帰国
2018年 フェルデンクライス®・アシスタント・トレーナーの国際認定資格取得

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