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上場審査における「未払い残業代」の対応について

昨今、労働環境に係る話が非常に多いわけですが、
以前、上場準備会社に法令違反があった場合、主幹事はどうするのかという質問がありました。

法令違反の内容にもよりますが、基本的には、上場準備を継続しながら、法令違反状態を解消出来るように指示していくということになります。

一番多いのが、残業代の未払いです。


私も先ず最初に確認するのが、未払い残業代の有無です。

普通に考えれば、ほぼ全てのベンチャー企業は、未払い残業代があると考えるのが自然です。

上場審査では、この問題をかなり大きな問題と受け止めており、これが解決するまでは上場出来ません。但し、未払い給料を全額支払ってしまうと、数億円単位で損失が出る場合も多く、そもそも上場出来なくなってしまう場合が多いです。

以下、対応策を記載していきます。

1. 違法状態を解消する

先ずは給与体系、給与規程の見直しが必要です。あるべき残業代を支払うことが前提なので、その通り支払ってしまうと人件費が大きくなってしまいますから、実際には現状支払給与総額が合法である範囲となる様に、給与規程を作り替えなければなりません

よく行われるのは、残業代○○時間まで現状給与に含むような改定です。後は能力給で調整するなどでしょうか。給与規程の改定は従業員の同意が必要なので、社労士への相談も含め、慎重な制度設計が必要になります。こうして、過去のものはともかく、今後は違法状態をなくすことが重要です。

2. 労働債権の時効2年を待つ

これからの違法状態をなくしたら、次には過去の違法状態をどのように解決するかですが、未払い賃金を払えるならそれに越したことはないですが、話が大きくなるのと、そもそも残業時間を明確に記録していない会社も多く、時間、金額の特定に極めてコストがかかります。ですから労働債権の時効は2年なので、それを待って自然に労働債権を解消する方法しかないと考えています。

違法状態を解消してから、まる2年かかるわけですが、そもそも上場審査では監査対象期間が2年必要であることを考えると、いずれにしろ上場まで2年程度はかかってしまうので、大きな問題にはなりません。労働債権の2年の時効は、証券取引所の上場審査までに解消していれば良く、証券会社の引受審査期間中にまだ時効になっていなくても、解消見込みが出来ているので、特に問題はありません。

私自身、このやり方で何社か上場していただきました。

ですから、未払い賃金の有無の確認は真っ先に行う必要があります。これが遅れれば遅れるほど、上場が伸びてしまいます。

一番怖いのは、社内の人間ではなく、退職者が上場承認が出た時に、「あそこは残業不払いだった」と取引所にリークされることです。

再ヒアリングを受けても、すでに今は違法状態も解消しており、労働債権の時効も成立しているのであれば、問題ありません。

労働債権の時効が2年から5年に延びる可能性も

但し、かなり注意しておかなければならないのは、2020年4月からの民法改正で債権の時効が5年に統一されるため、5年になる可能性があります。5年となると、やり方を抜本的に変えなければならない可能性もあります。


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