ITパスポート試験はどういう人が受験してるの?

ITパスポート試験の応募者数や合格者数の推移について調べてみました。

ITパスポート試験とは

ITパスポート試験の概要は、試験を主催するIPA(情報処理推進機構)のiパスとはで説明されています。
特に、次の部分にこの試験の特徴がよく表れています。

ITを利活用するすべての社会人・これから社会人となる学生が備えておくべきITに関する基礎的な知識が証明できる国家試験です。

iパスとは

では、実際にこの試験を受験する人はどれくらいいるのでしょうか?また、どういう人が試験を受けているのでしょうか?IPAの【ITパスポート試験】統計情報で公開されている統計情報を使って、こうした疑問をExcelで分析してみました。

応募者数と合格者数の推移

次の表は、2011年4月から2023年6月までのITパスポート試験の応募者数・合格者数・合格率の推移をあらわしています。

ITパスポート試験の応募者数・合格者数・合格率の推移表

次は、この表をもとにしたグラフ。

ITパスポート試験の応募者数・合格者数・合格率の推移グラフ

これらの表とグラフから、ITパスポート試験の応募者は年々増えており、特に2021年頃に急増しているのがわかります。2012年には月あたりの応募者は6,000人未満だったのが2022年には21,000人を超えていて、応募者数は10年で3.5倍以上になったことになります。

一方、合格者数も応募者数と同じような推移を示しています。その結果として合格率は、2011〜2012年に30%台で2020年に50%台になったことを除けば、だいたい40%台で安定しています。

なお、2023年に応募者数や合格者数が減っているのは季節要因だと考えられます。ITパスポート試験は例年、1〜3月に応募者数が増えています。2012年から2023年の4〜6月だけを比べたのが次のグラフです。2023年は前年よりも応募者数が増え、史上最高となっています。なお、2020年の応募者数が減っているのは、新型コロナによる試験中止などが原因です。

ITパスポート試験の応募者数・合格者数・合格率の推移グラフ(4〜6月)

では、どのような応募者が増えているのでしょうか?統計情報の中に含まれている「勤務先別」や「業務別」のデータを分析していきます。これらのデータは、ITパスポート試験受験時のアンケートをもとに作成されています。

勤務先別のグラフ

公開されている勤務先別の統計情報では、勤務先の数が多くてやや分かりにくいので、次のように勤務先を分類し直しました。

勤務先の分類表

この分類による勤務先別の応募者数の推移をあらわすグラフが次です。

勤務先別応募者数の推移

このグラフを見ると、「金融・保険業、不動産業」の応募者が2020年頃から急増しているのが分かります。

より詳しく調べるため、2012年と2022年の勤務先別の応募者数を表したグラフを作成しました。

2012年の勤務先別の、応募者数と合格者数(左軸)と合格率(右軸)

2012年の勤務先別の応募者は、「情報処理」と「サービス業など」「学生 - 大学、大学院」「学生 - 短大、高専、専門学校など」「学生 - 高校、小・中学校」が中心だったことがわかります。この時点では、「金融・保険業、不動産業」の応募者数は限られていました。また、合格率を勤務先別に見ると、「学生 - 短大、高専、専門学校など」と「学生 - 高校、小・中学校」が30%前後と低くなっているほかは50%前後となっています。「情報処理」の合格率が高くないことは意外です。

2022年の勤務先別の、応募者数と合格者数(左軸)と合格率(右軸)

2022年は、「金融・保険業、不動産業」が勤務先別で最多の応募者となっています。「情報処理」「サービス業など」「学生 - 大学、大学院」も応募者数は増えているものの、応募者全体に占める割合は低くなっています。合格率を見ると、2012年同様に「学生 - 短大、高専、専門学校など」と「学生 - 高校、小・中学校」以外はいずれも50%前後となっています。応募者が急増している「金融・保険業、不動産業」も、合格率は大きくは下がっていません。
一方で、「学生 - 短大、高専、専門学校など」と「学生 - 高校、小・中学校」は、応募者数、合格率ともに2012年と2022年でほぼ変わっていません。

業務先別のグラフ

業務は、次のようにITの業務をまとめる形で分類し直しました。

業務の分類表

この分類による業務別の応募者数の推移をあらわすグラフが次です。

業務別応募者数の推移

このグラフを見ると、「営業・販売(非IT関連)」の応募者が2020年頃から急増しているのが分かります。

次は、2012年の業務別の応募者数、合格者数、合格率をあらわすグラフです。この時点では、「その他・無記入」を除くと「IT」および「営業・販売(IT関連)」の応募者が中心でした。


2012年の業務別の、応募者数と合格者数(左軸)と合格率(右軸)

一方、次は2022年の業務別の応募者数、合格者数、合格率をあらわすグラフです。この頃になると「その他・無記入」を除くと、応募者で最も多いのは「営業・販売(非IT関連)」となっています。「営業・販売(非IT関連)」の合格率は50%弱となっていて、他の業種とほぼ同じです。

2022年の業務別の、応募者数と合格者数(左軸)と合格率(右軸)

分析

勤務先別や業務先別のデータから、2020年頃からITとは直接関係のない勤務先「金融・保険業、不動産業」や業務「営業・販売(非IT関連)」の応募者が急増していることがわかります。それまでは、学生とITに関する勤務先や業務の社会人や応募者が中心でした。また、こうしたITとは直接関係のない勤務先や業種の応募者の合格率は、それまでの応募者と同じくらいです。

つまり2020年頃からITパスポート試験は、ITと直接関係のない仕事をする人が受ける試験になっているのです。このことは、「ITを利活用するすべての社会人・これから社会人となる学生」を対象としているとするITパスポート試験の趣旨にも合っていると言えそうです。

2020年頃から非IT関連の企業で、全社でITパスポート合格を目指すという会社の記事を見かけるようになりました。たとえば、大同生命千葉銀行ニトリなどです。こうした記事も、ITパスポート試験がITと直接関係のない仕事をする人が受ける試験になっている反映だと考えています。ニトリの取り組みについては、noteの記事「ニトリのITパスポート取得推進は会社全体のITリテラシーの底上げにつながる良策」でも取り上げられています。

また合格率を見ると、ITと直接関係のない仕事をする人もIT関係の仕事をしている人とあまり変わりがありません。ITパスポート試験の範囲にIT技術だけではなく経営や法律などが含まれていることが原因ではないかと私は考えています。大学などで学ぶ経営学や法学や、社会人としての経験がITパスポート試験には生かせるのではないかと。

逆に、IT関係の仕事をしている人や、短大、高専、専門学校などの学生は、経営や法律などをきちんと学ぶことが求められているとも言えそうです。ITパスポート試験はそうした分野を学ぶよいきっかけになるかもしれません。

まとめ

ITパスポート試験は、ITと直接関係のない仕事をする人も含めたすべての社会人と学生を対象とした試験になっており、応募者の数も増えています。この文章を読んでくれた貴方ももしまだ合格していないのなら、受験を考えてみてはいかがでしょうか。

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