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ゲーマーをブーストへ駆り立てる欲望の正体

先日、あるVtuberあるプロチームによるブースト行為が問題視され、当人たちが謝罪するということがあった。

ここにおけるブースト行為とは、ランクマッチシステムの存在するゲームで、当人よりランクの高いプレイヤーを意図的に同行させ、ランクをプレイすることで、当人の実力以上にランキングを嵩ます行為のことを指す。

したがってTwitter上のゲームコミュニティは大荒れし、各界のインフルエンサーが言及するなど諸々あったのだが、今回は特に炎上した関係者が著名すぎるあまり、そもそもブーストやスマーフ行為など諸々の不正が全て一緒くたにされていたり、そのうえで何が問題なのかほとんど不明なまま、半ば私刑的な「炎上」が発生している。

一体ブーストやスマーフ、あるいは代行の何が問題なのか。これがいかにビデオゲームのコミュニティの寿命を縮めるかということが、(特にシューター関連の)esports文化における不正が言語化されてこなかった現状を鑑み、今回は改めてこの問題を整理したい。


ドーピング、イカサマ、替え玉受験……人はなぜインチキするのか?

古来より競技の世界において不正は絶えなかった。スポーツであればドーピングはいつも問題視されるし、ボードゲームではイカサマとのいたちごっこがある。もっと広げれば、受験であればカンニングが、選挙であれば暗殺すらある。

このような不正は、「競技」がそれ自体で完結せず、何らかの目的や利益が存在する場合に起きる。

例えば、ただ大人同士の草野球でドーピングする者はまずいない。しかし、オリンピックなどの場ではメダルが国威に直結するため、国家ぐるみでのドーピングが発生しうる。あるいは、大学受験も本来であれば純粋に現状の学力を推し量るだけのものが、その結果に入学する大学の価値が高すぎるあまり、親が受験で便宜を図るように大学に献金したり、裏口入学を画策したりする。

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アイビーリーグを巡る裏口入学問題を取り扱ったNetflixのドキュメンタリー『バーシティ・ブルース作戦: 裏口入学スキャンダル』は必見。


ゲームにおける不正行為も実は全く同じ事情がある。ゲームはほんらいそれ自体で完結するだけの「遊び」だ。しかし、賞金付きの大会が運営されるようになると、その賞金という目的が発生し、不正行為をしても賞金が欲しいと考えるようになる。

とはいえ読者の多くは、賞金などプロシーンと呼ばれるようなごく一部の、ハイレベルなプレイヤー同士での競技のみの話だと考えるだろう。しかし現状、多くのゲームにはランクシステムなるものが搭載されている。ランクをベースにゲーム内に構築された階級社会、それが不正の根拠となっているのだ。

ではそもそも、ランクシステムはどのように生まれたのだろうか。ランクシステムの起源には諸説あるが、今導入されているほとんどのランクシステムは、チェスにおけるElo Ratingをベースに設計されている。

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Elo Ratingとはハンガリー人チェスプレイヤーのアルパド・イロ(Arpad Elo)が考案したレーティングシステムで、統計学を応用した最も効率的な式と考えられており、1960年から世界各地のチェス公式大会に採用されている。ビデオゲームでは、Blizzard社のBattle.netに搭載されたMMR(Match Making Rating)がいち早くこのElo Ratingを採用したのを記憶している。

ランクシステムが存在する以前、多くのゲームは筐体の前に座るか、得体のしれないサーバーに潜り込むしかなかった。無論、ここには実力を考慮するどころか、実力そのものが視覚化されていないので、初心者は同じ初心者と戦うことがかなわず、一方的な試合ばかり発生する。MMRはこのミスマッチを回避し、健全な競技シーンを構築する上で重要な発明だったといえるだろう。


Elo Ratingによって生まれた「階級社会」

しかし、徐々にこのMMRは単にプレイヤー同士をマッチングさせる仕組みから、ビデオゲームに熱中させるハックとしてゲーム企業に利用されるようになっていく。

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