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深い深い愛のうた

さっきふと思い出して、心に爽やかな風を吹かせてくれた詩を引用します。

谷川俊太郎さんです。


「あなたはそこに」

あなたはそこにいた 退屈そうに
右手に煙草 左手に白ワインのグラス
部屋には三百人もの人がいたというのに
地球には五十億もの人がいるというのに
そこにあなたがいた ただひとり
その日その瞬間 私の目の前に

あなたの名前を知り あなたの仕事を知り
やがてふろふき大根が好きなことを知り
二次方程式が解けないことを知り
私はあなたに恋し あなたはそれを笑い飛ばし
いっしょにカラオケを歌いにいき
そうして私たちは友達になった

あなたは私に愚痴をこぼしてくれた
私の自慢話を聞いてくれた 日々は過ぎ
あなたは私の娘の誕生日にオルゴールを送ってくれ
私はあなたの夫のキープしたウィスキーを飲み
私の妻はいつもあなたにやきもちをやき
私たちは友達だった

ほんとうに出会った者に別れはこない
あなたはまだそこにいる
目をみはり私をみつめ 繰り返し私に語りかける
あなたとの思い出が私を生かす
早すぎたあなたの死すら私を生かす
初めてあなたを見た日からこんなに時が過ぎた今も 



この詩にある、
「ほんとうに出会った者に別れはこない」
というパワーワードが好きです。

寝ていた感性を呼び起こすような
胸がふるえるような
人生のどこかで自分も感じたような

深い深い愛のうた。



#あなたはそこに
#谷川俊太郎
#引用
#初めてあなたを見た日から

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