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3-5.銅鐸使用方法(仮説)の問題点について

 当時の再葬方法は土に埋めたり、洞穴に置いておいてふたを閉め、遺体が腐り骨のみになってから取り出して埋葬するという方法がとられていた。それが木に遺体を吊るして骨化するのを待つ方法となると、いささか問題が発生する。
 
 W氏が語ったところによると、古代出雲では高貴な人が他界すると、藤と竹で編んだ篭に死体を収め、高い常緑樹(主として杉、桧)に吊るしたという。ところが実際にそんなことをすれば、大変なことになるのは目に見えている。我々人間ならば、その場所に近寄らないで下さいとお願いすれば済むことである。しかしながら、当然というべきか、この世は我々だけの住処ではない。山中に遺体を篭に入れて木に吊るしておけばどうなるか、想像してみてほしい。

 これをまた大勢の神が見て欺いて山に連れて行って、大きな樹を切り伏せて楔子を打っておいて、その中に大国主命をはいらせて、楔子を打って放って打ち殺してしまいました。そこでまた母の神が泣きながら捜したので、見つけ出してその木をさいて取り出して生かして、その子に仰せられるには、「お前がここにいるとしまいには大勢の神に殺されるだろう」と仰せられて、紀伊の国のオオヤビコノカミのもとへ逃がしてやりました。そこで大勢の神が求めて追って来て、矢をつがえて乞う時に、木の俣からぬけて、逃げていきました。そこで母の神が、「須佐の男の命がおいでになる根の堅洲国に参上しなさい。きっとよい謀(はかりごと)をして下さるでしょう」と仰せられました。そこでお言葉のままに、須佐の男の命の御所に参りましたから、その御女のスセリヒメが出て見て目と目を合わせて、それから結婚なさってかえって父君に申しますのは、「これはたいへんりっぱな神様がおいでになりました」と申されました。そこで大神が出て見て、「これは葦原色許男の命だ」とおっしゃって、呼び入れて蛇のいる室に寝させました。そこでスセリヒメが蛇の領布をその夫に与えて言われたことは、「その蛇が食おうとしたなら、この領布を三度振って打ちはらいなさい」と言いました。それで大国主命は、教えられたとおりにしましたから、蛇が自然に静まったので安らかに寝てお出になりました。(古事記 ―根の堅洲国―)

 山中には、木を登るヘビがいる。アオダイショウである。

 アオダイショウはヘビの仲間の中でも木登りの得意な爬虫類である。日本全土に生息し、成長すると1~2メートルの長さになる。特徴は、腹盤に強い側稜(キール)があり、これを木に引っ掛ければ垂直に上ることができる。これは木に巣を作る鳥たちの卵を狙うためである。食性は肉食であり、鳥類、その卵、そして哺乳類を食べる。当然ながら、山中に遺体が吊るしてあれば、どうぞ食べてくださいというようなものである。そのため実際に遺体を木に吊るすのであれば、アオダイショウ除けも頭に入れておかないといけない。ひょっとするとスセリヒメが大国主命に渡してくれた領布とはアオダイショウ除けのようなものだったのではないだろうか。

 アオダイショウを退けたとしても、ほかにも遺体を狙っている生き物がいる。蜂の中でも最強の蜂であるスズメバチである。

 スズメバチは肉食であり、もし遺体の近くに巣を作った日には大変なことになる。さらにはムカデにも気を付けないといけない。

 ムカデは当然、木に登れる。遺体が吊るしてあるとなると食べ放題となる。偶然ながら(?)、スセリヒメも蜂やムカデを防御する方法を考えていたようで、それぞれ領布を与えて大国主命を守っている。何か関係があるのであろうか? 

 次の日の夜はムカデと蜂との室にお入れになりましたのを、またムカデと蜂の領布を与えて前のようにお教えになりましたから安らかに寝てお出になりました。(古事記 ―根の堅洲国―)

 さて、ヘビ、蜂、ムカデを退けたところで、まだ完全ではない。こんな木に吊るすような葬儀方法に完全などあるのだろうか。次なる敵は猛禽類のたぐいである。

 猛禽類とは、鋭い爪と嘴を持ち、他の動物を捕食(または腐肉食)する習性のある鳥類の総称である。出雲で見かける猛禽類といえば、タカ、トビ、ハヤブサ、モズなどがそれにあたる。そして雑食の王様、カラスもここに入れてもよいであろう。

 何が言いたいか、賢明な読者はすでにお気づきだと思うが、そのとおりである。弥生時代の謎の青銅器である銅鐸は猛禽類除けの道具として制作されたのではなかろうかということである。

そこでその大神の髪をとってその室の屋根のたる木ごとに結いつけて、大きな岩をその室の戸口にふさいで、お妃のスセリヒメを背負って、その大神の宝物の太刀弓矢、また美しい琴を持って逃げておいでになる時に、その琴が樹にさわって音を立てました。(古事記 ―根の堅洲国―)

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