『シン・仮面ライダー』の感想

 新作予告を映画館で見たときからずっと楽しみで、見たいと思っていた。
 先週の木曜日になんとなくユナイテッド・シネマ幕張のスケジュールを調べていたら、金曜の初日の初回上映のチケットがあっさりと取れた。
 じゃ、それで観ればいいか~と予約したあと、これが初回の舞台挨拶がリモート同時中継される回だと知った。で、見てきた。

 けどまあ、まずは映画の感想の前に――。
 私はゴジラよりガメラが好きだ。ウルトラマンは好きだが、仮面ライダーと比べられたらライダーをとるほうの人間でもある。
 ガンダムはちゃんと見たことがなくて興味が薄いが、ボトムズは大好き。
 あと、エヴァンゲリオンに関しては、前に書いた感想に書いたので省略(ここで書いてる)。
 なんでこんな前置きをしてるかというと、この映画が「どんな人が見たかによって、かなり色々と感想が異なるだろう」と思ったから。もちろん、そんなことは全ての創作物で言えることなんだけれど、庵野秀明作品は、この辺を明確にしておいたほうがいいかなと思ってしまうのだ。
 大雑把な私でさえこうしてだらだらと要らぬ分析を書き連ねてしまうくらい、なんだか「理屈をこねたくなる作風」なんだよね。
 だから、もう少し――。
 私は仮面ライダーが好きだ。
 これは最近認識したことなのだけど、ウルトラマンと仮面ライダーの狭間に生まれた世代であることも多少関係していると思う(もちろん、同世代でもウルトラマンのほうが好きだったって人は大勢いるから、あくまで私の場合はってことですが)。
 ただ仮面ライダー好きってのは一枚岩では決してない。そんなの、ガンダム好きでもウルトラ好きでも長く続いたやつはみんな一緒だろうけど。
 私が好きなのはTVシリーズの仮面ライダーだ。中でも昭和のTVのライダーが大好きで、ストロンガーまではリアルに子供時代に触れたライダーだったから特別な思い入れがあるが、ゼクロスまでのライダーにも愛着がある。
 平成の仮面ライダーでは、好きなものはいくつかに絞られてくる。それどころか嫌いなライダーもあったりする。
 もちろん昭和のライダーの中にも「好き」の濃淡はある。
 第一作の「仮面ライダー」内でさえ、それはあるわけだが、時間が経つに従って「あいつもライダーだからな」ってなっていった。それはたぶん、ゼクロスまでは、作り手の側がそれなりに整合性を意識していたからだと思う。生意気な後輩もだんだんと仲間に変わっていくというか。
 でも、平成のライダーでは、なかなかこういう気持ちになることはない。歴代の、と言われても希薄な気がする。映画でまとめられても「そうですか」って感じだ。
 平成では、仮面ライダーWだけが突出して格別に好きなのは(まあ響鬼も好きだが)、1号・2号ライダーの私の一番好きな要素や、作品としての色々な方向性が合致しているからだと思う。私の思う仮面ライダーの魂が感じられる作品なので。
 そうした諸々のことから、今一番好きな仮面ライダー作品というと漫画の『仮面ライダーSPIRITS』になる。これが最高だ。私の「好き」な仮面ライダーにぴったり合致している作品。

 とまあ、前置きが長くなってしまったが、そんなタイプの「仮面ライダー好き」がこの映画を見た感想なわけです。
 ここから先は、ネタバレが多少なりとも含まれるので、まだ映画を見てない人は、なるべく読まないほうがいいと思います。

















 面白かった!
 「見たいもの」がいくつも見られたし、仮面ライダーへの愛を感じた!
 ただし「ある作品に対して『好きだ』とか『〇〇の真髄や魂はここにある』というやつは、人によって違うんだなあ」というのが、一番の感想かもしれない。それを再認識させられた。
 映像、ストーリー、キャラクターなど全てにおいて、かなりの部分で「うんうん、やりたいことはわかるし、仮面ライダー好き的にも間違ってないんだけど、俺の好きなやつじゃないんだよな~。でも文句言うのとも違うんだよな……」みたいな感覚だ。
 これはもう、シン・ゴジラでもシン・ウルトラマンでもそうだったんだけど、今回が一番それを多く感じのたは、やはりこちらの仮面ライダーへの熱量がよりその感覚を強くさせるんだろうな。もしシン・ゴジラが、シン・ガメラだったら、私はもっと複雑な思いだったろう。
 シン・ウルトラマンを楽しめたのが、100%それが理由とは思えないけれど(つまり、あちらのほうがバランスが取れていた)、いくらかはそれもあると思う。

 なにより最高だと思ったのは、「テレビの仮面ライダーを見るときに脳内で補正していた映像が現実に見られた」こと。冒頭のクモオーグや戦闘員との戦いで、まず「そうそう! そういうことなんだよな!」って感じた。
 平成のライダーで、映像技術の向上によってリアルなバトルシーンを表現できるようになり、それを見るのが当たり前の人たちが、「昔のライダーは陳腐な戦いをしててさ~」的に語るのが、どうにも納得いかないものでね。
 私が子供のころ見ていた仮面ライダーと戦闘員の殺陣は、時代劇のチャンバラのセオリーだ。チャンバラで刀で切られたのに血が噴き出たり手や足が切れ飛んだりしないのは、これが「お芝居だから」だ。ライダーの戦いも、本当はもっとすごいんだけど「お芝居で戦闘員は倒れてるし、人間の格闘技のセオリーに反したハンマーみたいに振るったパンチがボカボカと当たるのだって、本当は反応できない速度でなぐっているのをわかりやすくスローにしているのだ」と、わかって我々は見ているのだ(え、違う?)。
 まあ子供のころにそこまでは考えていなかったけれど、確実にそういう映像を脳内で再構成して楽しんでいたのだ。
 なにかというとジャンプして場所を移動するのも、本当の本当は昨今のスパイダーマンのような戦法をとっているのだ……とかね。今回の二号とのジャンプ合戦も、そういういことなのだよなあと。
 他のオーグ相手なら通用した「ジャンプで意表を突く場所に移動して優位をとる」戦い方が、同じ戦法を取ろうとするライダー同士の戦いではああなってしまうのだな――と思うと、「おおおっ!」となった。
 また、これは伊集院光が深夜ラジオでの感想で言っていたのだが、それでいて当時の殺陣や映像の「緩さ」もあえて残しているのも良い。こういうところは監督と見ている自分との「好き」のベクトルが合っている部分なので、実に嬉しくて楽しくて感動する。
 ライダーの造形にしても、私は細部にはこだわらない。よっぽど変なものとか、無駄なものを増やしていると感じないかぎりは。むしろ、ライダー愛がはっきり感じ取れることに心地よさを覚えた。

 以下、まとめきれないので個別に。

・プラーナは正直よくわからない。よくわからないが、「風の力なんかで? 無理じゃん?」とかケチを付けられ続けてきた仮面ライダー好きの意地というか恨みというか、とにかくそうした何かを感じる。
 単純なライダー好きとしてはべつに「風だよ」とか「大自然が」とか言い張ったって全然気にしないのにな、とさえ思う。でも気持ちはわかるんだ。あまり好きではないが納得するしかない。
・映像は旧TVシリーズを想起させる部分が多いが、根っ子には原作漫画がある。石ノ森章太郎テイストがある。だからルリ子さんのあの感じ、すっごく石ノ森章太郎漫画のヒロインだ。本郷も、なよっとしてる。いや、藤岡・本郷も悩むし眉間にシワ寄ってる感じだけど、腹は座ってるんだよね。シン本郷はむしろ009のジョーに近い気がする。でも、解釈はわかるんだ。べつに間違ってるわけじゃないし、イラッともこない。
 たださあ、私はTVシリーズのルリ子さんと本郷が好きなんだよ。だから、「わかるよ、わかるよ!」って思いながらも、心の底から嬉しくはないんだよなあ。複雑。

・それに対して、一文字は良い。たまらない。たぶん、原作とTVシリーズとで近いものがあるからなんだろうな。 迷いなく好きになれる。

・ダブルライダーのシーンは感動した。TVの「仮面ライダー」は、ライダーの苦戦するシーンが苦手だったと思う。いつも海に落ちたりして生死不明で表現するしかなかった、それがゼロとの戦いでは「ああ、こんなふうに苦戦するんだな」と感じさせられた。

・「事件が勃発→ショッカーの仕業→戦う→アジトに乗り込む→バトルでとどめ」だと、二時間には詰め込めきれないし、情報収集は他人任せだったり、ルリ子が何もかもわかってる「こちらから叩きにいく」の組み立てになるのだろうな。これもまた、「ちがうんだよ!」とはならない。

・全体のノリがとにかく庵野監督のキューティーハニーだなと思った。あれに一番近い印象だ。そして、あのキューティーハニーは面白かった。

・サソリオーグとかのシーンのせいだと思うが、劇場版ザボーガーのテイストを感じそうになって、見方がそうシフトしてしまうのだけは「ちがう、ちがうぞ。そう思うとこの作品全部がそのノリに見えてきてしまうからヤバいぞ」と必死で自分に言い聞かせた。そればっかりはやばい。
 でも、怪人のとこに乗り込んでいって、あっさりとアジトまでたどりついてご対面~というのが連続する感じも含め、一旦「そっち」だと思い始めると、かなり危険……。

・仮面の扱いが秀逸。髪の毛が出ちゃってるのも「被り物なんだから」とするところとか、とにかく昭和のTVシリーズのすでにあるものを「あれでいいんです」にしていくところが好き。本当に好き。

・政府の二人は、出てきたときから「おやっさんと滝ってことなんだろうな~」と思ってはいたけど、いろいろ遊ぶんならもう少し遊んで欲しかった。
 あと、シン・ウルトラマンより過去の話みたいにも見ることができるのが楽しい。

・ラストで再改造された新しい仮面ライダーが登場。原作とTVシリーズの美しい融合って感じなんだけどさ。うるうるしちゃったけどさ。そして、ちっとも文句は言えなくて納得するしかないんだけど……。
 だけど、私の至高とする一号二号は、仮面ライダーV3第一話、第二話のダブルライダーだったりするもんだからさ……。
 やっぱり悲しいわけですよ。
 まあ、原作だってあれで終わりではないわけだし、映画の続編が作られたら完全に人工的に作られたボディで一号が復活する原作準拠なら展開もあるかもだし。再生怪人だから弱かったりするかもだけど。

 というわけで、なるほどこれが庵野監督のライダー愛のベクトルなのか、を感じる映画でもあり、素直に仮面ライダーの良さを感じることのできる映画でもあった。
 仮面ライダーに触れたことのない人や、平成ライダーから楽しんでいる人たちがどう感じるか、までは想像できない。一般向けじゃない~みたいなことはまったくないと思う。
 楽しみ方が違うだけだし、「これの意味がわかんないと楽しめないの?」なんて空気を作るのは野暮だと思う。そういうのは、わかる人がわかればそれでいいし。

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