颯爽堂のこと

 二つ前のテキストで「西荻窪でモヤさま巡りをしたときの記録を書いたとき、「昼食後に向かいの本屋さんが閉まっているのが気になった→調べたら休業らしい」とサラッと書いただけだったが、この「颯爽堂」という本屋さんは、素敵な店だった。
 べつに最寄り駅でもないし、たまに荻窪を通り過ぎて降りるぐらいで二~三回しか行ったことはないのだけれど、とても印象に残る本屋さんだったのだ。
 少なくとも、わざわざ遠出してまで行ってもいいと思う街の本屋さん――ってのが、他にあんまりない私にとっては。

 初めて出会ったときの日記(2013年12月3日)から引用すると……。

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久しぶりに天下寿司で寿司でも食べるか……と思いつき、阿佐ヶ谷を通りすぎて西荻で降りる。
 それでもまだ飯には時間がありすぎる……というわけで、すっかり暗くなっていたけれど駅周辺を散策することにする。
 西荻は、このあいだ南側をプチモヤさま巡りしたので、あてもなく駅前の銀座通りを北へ進んでみる。本当に土地勘がないので(せいぜい北へいけば西武線があり、南へ行けば井の頭線があるだろう……ぐらい)、何があるかわからずぶらりと歩いたわけだ。
 ただ、ずんずん進んでも暗くなるばかりで、普通の店が閉まるか、飲み屋が開くか……だけだったので、適当なところで道路を渡って、反対側を南へ戻ることに。
 で、そのときに、途中で「なんかいい感じの本屋だなあ」と思っていたところに寄ってみた。
 予感は的中した。
 なんか、やけに雰囲気のいい本屋さんなのである。決して大きくはない。
 普通の街の本屋さん、なのだが……。
 なんとなくSFやミステリーの棚を見てみると、これがまたいい感じ。決して広いわけではない。1メートルもない幅の5~6段くらいだったと思う。それなのに妙に品揃えが良いのだ。話題の本や新刊だけでなくて、押さえといてほしい本がさりげなく揃っている。たとえば、ネビル・シュートの「パイド・パイパー」とか、アシモフの「我はロボット」とか。たぶん私が知らない本にしても、見る人が見れば「そうそうこれこれ!」って思うにちがいない。
 もちろん絶版の本はないんだけど、今手に入るもので精一杯選んでいるのだ。せまいから、売れ線でもない長いシリーズとかは置けないわけで、古典だったり巨匠だったりする人の作品の代表作、それも「その作家を読んだこと無い人に勧めるのに適した作品」を入口として一冊選んでおいてある――と感じた。
 本屋さんの商品棚というよりも、人んちの本棚を見ているのに近い感覚だ。これらの商品を吟味して選んだであろう人に好感を覚えたというか、「お主やるな」という感じ。これで、ファルコのシリーズが一冊でも置いてあったら、さらに素晴らしかったのだが。
 あまりに嬉しくて、本を買っていくことにした。特に探していたわけでもなく、ここで出会った本を二冊も買ってしまった。本屋を気に入って応援したくて本買ったのなんて初めてかもね。
 カバーだけでなく、お店の栞まではさんであったのもいいね。
 颯爽堂というお店なのだが、調べてみたら4年前に新たに開店した本屋さんと知ってさらに驚いた。街の本屋さんが消えていく中、オープンしたわけか。すごいなあ。しかも平日は25時までやってるよ。

 近くにあれば重宝したろうなあ……。

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 ね、かなり一目惚れな日記を書いてるでしょ。

 なにより残念に思うのは、どうやら「経営が思わしくなくての廃業」ではないということ。
 それだったら、なんだかんだとありがちな理由をみんながして、感情論だけで終わりって感じになっちゃうけどさ。
 でも、そうではなくて、この新しい本屋さんは街の人に好かれてきっとうまくいっていたのだろう。
 最寄り駅でもない(通り過ぎた先にの駅だ)私も寄ってたぐらいだし。

 復活してくれるといいなあ……。

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