RPGに役立つ・背負い袋にこの一冊!第一回

※第一回は全文、無料で読むことができます。

第一回:「北壁の死闘」

 ~君は「真実の恋と手に汗握る冒険」ができる……のか?~

(本のデーター)
「北壁の死闘」(原題:TRAVERSE OF THE GODS)
ボブ・ラングレー 著 / 梅津正彦 訳
東京創元社 発行 文庫版820円+税


まずは、ごあいさつをば……

 みなさん初めまして!
 無電源ゲーム大好きの、謎のメカ侍・伊豆平成です。
 このコーナーでは「RPGのプレイに役立つ小説」を紹介していきます。
 そう、小説です! お話です! 物語なんです! 関連知識を得るなら、資料やガイドブックを当たるほうが早いでしょうが、RPGの魂とも言える「面白いシナリオの展開」とか「とっさに思いつく素晴らしい行動」なんて、「良くできた物語」をじっくり味わって読んでいるうちに自然と身についてくるものなんです。いや、本当に。
 なぜなら良くできた物語にはただ一つの正解――作者が一生懸命に考えて選んだ、読者が最も楽しめる物語――が書かれているから。
 RPGのプレイにおいて物語的な正解を求める必要はないと私は思っていますが(間違っている道をあえて選ぶ……などという楽しみかたまでできちゃうのがRPGの懐の深いところですから)、それでも、物語として一番面白い展開がわかっていれば、シナリオの大事なポイントや、困難に出会ったときキャラクターがどう動けばいいかが見えてきます。
 というわけで……。
 今回は、みなさんの旅のお供にこの一冊。
 登攀の大事さを教えてくれる、『北壁の死闘』です。


だからって、なんで<登攀>なの?

 たいていのRPGには、よじ登ったり、ロープ伝いに降りるための技能ってのがありますよね。
 猛吹雪の中を、じりじりとピッチを稼いで断崖絶壁を登っていく――そんな本格的な山岳RPGなんてまずないでしょうが、それでも私は自分のほとんどのPCに、ついついこの技能を与えてしまいます。
 なにしろ、登攀に失敗したときの致命的なことといったら、戦闘といい勝負です。落ちて死ぬのはもちろんですが、ひどいときには「ここを登れないと話がちっとも進まない」なんてシナリオもありますからね!
 プレイヤーがPCに望むことは「敵に勝つこと」でも「美しい物語を再現すること」でもありません。もっとシンプルに、「なんとか生き延びて、シナリオという困難を乗り越えること」ではないでしょうか(実は「RPGとは死ぬことと見つけたり!」というまるで正反対の道もあるのですが、それはまた別の一冊を紹介するときにお話します)。
 ですから、むしろ怖いのは「自分自身の弱さ」であったり、「避けようのない自然の障害(意地悪なマスターは、安易に強いモンスターを出すより、こっちのほうがずっと効果的かつ説得力があることを知っている)」だったりするわけです。
 〈登攀〉や〈水泳〉といった技能は、まさにPCが「生き延びる」ためのものだし、登山は「自然や自分との戦い」そのものです。
 で、RPGにおける登攀から連想されるのが今回のこの一冊――『北壁の死闘』というわけ(ちょっと強引?)なのです。


『北壁の死闘』は、こんなお話~

 時は第二次大戦末期――。
 舞台は戦場ではなく、「魔の北壁」として知られ大勢の登山家が命を落としている難所、スイスアルプスのアイガー北壁。撤退を続けるドイツ軍は、原子爆弾開発に絡む起死回生の作戦を画策する。
 極秘任務を遂行すべく、各地の部隊から召集されてきた一流のクライマーたち――。
 戦前から優秀な登山家として名を馳せた国防軍機甲師団軍曹、エーリッヒ・シュペングラーも例外ではなかった。
 だが、彼には二度と登山ができない辛い過去が――。
 それでも最悪の天候の中、ナチスの非情な命令には逆らえず、作戦は遂行される。やがて、登頂などとても不可能な吹雪のアイガーへと追いつめられていく一行――。
 彼らが死闘を繰り広げる相手は、追っ手のアメリカ軍でもなければ厄介な任務でもない。それは、立ちふさがる魔の北壁そのものと、そして自分自身だった――。
 病人を背負い、愛する人(それなのに彼女は連合側のスパイなのだ! 嗚呼!)をかばいつつ、ろくな装備もなしにシュペングラーは登り続ける。
 過去と決別し、生きるために――。


ええ、ええ、そうですとも!

 『北壁の死闘』は、そりゃもうバリバリの冒険小説なのであります。男のロマンってやつです。寒さと疲労と精神的苦痛とその他もろもろ、ありとあらゆる困難てんこ盛りです。戦闘シーンなんてほとんど無しの小説なのに「死闘」というタイトルに偽りはないのです。
 これが冒険小説だからこそ、RPGが大好きで『PCの職業は冒険者です』という人に是非とも読んでもらいたい作品なのです。
 冒険小説に冒険家はいても「冒険者という職業の人」は一人もいません。
 そこにはただ、困難を乗り越え、弱い自分と戦い続ける普通の人がいるだけです(なにがしかの特技を持ってはいますが)。
 『北壁の死闘』の主人公エーリッヒ軍曹も、望んで冒険に身を投じたわけではありません。戦争(しかもドイツは敗走を続けている)とナチスの命令という圧力から逃れられず、二度と登れないと思いこんでいた魔の北壁に挑まざるをえなかったのです。しかし、戦争の悲しみや愚かさは、物語を読み進むうち、だんだんと彼らが山で生き延びることへと集約されていき、「アイガーに挑み打ち勝つ」という彼の一念は、やがては任務や戦争といった下界の事柄を全て超越し、些末な問題にしてしまいます。そのときにこそ彼は英雄となるのです……。
 初めっから英雄がいてそいつが英雄的な行為をするのではなく、普通の人が困難を乗り越えるからこそ、その人は英雄と呼ぶに相応しい存在になっていく……冒険小説は、そんな、当たり前だけれど忘れがちなことを我々に教えてくれるのです。


てなわけで

 私は、この本を読むといつも、無性に創作意欲をかき立てられ、「なんとかして『敵と戦うことより自分自身との戦いに主眼をおいたRPGのシナリオ』が作れないものかなあ」なんて気持ちにさせられてしまいます。
 もちろん、プレイヤーまでもその気にさせるいい手を思いつかないと、なかなかそんなRPGは出来そうにないのですが……。

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