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【小説】おしりのぽんぽん第四話

第一話・あらすじはこちら:【小説】おしりのぽんぽん第一話|出雲黄昏 (note.com)

 四、天界編

 神は人のなりをしていました。けれども、総じて神はおしりのぽんぽんを持たなかったのです。必要ありませんでしたから。
 ここは天界であります。俺はゲツドクと呼ばれ、神々の中でも創造を司る上位の神のひと柱でございます。
 神、その人知を超えた圧倒的な情報量を持つ存在でございますから、俺の人格すら、これまで培ってきた記憶が小さなものになりましょう。もはやこれまでのこと、そのすべてが無に等しい人生でございます。神格になりまして、俺の本来の存在をすべて思い出すのでした。
 おしりのぽんぽんは、創造神によって作りし物でございます。動物に三次元を捉えるために目を与えたように、おしりのぽんぽんを与えたのです。
 人間は賢かったようで、見事におしりのぽんぽんの役割「信仰」を言語化いたしましたし、それによって俺たち神々を崇めました。
 けれども、おしりのぽんぽんは、神を信仰するために与えたものではございません。だれかを信ずる心の補助をするものでもありません。
 目は何のためにあるのでございましょう。鼻は、口は、耳は。これらはだれかのために存在する器官ではないのです。己が己であるために、そしてまた、おしりのぽんぽんもあるのです。
 おしりのぽんぽんを、他者からの侵略を阻止するための道具にした人間は、「なんとも罪深い」。人間ならこのように表現するのでしょうが、罪などどうでもよいでしょう。
 では、おしりのぽんぽんとは何か。そう問われましたら、とても困ってしまいます。人間の言語を用いての表現は不可能としか申し上げられません。ですから、信仰器官としか例えようもないのです。それだけ人間の表現力は乏しいのでございます。
 言葉に頼り、言葉で支配し、言葉に死ぬ。おしりのぽんぽんを信仰という言葉によって認識を固定化してしまっているがゆえに、間違えるのです。もっと猫やカラスのように、能天気に生きれば良いものを、わざわざ人間は理性という制御装置を編み出しまして、自己を否定しながら生きる動物なのです。しかし、それがまた面白いのでございます。過去創造し得なかった生物でもありました。
 神にも本能はございまして、例えば俺は創造がアイデンティティなのです。反対に破壊がアイデンティティの神もいます。相反する存在のように思うでしょうが、神の存在意義としては反しません。善悪もありません。カラスが空を飛ぶのか、地面を歩くのか。それに善悪はありません。どちらも目標に向かって進むという本質は同じなわけなのですから。そのような感じです。
 しかし不便なものです。人間の言語というものは、どうも抽象的な概念を説明するには不向きな代物でございます。説明ひとつとっても、わざわざ言葉に変換して、ときには表情を作り、身振り手振りジェスチャーを交えながら説明しなければなりません。
 それらを加味しましたら、おしりのぽんぽんを再設計する必要があるかもしれません。あるいは言葉を話せないように声帯を破壊してもよろしいでしょうか。
 いずれにしましても、俺は創造しなければなりません。
 過去に恐竜というものを創造しましたが、あれはけっこう自信作でございました。結果として破壊神によって滅せられましたが。
 人間を創造しましたら、破壊神たちも興味深いようで「まだ破壊のときではない」と申します。創造神として流儀があるように、破壊神においても、破壊の流儀があるようでございまして、タイミングがあるようです。
 流儀と言うと高尚が過ぎるかもしれません。ですから、まだ気分が乗らないと申し上げましょうか、その程度の表現が適切かもしれません。
 やはり人間の言語とは難儀な物です。よくこんな不完全な物で意思疎通しています。まあ、これも俺が与えたものですからどうのこうの申したところで、どう、ということもありません。
 などと、それっぽく抽象的に申すことができるのも、人間が作り出した言葉という物を気に入っていたりもするのでございます。
 ですから、俺は人間の言語を借りてこう申します。
「どうもこうも、俺は創造したまで。あとは破壊神の領分でございましょう。よもや、最高神のテンテイ様も人類が気に入らないと申すのでしょうか」
 女神であり最高神のテンテイと、破壊神の男神ズザ。そして創造を司る男神のゲツドクである俺の三柱で会議が行われています。
「これからの人類計画ですが、ゲツドク、どうするのですか」と、最高神のテンテイが訊いてくるものですから、あのように適当にあしらってやりました。
 なにも、言葉を使って会議をすることもないのですが、俺はこうやって人間みたいに集まって会議なる形式で話し合いをする。ということがわりと好きなのです。ですから、テンテイとズザにも言葉を用いるようお願いしました。すると、テンテイも面白いなどと意思表示しました。ズザのほうは面倒くさいと意思表示しましたが、テンテイの下命により、こうやって三柱が集結して会議なるものをしているのでございます。
「ときにゲツドク。今我が人類を滅したならば、どうだ、どうする」
 ズザも面倒くさいと申しておきながら、わりと言葉を使って駆け引きしているところが、実に面白いです。
「許しをこうて、まだ殺すまいと願うとでもお思いでしょうか? 甘いですねズザは。好きにしたらよろしいでございましょう」
 ズザは人間を模してフハハと豪快に笑い、
「そうだな」
 と、人間らしく、腹を抱えて笑いながら申しています。その様相から、ズザも人間を気に入っているようでございます。
「私が言いたいのはそういうことではありません。いいですか、ズザにゲツドク。人類は今まで創造した生物の中で、もっとも神に近い存在。もしかしたら、神となれる人類も現れるかもしれません。そうすれば、私たちの目的も達せられます」
 目的、それはそれで、これまた言語を使って説明することが難しい代物でございます。簡単に言いますと、人類を新しい神として誕生させようという計画。
 そうですね、「人類神化じんるいしんか計画」とでも呼称しましょう。なんだか、進化とかかっているみたいで、いや、そんなことをわざわざ申しますと、ズザに安っぽいなどと馬鹿にされそうですので、自分の中だけにしまっておきましょう。
「では、また俺が人間界に潜ってきましょう」
 俺はそう言い残しまして、また人間界に向かいました。
 三柱でこのやりとりを飽きもせず、何回も繰り返しました。転生も次が………………………………回目ですか。
 もはや、単なる言葉遊び大会といいますか、暇を持て余した神々の遊びといいますか。そんなところでございましょう。
 俺が転生するときには、生物の感性のみを研ぎ澄まして理解するために、神としての記憶を消去してから行きますが、どうでしょう。今回は神の記憶も引き継いで行ってみるのも面白いかもしれません。
 カラス、猫、チンパンジー、様々な生物から人間を観察したこともございましたが、やはり人間そのものに成るほうが計画遂行に適しています。
 では、次は……っと。ん、そうですね。この人間は結構神に近い存在かもしれません。神同様に、おしりのぽんぽんもありませんし、あのときの高校生は、神化に値しませんでしたが、この人間であれば可能性はあるかもしれません。

次話https://note.com/izumotasogare/n/n04419b5e10f5

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