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仕切り直し樗堂一茶両吟/藪越やの巻

     十四

水の雨魚も鳴べき風情にて     樗堂
 燐乱るゝ諏訪の涼風       一茶

初ウ八句、吐露することの尠かった一茶の心象、涼風は夏の季語。

     〇

燐 ヲニビのルビ。「和漢三才図絵」58巻火の部に記事。

乱るゝ 「或聚或散」と。

諏訪の 信州信濃の諏訪

涼風 湖畔には夏のおわりの風が吹く。

     〇

みずのあめ うをもなくべき ふぜいにて

 をにび
  みだるゝ すわの
        すずかぜ

月の定座の空き家、読み筋はどうやら水に火の<向付>だったのですね。(「和漢三才図絵」57巻は水の部、そして58巻が火の部でした)

     〇

鬼火は冬の季語です。だから、仮にこの句を冬だとする人もいるかも知れませんが、それではどこからどうみても無理読みになってしまいます。

なぜなら、厳寒の諏訪湖は氷結します。ときには<御神渡り>と呼ばれる氷の迫出しが見られるなど厳しい自然条件のなかに置かれていたのですから。従って、この句の季語は涼風とした次第です。

     〇

「燐乱るゝ」は一茶独特の表現です。

燃えさかる焔を湖底に鎮め涼しい貌をしていた俳諧師がいた。芭蕉でもなく、蕪村でもなく、身もこころもさらけ出した一茶がそこに立っていたのです。

もとより、横溝正史の小説「鬼火」も、ルイマル監督の「鬼火」なぞ知る由もない、十八世紀末の<歌仙という文藝>のなかでの「ことあげ」だったのです。

31.8.2023.Masafumi.

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